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第1話 ゲーセン、夕暮れ時に

 快適だ。ゲーセンは快適だ。狂ったように暑い今年の夏もゲーセンに入れば天国だ。こんな街外れのゲーセンでも空調は完全稼働、外気とはまるで別世界のよう。


 そう、別世界だ。全てがバーチャルなこの空間は俺を日常から切り離してくれる、そして独りにしてくれる少し混雑した、無人島だ。


 それぞれの筐体が奏でる無機的な電子音が俺の来店を歓迎している。もちろん、人の声もする、いや正確には合成されたキャラの声だ。そして爆音や激突音、投げ倒した音に殴り飛ばした音。


 賑やかな店内に人間の声は聞こえない。エレメカ目当ての子連れ客やバカップルなんてこの店にはほとんど来ない。型落ちの筐体がある場末のゲーセンには陽キャやその眷属?などがやって来るはずがない。


 だから好きなんだ、ここが。このゲーセンが。俺はここでローバト*を続けるよ。


*ローバト 本作中の架空の格闘ゲームの略称


 俺のゲイルがコマンド技を決めたその時、筐体の群れが放つ無機的な音と音の僅かな隙間に「楓」が割り込んできた。スピッツの、だ。懐メロだ、俺の好きな。


 ゲーセンでスピッツ?なんとなく違和感を感じながら空耳かと思った、何かの聞き間違いかとも思ったけど。

 

 でもそれはホンモノで、それは鼻歌だった。小さくも確かにリズムを刻むラララだった。そしてそれが彼女だったんだ。いや「彼女」と知ったのは対戦の後だけど。


 対戦を挑まれた俺は簡単に二本先取し、バトルはあっさり終わった。が、相手はすぐさま50円を投入。そう、そろそろ新作の投入が噂されるこのシリーズをこのゲーセンは出血価格で提供しているんだ。


 3回か4回か。対戦を繰り返した後、筐体の向こう側からひょこりと顔を出したのは女の子だった、俺と同世代のおそらく女子高生、、、ヤンキーだった。


 明るい色の茶髪は肩まであり、日焼けした額と頬が健康的に見えた。俺が彼女をヤンキーと断じたのは細身のジャージで上下を揃えていたことと独特の押しの強さからだった。


「お兄さん!ゲーム上手いね〜ちょっと教えてくんない?」


 細く書いた眉の下でつり目の奥二重がニッコリ微笑んでいた。


つづく

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