【第6話】夢
ほうら、夢オチだった。
見慣れた自分の部屋の天井を、目覚めた僕は見ていた。カーテンの隙間から、日差し。デジタル時計が示すのは、いつもの起床時間。あ……だけど今日は休日か。そう思いながら再び布団を被る。
眠い……疲れてる。だからあんな夢を見たんだろうか。全く、僕の頭の中は一体どれだけファンタジーなんだ。楽しかったからいいけど、背中を斬られるのはいい気分じゃ――
がばりとベッドから飛び起きた。寝ぼけ頭のまま、何かに駆り立てられるように急いで洗面所の鏡の前に立ち、着ているシャツを脱ぎ、背中を覗き込むように見た。なで肩の貧弱な体つき。白い肌。傷はどこにもない。手のひらを見てもいたって正常、見慣れた身体。
「そりゃ、そうか……」
はぁ、ため息をついて蛇口を捻ると出てくる水道水。とりあえず顔を洗ってさっぱりしよう。夢なんて、時間が経てば案外忘れていくモノなんだ。僕は無味乾燥な生活音に顔を浸し濡らす。少しだけ意識がはっきりと澄んできた。タオルで水滴を拭き取り、鏡を見る。
「お前は寿命が少ないというのによくもまあそんなに呑気にいられるな……」
「う……わ!?」
鏡に写るその姿。赤い髪、赤いぼろ布、鎖。僕の後ろにいるのは、夢に出てきた――
死神タナトス。
「だから、夢でないと言っておろう。いい加減現実を受け入れたらどうだ」
タナトスは僕をじと、と見上げている。
「いや……だって、傷は」
「我が斬ったのはお前の魂だ。お前の姿を形作る魂の表面を裂いて、お前の本体を抜き出したのだ。それに……傷などなくとも」
我がここにいる事が、何よりの証明になるだろう?
タナトスはふわりと洗面台に飛び乗り、尖った紅い爪をした幼げな手で僕の頬をなぞった。




