嵐の前の静けさ
*文章とかちょっと変えました~。
「よかったのか?まがりなりにもこの問題を解決できると判断されて送られてきた『協会』のハンターだぞ?もめるとまずいんじゃないか?」
リシェアに嫌味を言ってそのまま教会の中に入ってしまったケェーナに少し心配そうに話しかけたのはナハトだ。
対するケェーナは不機嫌顔でいきなり怒鳴った。
「うるさいですよ!言われなくても分かっています!貴方は引き続きヴァンパイアの反応を探りなさい!こうしてる間にまた犠牲者を出してしまったら教会から別の人間が送られてきてしまいます!」
言うだけ言って教会の部屋に引き上げてしまった。
残されたナハトは肩をすくめ、命令されたことを遂行するために教会の裏口から出て行った。
一方、教会の外に取り残されたリシェアは憤慨していた。
「なんなのよ!あの女!これだから教会の頭の固い連中は!・・・まったく・・・。よし!こういうときは切り替えよ!とりあえず聞き込みからね。がんばるぞー。おー」
傍から見れば一人で、おー、とか言っているのはかなり奇妙だったがそんなこと気にせずに早速聞き込みをしに村の中心部に向かうのだった。
小さな村ゆえ半日とかからずに聞き込みは終わり、時刻は夕方近かった。
村には宿屋などという気の利いたものは無かったのでリシェアは空き家を貸してもらうことになった。
「うー。せっかく聞き込みしたのに目撃情報ナシってどーゆーことよ・・・」
目撃情報というのはハンターにとってはもっとも大事な情報だ。
『狩り』の対象がどこに居るか分からなければ仕事ができないからだ。
だからこそ困っていた。
仕事ができないのは死活問題なのだ。
しかもこのままいけば自分を囮にするか、昼間に会った教会の人間に協力してもらわなくてはならない。
リシェアもそれは嫌だった。
「どーしよー。このまんまだとあの頑固頭に聞くしかないじゃない・・・。でもなぁ・・・。今まではって何なのよー」
リシェアは聞き込みの結果を頭の中で整理しながらうんうんうなってる。
ちなみに聞き込みの内容の大半は見たこと無い。
ついで多いのは被害者の身内の話。
しかも大半は関係ない。
村長のみまともな話だったがなにやら不穏だった。
「うー。しょうがない・・・。頑固頭に聞こう・・・」
次の日の朝、リシェアは教会の前に居た。
理由はもちろん情報を聞くためだ。
だが、ここに来て尻込みしていた。
つっぱねられる可能性についてもんもんと悩んでいたからだ。
どれぐらい悩んでいたかといえば、ナハトが後ろに居るのに気がつかないくらい悩んでいた。
「あー、協会のハンターの。どうした、こんなとこで」
びくぅっ
といきなりナハトから声をかけられたリシェアはオーバー気味に飛び上がって驚いた。
「なななななな、なによ!いいいいい、居ちゃ悪いわけ!?」
「えっ、いや、そういうわけじゃ・・・。ただ、さっきからずっとここでうんうん唸ってるからさぁ」
ナハトは慌てて弁解する。
するとリシェアが何かに気が付いたように巻くしたてる。
「い、いったい何時からここに・・・。いや、そんなことよりあんた!そういえばあの頑固頭のそばに居たわよね」
「あ、ああ。確かにケェーナのそばに居たが。それが何か?」
あまりの剣幕に、ナハトは少々引きながら返す。
「へー、頑固頭はケェーナって言うのね。そういえばあんたの名前は?」
「ナハトだ」
「じゃあ、ナハト。ヴァンパイアの居場所知らない?」
「いや。まだ調査中で・・・」
「手掛かりすらないわけ?そんなはず無いわよね。あたしより先に来てたんだし」
「・・・あー、その・・・これ以上はケェーナに聞いてもらえないだろうか。これ以上はちょっと・・・」
そう言うとナハトは教会の扉を開けてリシェアを招き入れた。
ケェーナはその朝、苛立っていた。
何にではない。
何もかもにだ。
部屋のベットの寝心地の悪さに苛立ち。
食事の出来の悪さに苛立ち。
使えない下僕に苛立ち。
何より『協会』のハンターのリシェアに苛立っていた。
だから、ナハトがリシェアを連れて部屋に入ってきたときに、思わず。
神の力を行使してしまった。
「きゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「うおあ!」
いきなり派手な轟音と白い波動を放つ魔法を撃たれたナハトとリシェアはもちろん驚いた。
しかし、経験と勘とその他色々と駆使して飛びのいた。
「ちっ」
ケェーナははずれて思わず舌打ちした。
「舌打ちしてんじゃないわよ!!殺す気!?」
「まったくだ!ケェーナ、あなたはどういうつもりでこんなことを!」
「残念ですね。そのまま死ねばよかったのに・・・。」
食って掛かるリシェアとナハトをジロリと睨んでケェーナは毒を吐いた。
「何かご用でしょうか?見てのとおり私は今ものすごく機嫌が悪いのです。守銭奴とも役立たずとも話す気はありません」
「や、役立たず・・・」
役立たずのレッテルを貼られ、ナハトは一人落ち込む。
が、女二人は見向きもせずに言い合いをはじめる。
「こっちだって頑固頭と会話なんて死ぬほど嫌よ!でも、この村の村長の様子がおかしいからあんたたちに聞くしかなくなったのよ」
