序章 退霊師「鬼童見凪」
こんにちは、水城色葉です。
まずは、お手に取ってくださりありがとうございます。
本作は、私が初めて書いた小説です。
誤字や言葉が拙い場合がございます。温かい目で見てくださると嬉しいです。
本作は私の好きをこれでもかと押し詰めた作品になっています。
分かりにくい箇所などがあればアドバイスをいただけると嬉しいです。
気に入ってくだされば幸いです。
「鬼童 見凪様」
薄暗い夜の依頼屋の中で初老の店主が名を呼ぶ。
酒場になっている店内に座る白銀の槍を背負った長い黒髪の女性が立ち上がった。
丈の短い和を基調とした服に、緩く結われた黒髪。
薄暗い店内でもその光を失わない月のような槍が似合うのは、綺麗な顔立ちに凛とした雰囲気を纏っているからだろう。
コツコツとブーツの足音と槍につけた鈴の音を夜の店内に響かせ、店主のいるカウンターへと近づいた。
「レヴナントの群れの討伐報酬です」
店主がカウンターにそっと封筒を置くと、見凪はそれに手を伸ばし懐へしまう。
そのまま出口の方へ踵を返した。
だが、依頼屋を出ようとした見凪の行く手にフラフラとおぼつかない足取りで一人の大柄な男性が席を立つやいなや見凪を見下ろし口を開く。
「おいおい、こんな夜に女が一人とは使えなくて団体を追い出されでもしたのか?」
言葉を発する口からはどぎつい酒の匂いが漂い、明らかに酔っているようだった。
見凪は無表情のまま自分より上にある男の顔を見つめる。
「ち、ちょっと旦那!飲み過ぎですよ!…その人は一人で二級退霊師になった、鬼童さんですよ!あ、すんません!」
大男が飲んでいた席の隣にいた部下のような男がぎょっとした目で慌てて止めに入った。
だが、酔った大男は止まらない。
二級と聞いても動じずにその目は見凪を完全に舐めているようだった。
「二級だ〜?ソロで二級のやつなんて聞いたことねぇな!ましてやこんな嬢ちゃんがなんて笑わせる
さては色目でも使ったのか?」
部下の制止も聞かず、ずいっと見凪に近づく、その周りの客にピリついた空気が漂っているとも知らずに。
「その上等な槍も誰かにねだったんだろ、うちの団体は野郎ばっかでよ、俺の女になるってんなら正真正銘の二級を持つ俺の団、【闘牛団】に入れてやるよ」
周りの客も見て見ぬふり。
二級の大男に関わりたくない者、女一人が自分より上の階級なことを快く思わない者、心情は様々だ。
「ちょ、ちょ!旦那!やばいですって!」
普段ならまず止めるはずの店主は様子を伺っている。大男が二級で手が出せないから?
いや、違う──
「ッぷはぁ、話は終わった?おっさん だったらどいてくんない?酒臭くてたまんないんだけど」
「はぁ?」
相手が、鬼童見凪だからだ──
「ま、まさかずっと黙ってたのって、息止めてたんですか?!」
大男の部下が見凪の方を向き、焦り顔が驚きに変わって問いかける。
「えぇ、だってこいつ酒の匂いがきついんだもん」
そう言いながら見凪は、自分の鼻と口元を覆うように手を置き、顔をややしかめた。
綺麗な顔立ちではあれど、飾りっ気のない発言に子供のような口調。
さっきまでのピリついた空気は見凪が口を開いた瞬間に消え、店内のそこらからクスクスと笑いを堪えるような音が聞こえた。部下の男も苦笑いだった。
そんな中一人、さっきまでうるさかった声の持ち主が俯き、肩を震わす。
「な、なんだとぉ?!調子に乗るなよアバズレ女!
俺様をコケにしたこと後悔させてやんぞ!オラァ!」
見凪の反応に怒りに震えた大男は、顔を真っ赤にして大声と共に、見凪に太い右手を大きく振り上げた。
さっきまで笑っていた客の顔がこわばり、いまだに手で鼻を覆っていた見凪の目が鋭くなったのは、ほんの一瞬、気付いたものは極々僅かだった。
ドゴォーーーン!
