第3話 「呪われし者」 その11
「こいつ!?」
戸口から現れたライヘルトを見て、ハンスが絶句した。数日前、『片目』と共に崖下に落ちていった殺したはずの男が目の前にいて、あの時と同じように仲間を――ほとんど寄せ集めただけの連中ではあったが――打ち倒したのだ。その姿は、ハンスにとってつきまとう疫病神のように忌々しい存在に見えた。
「姉さん、よりによってランツクネヒトを匿うなんて……」
シルヴィオが嘆息をもらした。
「忘れたのかい? こいつらのせいで、僕らは奴隷にされたんじゃないか。十五年前、こいつらが僕らの街を滅ぼして、父さんを殺し、母さんを犯し、僕らをあの変態野郎に売り飛ばした!」
掴まれた腕に力が込められ、ヘルダは顔を顰めて小さく身じろいだ。シルヴィオは依然として射るような目でライヘルトを見据えていた。
「僕はね、姉さん。僕らを弄んだあの豚みたいな変態医者と同じくらい、ランツクネヒトを憎んでいるんだよ。それにこいつらは皇帝の番犬だ。皇帝の兵士は大公様やロズル様にとっても邪魔者じゃないか!」
シルヴィオの言葉を受け流しながら、ライヘルトは右の手首を軽く回した。握られた喧嘩刀の切っ先が小さな弧を描く。久しぶりに人を斬ったが、体はそれほど緊張していなかった。むしろ、軽い興奮を感じていた。
「ヘルダを離して、ここから消えろ」
自分を睨みつけるシルヴィオを見返し、ライヘルトは言い放った。ハンスと、裏手から駆けつけた男が、シルヴィオをちらりと見やった。
するとシルヴィオはライヘルトから視線を外して顔を伏せ、しばらくして肩を震わせ始めた。笑い出したのだ。
「おい、聞いたかハンス? 姉さんを離して俺たちは消えろとさ」
端正な相好を崩してシルヴィオはハンスに声をかけた。対照的に、ハンスは苦虫を噛み潰したような顔をして沈黙していた。
「ね? 分かったでしょ、姉さん。こいつらランツクネヒトはいつだって自分勝手なんだよ。殺すのも、犯すのも、奪うのも――。上の命令に従っているんじゃない。欲望のままに動いているんだ。飢えた狼と同じ、ただの獣さ!」
裏手から戻った男を手招きすると、シルヴィオはヘルダを男に預け、ハンスに向けて顎をしゃくった。軽く頷いたハンスが戦斧を構え直してライヘルトの右側へじりじりと間合いを詰め、シルヴィオが左側へ歩を進める。二ヤード(約一・八メートル)ほどの距離を置いて、ライヘルトは二人に左右を挟まれた。
「大公様のため、邪魔者は全て消す。それが『赤帽子』の仕事だ」




