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【第2話】死神

 その赤い死神はそのもやに向かって身体に巻き付けている鎖の先端を投げた。身体を縛る鎖が減り、ぼろぼろの布の穴や破れ目が更に増え広がる。しかしどの穴からも純白の肌が顔を出していた。この布切れしか、身に纏っていない、のか……?

 もやの中に入った鎖が、同じようにかすみだした。と、同時に僕の手足を貫いていた鎖が唐突に僕の身体から抜けた。金縛りも解けたようで、僕は勢いで前方に飛ばされ地面に叩きつけられた。呻く。声も出せた。

 逃げよう。

 とは、なぜか思えなかった。


 ――お前の寿命は残り1日だ。


 突然現れた少女……に見えるそれは確かにそう言った。そして今、目の前で起きているあり得ない出来事。ここから逃げ出しても、嫌な予感がする。逃げたくても、もはや選択肢はないのだ。

 もやが、少しずつ僕の視界ではっきりとした形を成しだした。しかしそれは依然半透明で、そしてまた僕の目に非現実を映す。

 鎖で両手を縛られ引きずられるように姿を表したそれの姿は、あまりに、あまりに。

 赤い肌。背中に虫のような羽根。剣山のような牙。竜のような頭部。鋭い鱗の尻尾がアスファルトを削る。

「これはまた……面白い“ゼーレ”が釣れたものだな」

 ニヤリと笑う口元から、尖った八重歯が覗く。

「あ、あの……」

「なんだお前は。我は死神タナトスと名乗っただろう。お前も我に話しかけるのならまず名乗れ」

 そう言ってタナトスはじろりと目を細め、睨むように僕の方に振り向きつつ言った。その声は少女のようで少年のようでもあり、そして年を重ねた威圧のようなモノも含んでいた。

「あ……僕は、一二三ひふみ 零央奈れおなと言います……」

「で、何だ?」

「これは……何ですか?」

「これは何? ……くはは、決まっている。お前の魂を喰らおうとしたゼーレ、人間の言う幽霊みたいなモノだ」

 ちら、と僕はそのゼーレを見る。感情のない瞳で、こちらをただ喰い入るように見つめている。

「これ……どうするのですか?」

「どうする、だと? 私にはどうしようもできないが?」

 にやりとした顔を傾けながら、楽しそうにタナトスは続ける。

「こいつは実体化した。だから、お前の目にも姿がはっきり見えるだろう? 私の力は霊体には効果的だが、あいにくこの世界では真価を発揮できない。だから……」

 ぽつりと。

「お前の魂を使わせてもらう事にする」

 言い終わる頃にはタナトスの姿は僕の背後にあって。手には、死神にお似合いの鎌があり。

 振り向く間もなく、僕は死神に背中を切り裂かれた。

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