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よほろ軍談記   作者: 鈴木カラス
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第2話 「怒りの歴史」 その5

 国内の戦いが終わらぬうちに外国へ遠征するというローランドの提案は、当然のことながら諸将の猛反対にあった。中には気が狂ったとまで言い放つ者もいたほどである。しかしローランドは平然と遠征作戦の意味を説いた。王都と聖都市ランスを抑えながら宝具をフィリップ王子派に奪われてシャルル王子が新王として即位できぬ今だからこそ、帝国へ進撃するべきだと。

 ローランドの言い分はこうであった。

 力づくで宝具を奪い返すには広大な南部へ大軍を派兵しなければならない。それには当然今まで以上に先立つもの――つまり金が必要になる。莫大な資金を投じて勝利を収めても、土地が荒廃し疲弊した民衆が溢れてしまっては意味がない。内戦は得られるものが少なく、長期化するほど国土を蝕む。ただでさえ長きに渡る戦で人々はうんざりしており、今彼らが切実に欲しているのは正統な王より平和と安定した生活である。逆に言えば、それを与えることができた者を自然と自分たちの王者と認めるであろう、と。

 不遜な発言であった。功績はあるとは言え、ローランドは成り上がりの新参者という立場を完全に抜け出ていない。それに民衆の支持という言葉も悪かった。王侯貴族たちにとって人とは自分たちと同じ身分の者か、せいぜい騎士の位を持つ階級までを指す。平民や農奴などは領地や荘園の付属品であり、人の形をしたモノという価値観しかなかったからだ。文武両道で知られ高潔な騎士と呼ばれて民衆からの人気も高いナンシー伯カイン=ローレルですら、飽くまで自領の民は保護すべき対象とは考えていたが自分と同様の人間だとは思っていなかった。

 ローランドの意見は全く賛同を得られず、成り上がり者もついにここまでかと思われた。しかし、そうはならなかった。直後、まさにローランドが指摘したことが起きたのだ。

 とある王家直轄領の小さな都市が課税と軍役に反抗して民衆が蜂起し、代官を追放したのである。さらにその都市は自治を宣言した。蜂起を指揮したのは代官の下で都市の行政を補佐する参事会員と周辺の土豪たち。つまり貴族たちが人として見ていない平民たちの反乱だったのだ。

 反乱はすぐさま鎮圧され首謀者たちは処刑されたが、シャルル王子派陣営が受けた衝撃は非常に大きかった。所有物に過ぎないモノと思っていた存在が支配者に対して公然と刃を向け、独立を叫ぶとは。

 衝撃の波が引ききらぬうちに、ローランドはさらに付け加えた。「すでに人心の乖離は始まっています。これは氷山の一角に過ぎない。民衆の心を離さぬためにも荒廃の根を絶たねば」と。

 「戦を終わらせ民草に繁栄を与えれば、宝具は自ずと殿下のお手元へやってきましょう」 

 


 大陸暦一五二三年、晩秋。徴用した民兵や帝国に滅ぼされた公国人らで編成された遠征軍『旅団』は、シャルル王子派の大諸侯でル・マン公の長子レンヌ伯アランを指揮官とし、ローランドを副司令として王都を出発。東へと進軍を開始したのであった。

 なお後に歴史家たちによる研究によれば、この時の小都市反乱事件はローランドが直属の配下である青母衣あおほろたちを暗躍させて仕組んだ疑いがあると言われているが、真相は定かではない。

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