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第十五話 バッドエンド
暗がりの中、咳を一回。数秒置いて、もう三回。身体が上下する度、骨の音がギシギシと響く。
どうにか治まれと、苦しさを水で流し込む。息を整えて、十秒。咳の波は止まった。また始まったときの為に冷蔵庫から一つペットボトルを取り出し、ベッドに戻る。ベッドの上には、写真が散らばっている。
ひとつは、「入学式」と書かれた看板の前に立つ母子の写真。またひとつは、「卒業式」という看板の前で仲良く肩を組む青年二人の写真。
そしてもうひとつは、古びた旅館と大きな桜の木。それは色褪せていない。
「花取楓」
君への未練も、沢山の言葉を帯びて、綺麗に完成した。終わりはハッピーエンドじゃない、バットエンドだ。
ヒロインも主人公も死ぬ、愛を伝えられずに。自分の望みを物語の中だけでも実現しても良かったが、それは僕の美学に反する。
ノンフィクションのありのままの物語。僕は最後の言葉を頭の中でなぞった。達成感に包まれ、心がふわっと軽くなる。
差し込む月明り、僕の影も随分細くなった。
心地良い眠気が襲い、僕は目を閉じた。
目を瞑り、じんわりとした視界の中、意識を手放した。
桜は散っている。
十一月二十日土曜日、夜十一時。
僕は、もう目覚めなかった。




