第3話 「呪われし者」 その14
「クズグズするな、さっさと歩け!」
松明を片手に持った三人の男たちに怒鳴りつけられながら、手首と腰を縄で縛られ数珠に繋がれた若い女と十代以下の子供の集団が、暗い山道を追い立てられるように進んでいた。数は二〇人弱。三人の男たちはそれぞれ腰に剣をぶら下げ、毛皮を着込んだり騎士風の兜だけをかぶったりといかにも流れ者の傭兵といった風体をしていた。一方、繋がれた女子供たちは皆着の身着のまま、泣き腫らした顔は、乾いた涙の跡と土埃で汚れている。女の中には殴られ鼻や口から血を流している者もいた。
「おい、これからどこに行くんだ?」
先頭を進む髭面の男に、騎士風の兜をかぶった男が尋ねた。
「フランクフルトに行くには南の街道に出ねえと……」
髭面の男は歩みを止め、空いた片手で顎をさすりながら何も無い中空を見つめていたが、ややあって、
「いや、南には行かねぇ」
と呟いた。
「こいつらを大公の所に連れて行くんじゃなかったのか? シルヴィオって奴が言ってたろ」
額に大きな刀傷を付けた前歯の無い男が近寄ってきたが、髭面の男は鼻を鳴らし二人の男に向き直った。
「そのシルヴィオって奴は死んだ。相棒だった大男も。ランツクネヒトに殺されたんだ。バッサリ斬られてな」
空いた片手で手刀を作り、髭面の男は自分の首を軽く二、三度叩いた。
「片目の奴は大男が殺しちまったし、俺らを雇った赤帽子たちは三人とも死んじまった。雇い主が死んじまった以上、命令もクソも無いだろ」
「でも、金貨までもらったのによ……」
前歯の無い男が風体に似合わぬ殊勝な言葉を返したが、髭面の男はその義理堅さを嘲笑うように、
「俺たちは村を襲うために雇われたんだろ? ガキどもを捕まえて城まで連れ帰るなんて話は聞いてねぇ。最初に交わした約束は果たした。契約終了さ。そっから先は別料金をもらわなきゃ」
「じゃあ、こいつらどうするんだ?」
騎士風の兜をかぶった男が横槍を入れ、引き連れている女子供たちを振り返った。
「近くの街で売り飛ばせばいいさ。ある程度の大きさの街なら人買いがいるし、市が立っているはずだ」
「なるほど。そいつは名案だ!」
「まあ、その前にもう少し楽しんでからでも遅くはないけどな」
下卑た笑いを浮かべながら、髭面の男は近くにいた若い娘の顎を汚れた手で掴んだ。抵抗する気力もなく、娘は怯え切った瞳を獣のような男の視線から背けるのが精一杯だった。
「田舎娘の割りには上玉もいるから……」
にやつきながら前歯の無い男が栗毛の娘の体を触ろうと手を伸ばした時であった。鋭い風切り音が鳴り、次の瞬間、鈍い音と共に男の無くした前歯の間から鋭い鏃が飛び出していた。男の口から飛んだ血飛沫が、栗毛の娘の顔にかかる。一拍おいて暗闇に悲鳴が響き、前歯の無い男はその場に膝から崩れ落ちた。
「だ、誰だ!?」
悲鳴が連鎖し、子供たちは身を守るように体を寄せ合ってその場にしゃがみ込む。男二人は慌てた様子で抜剣し、髭面の方が周囲を見回しながら怒鳴った。
「う、うるせぇぞ! し、静かにしろ!」
騎士風の兜をかぶった男が子供たちを一喝した時、その集団の中から一人の子供が立ち上がった。灰色の外套をまとっており、よく見ると縄に繋がれていない。違和感を察した直後、男の腹に鋭い痛みが走った。視線を下ろすと、臍の部分に鈍色の短剣が根元近くまで深々と突き刺さっていた。
「油断しすぎだよ」
焦げ茶色の髪を短く刈り込んだ少年は、短剣を引き抜きながら薄く笑った。左の耳朶に、鮮やかな青玉の耳飾りが輝いている。
「こ、この、ガキ……」
驚きと痛みに二重の衝撃を受けながらも、騎士風の兜をかぶった男は手にした剣を振り上げた。刹那、男の背後にもう一つの小さな人影が現れ、白刃がきらめいた。今度は背後から短剣を突き刺された男は、顔を歪めながら剣を取り落とし、首を後ろに向ける。そこには、右の耳朶に紅玉の耳飾りをつけた焦げ茶色の髪の少年がいた。その顔は、青玉の耳飾りをつけた少年を鏡に映したかのように瓜二つだった。
「隙だらけだよ」
薄笑いを浮かべた双子の少年に前後を挟まれながら、騎士風の兜をかぶった男は絶命した。




