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よほろ軍談記   作者: 鈴木カラス
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第2話 「怒りの歴史」 その3

 ランツクネヒト。帝国語で『国に仕える者』という意味を持つ皇帝直属の白兵戦部隊は、度重なる侵略戦争によって武帝の異名をとったカール四世によって創設された。

 それまでの戦争では戦いごとに王侯貴族たちは各自に傭兵を雇っていたが、その名が表すとおり傭兵たちは基本的に雇用条件次第で誰の配下にでもなる存在であった。戦場ごとに雇い主を変えて戦った傭兵たちも少なくなく、昨日の敵は今日の味方、また今日の味方は明日の敵という実情があった。

 長期的な侵略戦争を計画していたカール四世は、安定した兵力として計算できない傭兵ではなく常備軍の創設を構想。都市部に溢れていた無産階級の若者を集め、騎兵に対抗できる扱いの簡単な武器として当時広まりつつあった斧槍を持たせた歩兵部隊の訓練を開始した。平時は野盗と化す傭兵はもちろんのこと、特権階級の騎士とも違う純粋な職業兵士の誕生であり、後に諸侯たちが私兵部隊を持つ先駆けとなる出来事だった。

 かくして編成された帝国史上初の常備軍であるランツクネヒトたちは、安定した練度と一本化された指揮系統、職業兵士ゆえに農期に関係なく出動できる自由さと、何より指揮するカール四世自身の武将としての優秀さもあって連戦連勝し、その名を轟かせていく。

 基本的に軽装の歩兵であり常に最前線に投入される戦死率の高い部隊ではあったが、危険に比例する高い俸給のせいで志願者はあとを絶たず、やがて帝国領土の拡大と共にその兵員数は最盛期で三〇〇〇人を超えたと言われている。また創設当初は帝国人のみの編成であったが、後にカール四世によって滅ぼされる公国人や、大陸南部の連邦人、少数ではあったが長年敵対関係にあった王国人で構成された小隊もあった。

 しかし最強の白兵戦部隊と恐れられたランツクネヒトであったが、帝国領土の拡大が頭打ちになったカール四世の晩年には戦場そのものの減少によって徐々に活躍の場所を失ってゆき、俸給の遅配が起きるようになる。活躍の陰で、高い俸給のランツクネヒトの存在は戦費を圧迫していたのである。

 カール四世が崩御し、跡を継いだ息子のヨハン二世が前々から患っていた神経症を悪化させて即位後間もなく夭折すると、慌ただしく新皇帝となったカール四世の孫カール五世は、国庫の赤字を理由にランツクネヒトの一時解体を示唆するようになった。この情報をいち早く掴んだローランドは、帝国貴族の血縁を持つ王国の侍従長ミシェイルを通じてランツクネヒトの指揮官の一人フッサールに接触。交渉の末、フッサールと彼の率いる四〇〇名ほどの部隊をシャルル王子の軍勢として引き入れることに成功したのだった。



 一五二三年、ローランドはフッサール率いるランツクネヒト隊の活躍もあってフィリップ第二王子を推す王国南部諸侯の連合軍を決戦の末に撃破すると、ついにシャルル王子より将軍の称号を与えられる。

 ローランドの計画は、新たな段階へ進もうとしていた。

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