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思わぬ事態

「・・・では、作戦を発表させていただきます」


昨日と同じく森に集合した一同はケェーナを除きなぜか正座をしていた。


手近に椅子代わりの物が無かったことが一つ目。


ケェーナの機嫌が悪いということが二つ目の理由だ。


なにせケェーナは、あの後、夜中まで作戦を考えていたのだ。


おかげで今日は遅刻までしてしまった。


寝不足と遅刻の負い目でイライラしているのだった。


「まず、リシェアが囮となり、敵をおびき寄せます。この場合、武器の携帯はしないでください。」


「(・・・どっかで聞いたような作戦ね・・・。)何でよ?」


「ハンターだとばれてしまい、餌にならなくなります。」


「・・・じゃあどうすんのよ。」


「カイトに近くに待機してもらい、危なくなったら助けてもらってください。貴女の役目は囮として所定の位置まで敵をおびき寄せることですから。」


ここでダークが口を挟んだ。


「じゃあさ、僕がリシェアの武器を持ってるのはだめなの?」


「ばれないなら構いませんが・・・。どうなんですか?」


「・・・んー、分かんない。そうなるとナハトが持ってたらいいのかな?リシェアだって戦いたいでしょ?」


「そうね、戦力にも数えてもらいたいわね?」


「・・・最後まで話しを聞きなさい。ナハトには足止めに全力を出してもらいますのでそれは無理です。その代わり私が持っていますから、カイトとナハトが足止めしている間に装備してください。」


