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信じない

 タナトスのにやりとしながら僕を見つめてくるその赤い瞳は、人間を越えるほどに知的で、獣を越えるほどに野生的だった。縦に細長い瞳孔が、まるで整っていないぼさぼさの髪の毛の間を掻き分けている。

「それにしても、お前は鈍感というかなんというか……。お前に色々と教えてやらねばならぬ事を伝えにわざわざやってきたというのに、あの出来事自体を信じてないとは、それ以前の問題だな。まあ、そんな人間の方が、我としてはある意味退屈せずにいられるのかも知れぬが……」

「いや、あんな突拍子もない出来事、突然信じろっていうのが」

 ずい。

 タナトスが顔を近づけてくる。僕を見つめていた瞳が、僕を睨み付ける瞳に変わった。目を細めて、じとり。

「ではお前は、自分がその目で見たモノも信じず、自分の身に起きた事も信じず、一体何を信じるというのだ? 一般論か?」

 バカバカしい。最後にそう吐き捨て、タナトスは洗面台からふわりと飛び降りる。身体に巻かれた鎖が、ぢゃらり。

「これから話す事を信じるも信じまいもお前の自由だ。時間もあまりないのでな、簡潔に教えてやろう」

 そう言いながらタナトスは、鎖の一部を身体からほどき、手で千切りきった。するとその鎖は瞬く間に、死神にお似合いの大きな鎌の形、あの時僕を斬った鎌の形に、変わった。

「まずは、だな」

 タナトスはその鎌の刃を深々と自らの胸に突き刺した。

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