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よほろ軍談記   作者: 鈴木カラス
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第3話 「呪われし者」 その2

 乳白色のモヤがかかる広い平原。その上空を飛ぶ野生の鷹の目には、霧の隙間から地上に展開する二つの集団が映っていた。

 大陸暦一五二五年、初夏、未明。場所は帝国領ブレーメン郊外。

 帝国領内に侵攻しケルン、ハノーバーと帝国五大公の治める大都市を二つも占領した王国の遠征軍「旅団」に対し、ついに帝国皇帝カール五世は「旅団」討伐の勅命を下す。それ受けたのが北の巨人――血斧けっぷ公の異名を持つハンブルク大公アーバインだった。アーバインは皇帝から預かった五〇〇〇の兵とは別に自ら八〇〇〇の人員を集め、ハノーバー奪回を目指して自領より南下していた。

 これに対し兵力の差からハノーバーでの籠城作戦を選択するかと思われた「旅団」であったが、意外にもわずかな兵をハノーバーに残したまま迎撃のため北上を開始。ついに両者はブレーメン郊外の平原にて会敵したのだった。


 「なるほど。ローランドの情報通りか」

 地平線を埋めるように横長に整列していく敵影を眺めながら、白髪混じりの豊かな髭をたくわえた偉丈夫がつぶやいた。

 すでに両軍は一マイル(約一・六キロメートル)も無い距離を空けて対峙していた。「旅団」は戦闘部隊のみの三〇〇〇人、対するハンブルク大公の軍勢は輜重隊二〇〇〇を含む七〇〇〇人。兵士の数だけでも二倍近い差があった。

 「さて、今回はどうなるかな?」

 背後に控える部下たちに振り返り、髭の偉丈夫は不敵な笑みを浮かべた。その偉丈夫の顔を一度見やり、ライヘルトは視線を前方へと向けた。モヤの先に遠く浮かび上がる黒い影は相変わらず増え続けていた。何も無い平原、倍近い兵数。敵は間違いなく正面から攻撃を仕掛けると同時に、優っている兵数をもって包囲にかかるだろう。対して何ら策も無いような味方の布陣は、はなから負け戦を覚悟しているかのようであった。

 しかし、今回の不利と考えられる野戦を強硬に主張したのは「旅団」の副司令ローランド将軍であり、そのローランドこそが今まで「旅団」を実質的に率いて常勝を続けてきた者である。一見無策に見える布陣もまた、必勝の策があってのことだと「旅団」のほとんどが確信していた。

 「いよいよだなー、ライヘルト」

 傍らにいたアンドレアスの声はやや震えていた。興奮か、恐怖か――。ランツクネヒトたちの正装でもあるつば広の革帽子に差した雉子の羽と、赤と黄色のだんだら模様をした道化師のようなだぶだぶの装束もわずかに揺れていた。

 ライヘルトは無言のまま革帽子を深くかぶり直し、「兎伍長」の由来となった二つ差した白鷺の羽の位置を正した。目を瞑り、剣の柄を強く握る。深く息を吸い、かすかな音を立てながら少しつづ吐き出していく。心臓の鼓動が徐々に早まっていくのが分かった。

 ゆっくりと目を開けると、モヤの合間から射し込む朝日の筋が何本も見えた。霧が晴れようとしている。髭の偉丈夫がゆっくりとした、それでいて隙のない動作で剣を抜いた。間もなく開戦となるはずだ。

 『絶対に生き残ってみせる!』

 心の中でライヘルトはつぶやいた。いつものように。

 そこへ誰かの低い含み笑いが耳に届いた。

 『生き残って、何をするんだ?』

 瞬間、ライヘルトの周囲から光が消えた。白みかがった空も、初夏の緑があふれる大地も、赤と黄色の装束に身を固めたランツクネヒトの一団も、そして前方にいた黒い敵影も――。

 『生き残って、どうする?』

 ハッとなって振り返ったライヘルトの眼前に、短剣を喉に突き刺したまま血まみれで笑うアンドレアスの姿があった。

 『どこに行くんだ? 親友まで殺して』

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