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よほろ軍談記   作者: 鈴木カラス
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最終話 「聖体拝領」 その6

 公国人ランツクネヒトによるローランド暗殺の急報を受けると、フッサールはとっさの判断で近習の者だけを連れ、『旅団』本営を離れた。その直後、『旅団』に所属していたランツクネヒトたちは全員が拘束され、今もなお監視下にあるという。結果としてフッサールの判断は正しかったが、調べれば調べるほど、ローランド暗殺事件には不可解な点があり過ぎた。

 ランツクネヒトが犯人であることから、今では元々皇帝の傭兵であったフッサールがグレゴリを通じて再び裏切ったと言われているが、まずそれが真実でないことを、他でもないフッサール自身が知っている。拘束を逃れるために逐電(ちくでん)したことが、逆に裏切り説に拍車をかけてしまったが、それとて是非もない結果だった。

 それに、ローランドは帝国に心底敵対する公国人たちを重用していたし、フッサールを飛び越して直接ウルリックやクローターら公国人隊長と接触を図っていたこともあった。逆に王国の援助が必要な公国人たちにとっても、帝国と戦うためにローランドは必要不可欠な人物であったはずであり、両者の関係は良好だと、間に入っていたフッサールも感じていた。

 それが何故、そしていつの間に、暗殺という究極の決裂した関係に発展してしまったのか……。

 また、事件後、ローランドに影のごとく付き従っていた青母衣たちが、一人残らず姿を消したという情報も、フッサールには()せなかった。

 ローランドが公国人たちとフッサールを通さない直接の繋がりを持っていたように、フッサールもまた、青母衣の長たるシャムロックと、ローランドを介さずに通じていたからである。

 シャムロックの目的。それをフッサールが知った――正確にはシャムロックから告げられたのは、「旅団」による遠征が開始されてほどなくのころだった。

 第二王子フィリップが即位に必要な宝具を持ったまま王国南部のマルセイユにて抵抗しているものの、帝国との終戦が決まれば、その功績によって第一王子のシャルルが実質的な王国の支配者になる。そうなれば「旅団」の発案者であり帝国遠征における最大の功労者でもあるローランドには、爵位と領地が与えられるのは間違いない。その際に、ローランドを通じてかつて王国に奪われた青母衣たちの故地、その回復を図る――。それがシャムロックから密かに告げられた、彼らの狙いであった。

 ローランドに恩賞が与えられることに異論はないが、新参者で依然宮廷に敵も多い男の要求が通るのか? そして王国に奪われた故地とは?

 そんなフッサールの疑問に対しても、シャムロックは確信を持った顔で手はあると最初の質問に短く答え、二つ目のそれはあたかも聞いていなかったように流したうえで、自分たちの大願が成就したあかつきにはフッサールへの助力を惜しまない、と話した。

 シャルル派の重鎮であるミシェイル侯爵を仲介にして、フッサールが帝国側から寝返った理由は、単純に金目当てであると思われていた。そもそもランツクネヒトは傭兵である。従来の傭兵と若干違うのは、戦争が無い時期でも継続して帝国皇帝に雇われているという点だったが、ランツクネヒトとして名を上げた後、他の貴族から高額報酬で引き抜かれる者は少なからずいたし、それを狙って入隊する没落貴族や下級貴族の子弟もいた。ゆえにシャルル派の人間だけでなく、敵側もまたフッサールの寝返りを特別なことだと思わなかったし、フッサールもあえて周囲にそう思わせていた。

 なのに青母衣の長シャムロックは、金目当ての傭兵隊長に青母衣の目的などを話してくるのか。その時、驚きよりも強い不審を抱いたフッサールはしかし、それが自分への誘導尋問である可能性をも考慮し、あいまいな態度で即答を避けたのだった。単純明快なアランやバリアンたちと違い、ローランドや青母衣たちの素性や思惑をいちいち正確に把握していた自信は、フッサールにはない。心から信頼を置ける者たちとは思っていなかったが、あえて知る必要を感じなかったからである。

 だが、今にして思えば、現状へ至る萌芽は、あの時すでにあったのかもしれない。そうだとしても、今更どうすることもできないのだが……。

 「それと、あと一つ気になることがありまして……」

 後悔を含んだ思案の淵に沈みつつあったフッサールの雰囲気を察するように、ギョームがやや遠慮がちに口を開いた。

 「傭兵らしい旅装の若い男と、女のような顔つきをした少年の二人組が、お館様の行方について探っているとのことです。仮面をつけた騎士を見たことはないかと」

 「すわ、『旅団』の追っ手か!?」

 主君の傍らに控えていたゴットフリーの、緊張を含んだ野太い声が廃屋の中に響いたが、ギョームはわずかに首を(かし)げ、

 「それがどうやら、どちらとも王国人ではないようです。無論、『赤帽子』とも違うようで」

 その時、フッサールの脳裏をある風景がよぎった。難解な判じ(パズル)を解く手がかりが、ふと頭をかすめたように。

 「その者たちに、会ってみるか」

 つぶやくように独り言ち、フッサールはおもむろに腰を上げた。従士たちが息をのむ。独り言のように聞こえた主君のそれは、命令であったからである。

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