最終話 ゲーセン、深夜
ゲーセンは快適だ、一人でいることに言い訳がいらない。そのうえこのゲーセンにはカップルや親子連れは少ない。
型落ち筐体を狙ってマニアが集い電子音が途切れることなく鳴り続ける、賑やかな無人島だ。
その無人島に彼女は流れ着いた。俺だけが見つけた宝物だ。つり目の奥二重、茶髪のお姫様だ。
柚葉は来るだろうか。また、俺に格ゲーを習いに来るだろうか。昨日、別れた時、俺たちは幸せだった。
環境問題、景観問題、市民派市長の決断、慎重な再検討。運動家どもの拍手喝采。
「あなた、お休みの日にも行ってらしたのに、残念だわ。」
「お流れも無きにしもあらず、の案件だったからな。一応、現地確認はしておく流儀だ。」
上の者たちのブレが下の者にとってはとてつもなく大きなブレになる。それを分かっているのか。
「一部には担保物件もあってね。前にさ、駿遠の後輩から聞いたんだけどな。あいつらも市からの補償金をあてにしていたみたいだ、金貸しも大変だよ。」
「完全にお流れ?」
「いや、市長のポーズだけかもよ。推進派もいることだし。まあ、2、3年は手つかずだろうな。」
担保物件、債務不履行、裁判所による競売。高校生だってネットで調べればその後が分かる。手元に残る金さえあれば。
「立ち退きの人達はひとまずホッと出来るわね。」
「そうだなーこの際、店たたむことも考えているところもあったけどな。公社が県営住宅を斡旋するとか言ってけど、それはそれでお流れさ。」
コイツらこんな話しかしねえ。
「、、飯の時に仕事の話すんなよ!家で会社の話していいのかよ!!」
「あら?反抗期?高1じゃ遅いわね〜」
「おーい、出掛けるのか?」
「ゲーセンだ!悪いか!!」
時計の針は午後23時を回る。あとしばらくで暦は進み、長かった高1の夏休みは終わる。明日からは学校が再開する。
茶髪の女子高生、いないか、、柚葉はもう来ないのか。この街からいなくなるのか?
比留多の座る筐体の向こうに誰かが座り、比留多に対戦を求めてくる。
まさか、ゆ、柚葉か?柚葉だろ?ゆずは!
対戦開始音と同期する俺の心臓の鼓動。
比留多は50円を急いで突っ込み、対戦に応じる。あ、対戦キャラはいつものヤツだ。女の子なのに何故にムエタイ戦士を?
よぉし、待ってろー教えてやるよ、新しいコマンド技を!
、、強い、完敗だ。
柚葉、じゃないな。。
対戦相手の筐体から顔が出てきて、こちらを覗いている。あご髭をたくわえた少し不良っぽい若い男だ。茶髪の女子高生ではなかった。
「おう、もう一戦。」
「、、、 俺、もう終わっちゃたんで。」
「?何言っとんじゃ?」
広島弁のその男は優しく笑いながら言う。
「アーケードは金入れたらコンティニューできるけん、お前は何も終わっとらんよ。」
わし、プロ目指してるけん、てごうしてぇや。そう言って広島弁の男は顔をひっ込めた。
ゲームは未だ終わっていない。
勇気、か。比留多は50円を握った。




