【時計塔編Ⅰ】第 話: △ 確認 名前のみ
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……何故、このメンバー?」
今ここにいるのは、アーシア、瑠乃、呉羽、 、エヴィン、学院の副会長・シエルの六人。
そして、声を発したのは、アーシアであり、ギルドの受付にいる に尋ねたのである。
「仕方ないじゃないですか。皆さん、同じ依頼を受けたいと言うんですから」
「私たちは、説明しましたよね?」
の言葉に、アーシア・瑠乃・呉羽は頷いた。
三人はチームとして登録しているが、個人は個人、チームはチーム、と数えているため、複数人での依頼の場合、アーシアたちは、チームではなく、個人で三人と数えているのだ。
「はい。その後、エヴィンさんやシエルさんたちがいらっしゃり、定員が六名となりましたので、皆様には、合同依頼を受けていただくことになりました」
「でも、定員は五名でしたよね?」
の説明に、呉羽が尋ねる。
「はい。ですが、アーシアさんたちが出ていった後、依頼者から六名に変更と言われましたので……」
は、若干言いにくそうに説明した。
「……わかりました。六人で行きます」
後ろから が声を掛ける。
「ちょっと、勝手に決めないでよ!」
アーシアが言い返す。
「いいじゃん、どちらにしろ私たちもそこに用があるし、人数多い方がいいと思うよ? 誰かを囮にできるし」
「瑠乃……」
その考えは言ってほしくなかった。
一気に空気は重くなった。
「と、とりあえず、皆様さんがこの依頼を受けるということでよろしいですね?」
恐る恐る尋ねる に、アーシアたちは頷いた。
「それでは、代表者を決めてください。一応、その方に手続きをして貰うので」
そう言われ、全員それぞれの顔を見る。
「あ、私と呉羽はダメよ。一応、アーシアとチームに入ってるから」
「私は、代表者になるなとは言ってないけど?」
瑠乃の言葉に、アーシアは呆れたような感じで言う。
「それじゃ、俺たち二人から選んでいいか? なるべくなら学生には任せたくない」
はシエルを見て、そう言った。
「良いですよ。むしろこちらからお願いしたいです」
遠まわしに面倒くさいと告げるようなアーシアの言葉に、二人は苦笑いした。
「わかった。で、どうする?」
「お任せします」
エヴィンに尋ねる に、エヴィンは面倒くさそうに言った。
「お前ら、面倒くさいだけだろ」
はぼそりと呟いた。
☆★☆
数日後、ギルド前に一行は集合した。
「……アーシア、朝からご苦労様」
瑠乃はアーシアの足元を見て、そう言った。
「ああ、私に気にせずに行っていいよ。こいつはギルドに置いていくから」
「ミオ君、アーシアが動きにくそうだから、離してあげてくれないかな……」
アーシアはおそらく足元を見ているであろう面々にそう言ったが、それを見かねたのか、ミオがアーシアの足に寝ぼけながらもしっかりとしがみついていたため、瑠乃が声を掛ける。
「あー、瑠乃さんだー。お久しぶりでーー」
ミオの言葉は、一度切れた。
無論、視線はシエルを捉えていた。
「アーちゃん、どうしても行くって言うなら、僕も行く」
ミオは、はっきりそう言った。
「思いっきり嫌われてますね、副会長♪」
「……お前、何か楽しんでないか?」
瑠乃がそんな様子を見て言うと、シエルは不機嫌そうに言う。
「しょうがないなぁ。先に行っててください。後で追いかけますから」
アーシアはというと、そう言うや否や、ギルドに入っていった。
☆★☆
数分後、一行に追いついたアーシアの元には、ミオの姿はなかった。
だが、その代わりに、あり得ないものがアーシアの肩に居た。
「アーシャ、何ソレ」
尋ねたのは、呉羽だった。
軽く首を傾げるアーシアだが、ああ、と気付いたかのように言う。
「こいつのこと?」
自身の肩に乗っかる猫を差して、アーシアは尋ねる。
「そうだよ」
