【第4話】狼人トリーヴ
意識がはっきりしない。タナトスの声、夕焼けこやけ、全てが上の空の中にある。まるで夢の中、自分の姿を背後から見ているかのように。しかし、これは自分の身体である事は、何となく分かる。それはそうだ、魂で分からなかったら、一体どこで分かろうというのだろう。
ゼーレを縛る鎖に亀裂が走ったのを僕は見た。
そしてぼうっと、自分を改めて見てみる。この姿はいわゆる「狼人間」のようなそれだが、よくよく見ると狼のそれとは違う所がいくつかある。
ゼーレがもがいて鎖を今にも引きちぎろうとしているのが、よく見える。不思議と焦りはない。怖くもなんともない。
人間に酷似した骨格に、獣の青い毛並み。頭から背中にかけて、髪の毛のように垂れ下がっているのは純白の毛並み。しかし腕には毛がなく、すらりとした筋肉質なそれの先端には鋭い爪のある4本の指。肩には肩当てのように毛並みが密集している。尻尾だけはなぜか半透明で、自分の手で持ってみてもその感触はあまり感じられない。そして、身体全体を覆っているのかもしくは身体から放たれているのか、蛍のように淡く青白い光が僕から発せられている。
そこまで見た瞬間、ゼーレが鎖を解き放ち、タナトスへと一気に駆けた。口を開け、覗かせるその牙で獲物を貫こうとする。しかし、ゼーレにはそれができなかった。
「できるわけがなかろう」
タナトスが言い終わる前に、僕の腕はいとも簡単にその赤い身体の中心をやすやすと貫いていた。
そこに僕の意思はない。勝手に身体が動いていた。
楽しい楽しい束の間の夢のように。