大男の挙げられた腕が勢いよく見凪めがけて振り下ろされた。
けたたましい音が響き、砂埃が舞い上がった。
その拳の下には、その音に似つかわしいほど無惨な傷を負った、床板があった。
「な?!」
ひと足先に自分の拳を認知した男が見凪の姿を探るため、顔をあげようとした瞬間。
──チリーン──
不思議と耳触りのいい鈴の音。
その音が鳴ると手に槍を握った見凪は、大男の後ろに立っていた。
ドサッという音と共に大男が自らの手で破壊した床に沈み込んだ。
砂埃が収まり、他の客が見たのは倒れた男の後ろに立ち、見下ろす見凪の姿だった。
「だ、旦那!だいじょぶっすか!」
視界が回復した部下の男が倒れた大男の横に膝をつき、呼びかける。
「気絶してるだけだ お前ら本当に二級か?酔ってるったってもう少し強いかと期待したんだけどなぁ」
見凪は、良くも悪くも煽りや悪意的な感情は一切ない言葉と共に肩を落とす。心から残念がっているのが見て取れるほどに。
その様子に部下の男も周りにいた客達もほとんどが呆然と見凪を見ていた。
「そんじゃ、私は用事があるんで」
軽く片手を上げ、しょぼくれていた顔を子供のような微笑みに変え、阻まれた通路を再び進む。
無音になった店内に見凪が引いたドアについた鐘だけがチリンチリーンと音を響かせた。
皆が呆然と見凪を見る中、他とは違う視線もまた、見凪を追っていた。
見凪が去った店内はざわざわと客達の声が飛び交う。
「あれが…ソロで二級になった人の力か…」
「何が起こった?お前見えたか?」
そんな会話を遮ったのは、カウンターにいた店主だった。
「見凪様はここ最近で依頼を受け始め、驚異的な速度で二級まで上がった方です 相手が悪かったですね」
周りにいた大男の部下も苦笑いしながらぺこぺこと謝っていた。
「知っての通り、階級は団体人数には反映されない 一定の基準で結果だけを評価する」
本来、一人でするにはリスクが高すぎる職業のため組まれた評価基準だ。
例えるならば、ある者は団体を組み、協力して百点を取った。
そしてある者はたった一人で百点を取った。
だが、それを結果だけを見て評価し、同じ百点とする、ということになる。
「そのためほとんどが団体に所属し、大人数で依頼を受け、その度に階級基準は上がる」
店主は自分の眼鏡をくいと上げながら、倒れた男の前に立ち、部下達に目を向ける。
「一人と大人数では結果に差が出てしまうのは必然 ですが、見凪様はその必然を覆してしまうほどの強さを持っている」
店主は部下達に向けた目をゆっくりと下におろし、先ほど見凪が気絶させた団長を見る。
「数十人の男達を従え、幾年もかけて二級のあなた方では、かないませんよ」
部下の中から固唾を飲むようなゴクッという音が聞こえた。
そして店主は顔を上げ、再び部下の男達を見る。
「それはそうと、この床とお休みになっている団長さん、どうなさいますか?」
紳士の笑みを浮かべる店主からは、片づけよと言わんばかりの圧が感じ取られる。
退霊師は、依頼屋から仕事を受ける。
そのため店主には頭が上がらない。下手をすれば職をなくす危険があるからだ。
男の部下達は、その圧を感じ取り、背筋をシャキッと伸ばし「はい!!」と口を揃えて返事をした。
店主が話し終え、店内の清掃具を取りに行くため店の奥へと足先を向けた。
「この霊共が巣食う世の中には良い薬になりますよ」
振り返らずにそう語る店主の言葉は、そこにいた他の退霊師達に重くのしかかる様だった。
皆が一層ざわめき出したため、客席にいた二人が店を出たことには誰も気が付かなかった。
読んでいただき、ありがとうございました!
初めてきちんと書き始めたのですが、少しでも形になっていたでしょうか?
この物語はまだまだ序盤も序盤なので、どんどん連載していけたらなと思います!
あらすじや本文などで少しでも興味を持っていただけたなら、また手に取っていただけたら嬉しいです。




