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よほろ軍談記   作者: 鈴木カラス
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最終話 「聖体拝領」 その7

 半壊したままの礼拝堂や納屋の中から聞こえていた酔いの混ざっただみ声の応酬は、半時前に収まっていた。風すら吹かぬ静寂の宵闇の中で動くのは、(キープ)の前に備えられた一基のかがり火の揺らめきだけ。

その明かりを顔の左半分に受けながら、ファーガスは闇のような色をした双眸で、腐りかけた跳ね橋の先を見つめていた。

 「亡霊どもよ、やって来るがいい。死の剣を(たずさ)え、漆黒の翼を羽ばたかせて」

 フードを目深にかぶり直すと、ファーガスはその口元をわずかにほころばせた。

 「終わらせてやる、何もかも。ここが、お前たちの終焉の地だ」

 一つの風景がある。それはファーガスの網膜に焼き付いているといって過言ではない。地に倒れ伏す血まみれの偉丈夫と、その傍らに膝をついた幼き日の自分。血を分けた兄ガウェインの、敗北した姿とその最期の光景である。

 「北の部族」の次期族長であったはずの兄は、流れ者の男にその座と未来の伴侶(はんりょ)、そして誇りを奪われ、自ら死を選んだ。絶対的な存在であった兄を失ったうえ、仲間だと思った者たちの変節ぶりを目の当たりにしたファーガスは、流れ者の男を恨み、兄の婚約者であった女を憎み、信じていた神と部族を呪い、唯一残った絶望だけを持って郷里を捨てた。そして海峡を渡り、リシャールと名を偽り、自分と同じ根の無いつまらぬ輩との命のやりとりを幾度も経験しながら辿りついた港町で、ギイという王国貴族の側用人(そばようにん)にまで上り詰めたのだった。

 ほどなくして、大戦から派生した二王子による王国内戦が勃発。第一王子であったシャルルが、異母弟である第二王子フィリップに王都を追われたことにより、戦のきな臭さは王都より離れた北西部にまで届き始める。

 北西貴族の領袖(りょうしゅう)たるアランソン公はシャルル王子の外戚であり、北西貴族の多くは親シャルル派である。ゆえに王都でフィリップ王子派が蜂起した際、シャルル王子は最初北西部への亡命を試みたが案の定妨害され、中東部のカイン=ローレルを頼らざるをえなかった。しかし、分断されたとはいえ、北西貴族側は兵ではなく資金面で落ち延びたシャルル王子への支援を開始。商人出身であるギイ男爵が責任者として選任され、その用人であるファーガスが輜重(しちょう)線維持の実任務に就いた。

 それが、かつて祈りを捧げた復讐の女神(スカアハ)からの、ファーガスへの報いの始まりであった。

 王都を追われたシャルル王子の下にはせ参じた者たち――その陣営の中に、ローランドと青母衣衆と称するかつての同胞たち、そして彼らを率いるシャムロックと名を変えた兄の宿敵の姿を、ファーガスは見たのだった。

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