第2話 「怒りの歴史」 その1
とある中世。大国同士の大戦を終結させた英雄ローランド将軍は、停戦交渉の最中かつての部下である若き傭兵によって暗殺されるのだった。
大陸暦一五二五年。王国と帝国の二大国間で二六年もの永きにわたって続けられた『大戦』が一応の終結に至った。
『大戦』を終結に導いたのは王国の英雄、ローランド将軍だった。
一五二0年、王国王アンリ二世の急逝に伴い第一王子シャルルと第二王子フィリップとの間に王位継承戦争が勃発した。第一王子シャルルは王妃アンヌの子で、フィリップは公妾ポンパドールの子であり、生まれ順と母親の格から言ってシャルルが次期国王として即位するものと思われていたが、気の強いことで知られるポンパドールは病弱なシャルルに対し容姿秀麗で健康な我が子フィリップこそ王たる資格ありと強硬に継承権を主張。アンリ二世が王太子を定めていなかったこと、神経質で病弱なシャルル王子の人気が無かったこと、そしてポンパドールが出身地でもある南部の諸侯たちと密かに連携を取っていたことが重なり、フィリップ王子派によって不意を突かれたシャルル王子派はあっけなく敗れて王都を追われることになった。
かつて娘がシャルルの乳母になったおかげで成り上がったシャルル派の重鎮で侍従長ミシェイル侯は、中部の名門諸侯であり王家への忠誠厚いナンシー伯カイン=ローレルを頼って落ち延びた。肥沃な土地と精強を誇る私兵団『赤羽の騎士団』を擁するカイン=ローレルは快くシャルル王子を迎え入れ、フィリップ王子派の所業を非難したが、いかんせん王都を奪回する力に不足していた。
そこへある日、顔に青い染料を塗り異国の装束をまとう数十人の私兵を引き連れて、ローランドと名乗る男が現れたのだった。