ケェーナは態度を硬化させたまま、きつい口調で訪ねる。
「村長の様子が?なぜ分かるのです?」
「『協会』のハンターはね、敵の居場所を探るとこから始めんのよ。だから聞き込みしたわけ。ま、大半は意味の無い証言だけど。でもここまで要領を得ないのは初めてよ。そっちも手詰まりなんじゃないの?だからね?情報交換しましょうよ。ね?」
リシェアはこの時、なるべく穏やかな物言いになるように気を付けて話した。
そのおかげかケェーナも少し考えるそぶりをした。
何か思うところがあるのだろう。
ややあってケェーナは口を開いた。
「・・・そうね、確かに手詰まりですね。癪に障るけど仕事をさっさと終えるために妥協して差し上げましょう。ですが、まずはそちらの見解を聞かせていただきましょうか?先に持ちかけてきたのはそちらですからね。」
実に尊大な言い方だった。
きっと図星だったのだろう。
リシェアは苛立ちをなだめ、言葉を紡ぐ。
「・・・まあ、いいわ。言いだしっぺは率先してやらなくちゃだし・・・。まず一つ、念頭においてもらいたいことがあるわ。原則としてヴァンパイアは縄張りから動かず群れることが無いということ。」
その言葉にケェーナが首をかしげた。
「ヴァンパイアが群れない?ありえませんね、そんなこと。教会の報告書には二体同時に出現したという報告もあります。そもそも、その情報は確かなのですか?所詮は守銭奴の集まりに過ぎない貴女たちが・・・。」
「あーもう。守銭奴云々は置いとくとして!原則としてって言ったし。なにより!これは協会の人間が長いことかかって集めた情報の結晶よ。大抵のハンターは獲物の習性を覚えてから『狩り』に行くの。間違ってたら今頃死者続出でしょうね?」
リシェアに反論しようと口を開きかけたケェーナを遮ってリシェアは言葉を続けた。
「んで!話を戻すと、この原則が当てはまるのは高位のヴァンパイアだけなの。縄張りを持つのは高位のものの特権ってことね。だから下級ヴァンパイアは群れるし転々と移動しながら人を襲うの。今回は縄張りを持った高位のヴァンパイアが居るにもかかわらずどうやら下級がうろついて手当たり次第襲ってるみたいなの。」
「そう思う根拠は?」
「村長が言ったのよ。《今まではこんなこと無かったのに。何年かに一度村の娘を出せばよかったのに・・・》って。つまり、もともと居たヴァンパイアはここに定住するという選択が出来るくらい高位で尚且つ静かな生活を望んでるみたいなのよね。できれば高位の方を刺激せずに下級を『狩り』たいところだけど・・・。」
「なんですって?村長がそんなことを?そもそも、高位のヴァンパイアとやらを見逃すのですか!?信じられません・・・。」
自分では考えたことの無いような、あまりの暴論にケェーナはめまいを覚える。
そんなケェーナにリシェアはしれっと暴論を重ねる。
「依頼は襲ってくるヴァンパイアの『狩り』だもの。それ以外のことなんて知らないわ。」
「はあ・・・。まあ、所詮は協会ということですか・・・。・・・しかし、貴女の見解は辻褄が合うようですね。それで、聞きたいことは何でしょうか?」
あきらめ顔でケェーナが聞いてくる。
リシェアは待ってましたとばかりに笑顔で口を開く。
「そうそう!それで聞きたいのは下級ヴァンパイアと高位のヴァンパイアの居場所よ!わかんないならおびき寄せ作戦に協力してもらうけど」
「大っ変残念ながらこちらでも分かっていません。ですが、作戦に協力するのは了承しかねます」
「なんでよ」
リシェアは一転、むっとして低い声になる。
「こちらにはこちらの都合があるからです」
「手っ取り早く被害を抑えられるのに?」
「くっ。それは・・・」
図星をつかれ、言葉に詰まる。
「囮やるのは私。それならいいでしょ?」
「あなたが?見たところヴァンパイアを殺せそうな武器はありませんが?」
ケェーナの言うとおり目立った武器は無い。
腰につってある二丁の銃以外は。
リシェアはその二丁のうち一丁をケェーナに見せながら言う。
「これこそが私の『狩り』の道具よ。装弾数はそれぞれ八発づつ。聖銀でできた弾丸よ。ま、弾代は馬鹿にならないけどね。」
こころなしか、自慢げだ。
「それがいったいどれほど役に立つのやら・・・。まあ、どうしてもと言うのなら協力して差し上げましょう。」
「じゃあ決まりね!」
偉そうな言い方をされたことよりも、交渉が成立したことのほうがうれしいらしい。
ガッツポーズまでしている。
ケェーナは、いまだ落ち込んでいるナハトに見もせずにチョップをいれつつ、リシェアにどん引きするという器用なことをしている。
その日の夜に、早速作戦が決行されることになった。
リシェアが囮になり、夜目が利くというナハトが監視をし、ケェーナは待ち伏せをすることになった。
しかし、時刻は真夜中。
自分から言い出したこととはいえ、森の闇に気を飲まれ、少し恐怖していた。
虫の鳴き声も、獣の息ずく気配すらもしない静かな森は、あまりにも不自然だった。
森全体に恐怖が支配をしているかのように・・・。
いかがだったでしょうか。
二日連続投稿ってきついですねー。
しかも昨日より分量多いです。
がんばったぜ・・・。