第3話 県立美術館、正午
ゆずは。
あのヤンキーは柚葉、という名前らしい。小生は恭介也と自己紹介したがショウセイ?え、自分は、ってこと?アハハ変なヤツーと笑われてしまった。
女の子を前にして無駄に露呈する己のイタさとオタクぶり。嗚呼、このまま死んでしまいたい。
清水のガソリンスタンドで偶然に柚葉と再会したその日の夕方、まさかとは思ったが例のゲーセンに彼女はやって来た。
格ゲーが上手くなりたい、教えて欲しいと筐体に50円を積む柚葉。頼まれた比留多は柚葉の横に並びプレイを教えた。そしてその翌日も柚葉は夕暮れ時に現れ、比留多に教えを乞うた。
そしてその翌日のこと、画面をジッと見つめながら柚葉が唐突に言った。
「ねえ、アンタ、美術館とか行ったことある?」
「ある也が、、なにゆえ?」
「夏休みの課題。アタシ工業高校のデザイン科に通ってんの、親が手に職ってね。」
提出物を出さないと奨学金がヤバくなるわけ、と柚葉はため息をつく。金もないくせにゲーセンに突っ込んでさ!と自虐ギャグ。
そして、どっかいいとこ知ってる?アタシのツレってそういうのと無縁な人間ばっかだからさぁ、ほんっと分かんないの、と困り顔の柚葉は比留多に肩を寄せる。
突如の僥倖に比留多の過緊張状態は瞬時にしてピークに達しハフハフと呼吸が乱れ、おそろしく早口になる。オタク族に共通した例の生理反応だ。
懸命にスマホを弄る比留多。デザイン科の彼女に役立つ、そして自分の趣味のよい選択が際立つイベントはないか?比留多の指先がマッハを刻む。
その懸命な様子を不思議そうに上目遣いで見つめる柚葉。これが可愛くて気になって、いよいよ検索が迷走する比留多。そして探すこと約10分ー
「じゃ、じゃこれにしよう!県立美術館で今やっているバウハウス展。」
「えーなになに?ばうはうす?アンタ、知ってんの?詳しいの?」
「しょ、小生は詳しいという程ではない也が、まあ、機能美というものは理にかなっているというか、デコレーションを排除したところに」
「わかった!うん、わかったよ!よし決まりね、ばうはうす?に行こう〜」
柚葉は悪戯っぽく笑って比留多の演説を遮り、両手で彼の肩をポンポンと叩きながらその尽力を労ってみせた。
ま、まさか、これって、、所謂デートかも。グループ交際に毛が生えた程度の経験しかない比留多にとって、女子との初のマンツーマン外出だ。
い、否。こんなヤンキー娘にしょ、小生がデート云々とか言って舞い上がる?あり得ない、アリエナイザーだッ。高1の夏休み、ゲーセン通いだけではない、自分探しを文学に求めることにした小生。何が悲しくてヤンキーと、、
「?どうしたの?一緒に行ってくンないの?アタシ、ああいう所ちょっと苦手なんだけどなぁー」
「い、行く也。ご案内する也よ。ひ、人助けですから。」
そうそう!人助け、アザッース!そう明るく笑ってみせた柚葉。
そして翌日、草薙の県立美術館前に現れた彼女はパッと見は別人のようだった。大人しめのドット柄の白ワンピースに黄色のカーディガンを羽織っている。可愛い、、、
書類でも入れているのか、肩からさげたカーキのトートバックも含めてカラーバランスは品が良く比留多は彼女のもう一つの顔を見たような気がした。
つづく