「・・・もし、それでおびき出されなかったら?」


それまでずっと聞き手だったナハトが口を開いた。


「その時はまた別の手を考えましょう。ただ・・・たぶん、確実に引っかかると思われます。」


「そうね、それに関してはあたしも同意見だわ。ヴァンパイアはあたしたちをうざったく思ってるはずだし。」


「では、何か質問は?」


最後にケェーナが一同に聞くが、誰も異存は無いらしく首を振る。


作戦の決行は夜中とし、一時解散となった。



「・・・。」


夜の森に入るのは二回目だが、回数など関係なく怖いなとリシェアは思った。


服装はいつもの動きやすい服の上に、ケェーナが借りてきた村の娘の標準的な格好をしている。


近くにダークが居るとはいえ、自分が中級のヴァンパイア相手にどこまで逃げることが出来るか少々心配だった。


そんなことをつらつらと考えながら森の中で迷った振りをしていると突然周囲に霧が漂い始める。


その霧はリシェアの前方1メートルの空間に集まる。


やがてそれは壮年の男性の姿をとる。


言わずもがなヴァンパイアである。


「ようやく出てきやがったわね。」


「ククククク・・・。逃げたければ逃げるがいい。どうせ我が手の内からは抜け出せまい・・・。」


「ずいぶんと余裕ね?」


「貴様らのような下等になぞすぐに追いつける。せいぜいあがいて楽しませろ。」


嫌悪感に眉をひそめたが何も言い返さず、黙って仲間たちと合流するためにリシェアは走った。



森の中、二つの影が幾度と無く交差していた。


片方は見知らぬ男。


もう一方はリシェアの近くに居たはずのダークだった。


「貴様のようなまがい物がここまで生きながらえているとは驚きだな!いったいどんな卑怯な手を使ったのだ?」


男がダークに問いかける。


だが、何も語らぬまま、茨を操り、男を貫こうとする。


しかし、男の操る蔓に弾かれた。


「目的はなに?」


ダークがようやく口を開く。


男は嗤った。


「貴様を殺すことだ。見せしめにするためにな。」


「くッ」


いきなり地中から蔦が飛び出しダークを貫こうとする。


辛うじて身をひねり回避する。


バランスを崩し倒れるが、勢いをそのまま地を転がり距離をとる。


「風の娘たちよ!我が意に応じたまえ!―|ヴィントケッテ(風の鎖)!」


「クククッ。結局貴様はソレ(・・)に頼るしかないだろうなぁ!」


精霊魔法を唱えたダークを男は嘲笑う。


ダークは屈辱感を歯を食いしばって耐えるしかない。


そうして、ダークが機を見て逃げるまで、ヴァンパイア達のワルツは続いた。



リシェアの銃を手に持つケェーナと、常時周囲を警戒しているナハトは、虫や鳥が鳴かなくなったことに敏感に気が付いた。


「ナハト、ヴァンパイアの気配はどうですか?」


ケェーナに問いかけられたナハトは、困惑顔で返す。


「中級と思しき気配が一匹。今まで居たはずのカイトさんの気配がおぼろになったので、おそらく上級のヴァンパイアが出現したと考えるのが妥当かと。」


「まずいですね・・・。」


ことが動いている以上、今更やめることは出来ない。


状況が悪くなっていることを悟ったケェーナは、なんとか切り抜ける方法はないかと思案している。


「!リシェアが近づいてきている。同時に中級もだ。どうする?」


「・・・とりあえず、当初の予定通り、中級を始末しましょう。カイトの方は・・・大丈夫だと信じるしかありませんね。」


「了解。」


しばらくすると、がさがさと草を掻き分け息を切らしたリシェアが二人の前に現れた。


彼女を追っていたヴァンパイアも3人の頭上の木に着地した。


「さあ、貴女の武器です。休んでいる暇はありませんよ。」


「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ。ひ・・・人・・・事、ぜぇ、だとっ・・・思ってッ。」


全速力で走ってきたリシェアはケェーナに銃を渡されはしたものの、息を整えるために構える余裕など無かった。


そのため、この会話が中級と思しきヴァンパイアには余裕の表れと取れたらしい。


下等だと思っている人間共が己の目の前で構えもしないので、いたく気分を害したようだった。


逆にナハトの方は、このヴァンパイアが自分と同じリッターで、植物を操るほどの魔力が無いということを見切っていた。


「大人しくしてくれれば教会で生かす方向も考えなくも無いが・・・。どうする?」


無駄だと知りつつナハトは問うた。


対して中級ヴァンパイアは鼻で笑った。


「ふんっ。下等生物に下った貴様ごとき、我が僕としてくれる。」


「・・・そうか。では・・・死ねッ!」


突如、中級ヴァンパイアが足場にしていた木が本来ならありえぬ挙動を見せた。


うねり、絡みつき、貫こうと動物のように蠢いた。


が、中級ヴァンパイアは霧状になることで難なく回避して見せた。


改めて地面に着地した中級ヴァンパイアを、今度は聖銀の弾が襲った。


リシェアは先ほどとは逆に、木の上に上り照準を合わせている。


今度はその弾丸を、魔力で作った壁をリシェアが居るほうに展開することで防ぐ。


中級ヴァンパイアがリシェアに気をとられている間に背後に回りこみ、呪文を放つ。


「我等が敬愛せし神よ、我等を助けたまえ。闇に堕ちし者に汝が祝福を。|クララフィケーション(浄化)!」


下級のヴァンパイアなら一撃でしとめられるはずの攻撃も、無傷とは言わないまでも凌いだこのヴァンパイアはリッターの称号に恥じぬ強さだった。


ナハトはまだまだ大丈夫だったが、リシェアもケェーナも人間だ。


特に全力で魔法を放ったケェーナは既に息が上がっていたし、リシェアにしても、慣れない服装に慣れない場所で全力で走ったため、少なからず体力を消耗していた。


対してこのヴァンパイアは、まだまだ十分余裕があるようだった。


ヴァンパイアは、同じ階級同士が争うとき、厳格なルールを元に争う。


それは、力の差があまりにも少ないために、ほとんどの場合、相打ちとなるからだった。


ナハトは、己の生還を優先するか、目の前の同族を相打ち覚悟で殺すか迷っていた。


「クククク・・・。所詮はこの程度か。お前、我が同族であろう?我が主に下れ。さすれば命は助けてやろう・・・。」


中級ヴァンパイアがいきなり、ナハトに妙な誘いを掛ける。


「お前の主だと?・・・まさかッ!カイトさんと引き離すのが狙いだったのか!?」


「そうだ。クックククククッ。今更気づいても、もう遅い。あきらめることだなぁ。」


ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべた目の前のヴァンパイアに、ナハトは返事の変わりに魔法を放った。


「|フランメ(炎)」


短縮詠唱で発動された炎は、周りの草木を巻き込んでヴァンパイアを燃やした。


「まだまだ若いな?」


すぐ耳元で声が響いた。


バッとナハトは振り向くが、そこには誰も居ない。


「まあいい。お前は二の次だ。先に本命を果たさせてもらおう。」


今度は辺り一帯で声がした。


「何をするつもりだ!?」


「見ていれば分かる・・・。」


霧が三人の周囲を包む。


ナハトは、視界が悪い中見えていた。


目の前で、リシェアの首筋に牙を突き立てるヴァンパイアの姿が。


「リシェアッ!!」


「・・・えっ?」


呆然とした表情で見返してくるリシェア。


ナハトは、ただ見ていることしか出来なかった。

今回はバトルが多いですね。


逆に読みにくいかもしれません。


それ以上にちゃんと戦闘シーンが伝わっているでしょうか・・・。


不安ですねぇ。

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