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【第3話】魂合(リンク)

 何も見えない。

 背中を切り裂かれた痛みはなぜかほとんど感じられず、代わりに溶けるような脱力感。感覚も鈍い。地面に突っ伏しているはずなのに、その感触は一体どこに行った?

「お前はこの世界の住人だろう。霊体になろうとも実体を持つのはそこまで難しい事ではない」

 タナトスの声が右から左へ抜けていく。事態は呑みこめないまま、何をされるのかも分からないまま、ただ暗闇でふわふわ浮かんだ感覚。暖かくも寒くも、丁度よくもない。何もない。また、喋れない。

「お前の寿命を伸ばす手伝いをしてやる。だから、お前も我に従え」

 むんずと背中の辺りを掴まれた感覚。けれど背中がどこにあるのかはよく分からない。手も足も頭もない、ただ背中だけがぽつん、そしてがっしりと。そして引っ張られる。どこからどこへか分からないまま、変わる事のない暗闇一色の景色の中。


 そして僕は“生まれた”。


 闇の中から突然光の下に僕は引きずり出された。とは言ってももう日の落ちかけた琥珀色の世界だったけれど。

 タナトスが夕日を浴びながら僕を覗き込み、ほくそ笑んでいる。

「やはり……上質な魂だ」

 そう言われて僕は自分の姿を見ようとしたが、なぜか自分の身体を目視する事ができなかった。手も足も見えない。妙な、まるで透明人間になったかのような。

「くはは、自分の姿が見えるわけがなかろう。お前は今、魂なのだから。我はお前の身体から魂を背中から引きずり出したからな。私の目にはお前の純な光がよく見える」

 魂。

 よく分からない。ない頭が痛い。ない歯が痒い。琥珀色の空も周りの家も、もやもやぼやぼや、霞んでしまってよく見えない。そしてあのゼーレの姿も、またもやのようになっていた。はっきりと見えるのは……僕を手で鷲掴みしているタナトスだけだ。人間が幽霊をはっきり見る事ができないように、幽霊もこの世界をはっきり見る事はできないのか。

「まあ、お前にはまだわけが分からないだろう。心配するな、案ずるな。我がお前に力を貸そう。あのゼーレを打ち倒し、お前の寿命を伸ばしてやる」

 そう言うとタナトスは僕を切り裂いた鎌で――自らの身体を切り裂いた。血は出ない、がその大きな傷口から光の粒、結晶が吹き出した。そして自分の体内に腕を突っ込み、かき回し、そしてハンドボール大の光の玉みたいなモノを取り出す。

「我の、死神の魂の一部だ。これが、お前に力を与える」

 そう言ってタナトスは身体の前で僕の魂と自分の魂を近づけた。まばゆく、柔らかく、重みのない輝きの集まり。

 いきなりその光が口を開け、荒々しく僕を喰らった。


 ずたずたに噛まれ千切らればらばらになっていく、そして取り込まれる、死神の魂に、僕の光、魂、そのものがちりぢりに、そして混ざり合って1つに、吸収されつつ同化しつつ、融合されつつ一体化しつつ、そして姿を成していく、形を得ていく、生まれ変わるように、さなぎから羽化するように、感覚が戻ってくる、皮膚、匂い、視界、音、全てがはっきりとしてくる、そして僕が、僕が意識の隅へと追いやられていく。


「久しぶりにその姿を見たぞ、トリーヴ」

 タナトスの目の前に立っていたのは、青い毛並みに覆われ左耳には3つの輪が繋がったピアスを付けた、2本足で立つ狼のような存在だった。

「さあ、あのゼーレを喰らうがいい」

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