瑠乃が同意する。
「簡単に言うと、ミオ」
本当に簡単だった。
「ミオって、さっきの男の子? だよね」
エヴィンが尋ねてくる。
「うん。だけど、余りにもしつこいから、この姿で連れてきた」
アーシアがそう言うと、シエルが怒ったかのように言う。
「学生は獣化魔法の使用は禁止なのにか?」
「副会長さえ言わないと約束できれば、問題ありません。瑠乃たちが言うはずもありませんし」
アーシアにそう言われ、シエルは唸った。
ただ、目的地に着くまで、ずっとアーシアの肩の上の猫に睨みつけられていた。
☆★☆
街を出て、二日後に目的地に到着した。
「わぁ、思ってたよりも大きい」
目の前にそびえ立つ時計塔に、みんなの感想は同じだった。
『アーちゃん、この魔力……』
だが、アーシアとミオだけは違った。
実際、感じ取ったミオはアーシアにテレパシーで話しかけている。
時計塔から感じる魔力に、あるものを感じた。
(この魔力は……)
「あれ、何やってるんだ?」
アーシアが回想に入ろうとすると、隣からの声で、引き戻された。
目を向ければ、何人かの男たちが時計塔の壁を見ながら、何かを話していた。
彼らの後ろから見てみれば、暗号なのか、時計塔の壁には文字が並んでいた。
(あ、これは……不用意に解読すると、大変だぞ……)
アーシアとミオが思っていると、瑠乃が小声で聞いてくる。
「シア、もしかして、読めてる?」
アーシアは小さく頷くと、男たちから少し離れたところにいた男に気付き、話し掛けた。
「あの、すみません。あの人たちは何やってるんですか?」
「ん? ああ、みんなこの時計塔にあるこの文字を解読しようとしているんだよ」
男は最初、アーシアを不振そうに見ていたが、親切に教えてくれた。
「文字……ですか?」
アーシアは首を傾げた。
「うん。文字は昔のものらしく、解いたら、地区長が賞金をくれるらしくてな。それで、みんな説くのに必死なんだ」
「はぁ……、ありがとうございました」
男に礼を言い、みんなの元へ戻り、男たちの行動についてアーシアは説明した。
「ふーん。じゃあ、みんな賞金目当てなんだ」
「そういうことだね」
瑠乃の言葉に、呉羽が同意し、続けた。
「あー言うのって、大体不用意に解読すると良いことがないんだよね。だから、解読しない方がいい気がする」
「呉羽の言う通り、あれは解かない方が、この町のためだ」
アーシアも肯定するが、ミオを抱く腕に力が入っていたようで、ミオが『痛いよ』とテレパシーで訴えてきた。
「え、アーシャ解けたの?」
呉羽が驚いたように尋ねる。
「半分だけね。だけど、読み取れたのは、『解読できても口にするな』の一文だけ」
「って、シア。もう口にしてるじゃない」
「あーいうのは、一文だけじゃ効力は出ないから大丈夫」
瑠乃の言葉に、アーシアは言った。
「でも、中には一文だけでも効力を表すものはあるぞ? しかも、これがその類かもしれない。保証なんてないだろ」
「それもそうですが……」
の言葉にアーシアは納得できなさそうに返事をした。
「とりあえず、依頼人の所に行きましょうよ」
シエルがそう促し、一行は依頼者の元へと向かった。
そこで聞いた依頼は二つ。
一つは、時計塔に住むと言われるの化け物の退治。
もう一つは、時計塔の壁にあった文字を、他の挑戦者より先に解読することだった。
「化け物退治と、解読かぁ」
依頼内容を聞き、一行は頭を悩ませた。
一応、退治組と解読組に分かれることにしーー
「解読はシアに任せるとして、エヴィンさんたちは化け物退治の方で良いですよね?」
瑠乃の言葉に、二人は首を縦に振ったが、アーシアが待ったを掛けた。
「何となくだけど、その化け物は、文字を解読しない限り、無理な気がする」
アーシアの言葉に、ミオも頷いた。
「どういうことだ?」
「何というか、文字と化け物って、何か関係がありそうっていうか、その……」
説明しにくそうなアーシアに、聞いたシエルも首を傾げた。
「根拠は?」
「もちろん、勘です」
の問いに、アーシアは言い切った。
「でも、シアの感は外れたことはほとんど無かったもんね」
瑠乃はそう言う。
「どこの世界でも、女の勘は怖いな」
などと、呉羽が呟いていたが、面々は気付かなかった。
☆★☆
その日は、この町の民宿(どっちかというと旅館やホテルに近い)に泊まることになった。
だが、運は相手が神だろうが無かろうが容赦なかった。
二つしかない六人部屋を取るのまではよかった。
だが、どのベッドを使うかで、口論となり、くじ引きで決めることになった。
結果、
①瑠乃
②呉羽
③シエル(副会長)
④エヴィン
⑤
⑥アーシア
となったのである。
結局、残ったベッドに座るアーシアだが、アーシアのベッドは窓に近いのである。
「ちっ、戻ったら呪ってやる、運の奴め」
実際、運はないのだが、運を司る神はいる。遠回しだが、そういうことなのである。
なお、位置は隣は呉羽、正面は瑠乃、斜め前はエヴィンである。
なんだかんだで、用意していたら、夕食の時間になり、一行はレストランに向かった。
が、
「……」
「……」
アーシアと瑠乃は固まった。
居ないはずの人物が居たからである。
「どうした? 二人とも」
固まった二人に疑問を持ち、呉羽は尋ねる。
「呉羽、悪いけど私部屋に戻る」
「わ、私も……」
あからさまに様子が変な二人に気付いた他のメンバーも、不思議そうな顔をした。
「本当に、ごめんなさい!」
そういうと、二人はダッシュで部屋に戻った。
「あれ? 早かったね」
息切れをする二人を見つつ、留守番係のミオはそう告げる。
だが、その声を聞き、アーシアはミオに今まで以上に思いっきり詰め寄った。
「ミオ、緊急事態。落ち着いて聞きなさいよ?」
そういうと、アーシアはミオに対し、先程瑠乃とともに見た光景を、説明した。
「なっ、何だってーーー!」
余りの驚きに、ミオの言い方は普通だった。
二人が見た人物は神の一人だった。
だが、ただの神ではなく、天上界の神々すら鬱陶しく思われている存在であり、瑠乃の場合はこちらの世界に来て、アーシアに召還され、アーシアに神々に紹介される際に、最初に自己紹介したのも彼だった。
アーシアにしてみれば、ミオの迷惑なんか可愛いものである。
ミオにしても、撃退できないことはないのだが、会うのすら嫌なのか、もの凄く嫌そうな表情をしている。
「どうしようか。いつまで居るのか分かればいいんだけど、あいにく、聞きに行きたくない」
瑠乃の心境は、アーシアとミオと重なった。
「とりあえず、夕食はどうしよう」
思わず、勢いで出てきたため、その問題だけが残ってしまった。
☆★☆
「で、事情を説明してもらうぞ」
男性陣が夕食を貰ってきてくれたのか、それを食べた後、呉羽たちに尋ねられた。
「いや、その……今ものすごく会ってはいけない人を見つけたので、逃げ出しました」
ここで嘘を言ったら、怖いと判断した二人は、正直に言った。
(その反動で敬語口調になったのは、許してほしい)
そんなアーシアの言葉を聞き、面々は呆れた。
「それでよく、依頼を受けてきたなぁ」
エヴィンが呆れたように言う。
「何とか見つからないようにしていたから……」
「え? じゃあ、あの時は?」
アーシアの言葉に、呉羽が思い出したかのように言う。
アーシアと瑠乃は互いに顔を合わせる。
「えっと、いつ頃?」
「学院に入ってから」
瑠乃の問いに、呉羽は答えると、アーシアと瑠乃はああ、と言った。
「うん、見つかったら何言われるか分からなかったから、隠れていた。でも、あの時は、事情を説明したはずだけど……?」
首を傾げるアーシアに、呉羽は他に言いたそうにしていたが、言うのは止めたらしい。
「まぁ、事情はわかった。だが、今回は私情を挟んでもらっては困る。俺たちもいるんだからな」
の言葉に、二人は大人しく、うなだれた。