第20話 成敗してやりました
泣き腫らしたおっさんズは完全に味方についてくれた。
「お嬢様、性根の腐ったバカ共をぶん殴ってくるぜ!」
「団長、待って。これは私の復讐だし、パパ様は知っていて放置していたのだと思う」
「え……?」
「これしきのことを自力でどうにかできない奴が、女公爵なんて務まると思う?」
おそらくパパ様は私が泣きつくかこのままでいると思ったのだろう。その場合はガイアスを公爵とし、私は公爵夫人とするつもりで。
今回私に公爵代理の権限を残したのは『自力で処理しろ』ということ。
パパ様はきっと、私を信じて託したのだ。
「お嬢様……」
「だから、今回だけは見守ってほしいの。私は自分の力で戦うわ」
「は、はい!見守らせていただきます!」
「うん、だから料理長は包丁しまっといてね」
彼は私をよく可愛がってくれていたので特に怒り心頭なのだろう。素振りしないで頼むから!包丁は食材だけ切るものだからね?!
「チッ……おい、該当者教えとけよ。そいつは必要最低限の量しかメシ出さねぇ」
聞こえてるわよぉ……?気持ちは嬉しいしその程度なら可愛いものだからいいけど……これからここで食事を摂れるかしらね。
「そういえば、団長は誰かから聞いてきたの?」
「ああ、お嬢様の部屋に若い騎士が行ったと聞いて念のため……そいつはどうなったんですか?」
「お嬢様に大変無礼な態度で改める様子もなかったので、牢屋に入れました」
いい笑顔だわ、ララ。
「騎士団長様は、下の者にどういったご指導をなされておいでで?ノックもなくお嬢様の部屋に来ましたよ?乱暴にドアを開けて……」
「うう……面目ない……」
その通りなんだけど、また団長がまた号泣したら困るのは私だからそのぐらいにしておいてね、リリ。
幸い目線で2人は察したらしい。本当にデキるメイドさん達だわ。
「とりあえず……3人が居ると馬鹿共が尻尾を出さないから、ここに隠れててくれる?」
ドレスルームはカーテンで仕切っているから声もよく聞こえるだろう。
そしてタイミングよく副団長が駆け込んできた。あ、危なかった〜〜〜!!どいつもこいつもノックしないで入るなっての!
「お嬢様!困りますよ、公爵様がいないからと好き放題なさっては!」
「……私が何をしたと言うの?」
「気に入らないからと使用人と騎士を牢に閉じ込めるなど……!」
「違うわ」
「……は?」
「違うと言ったの。気に入らないのではなく、明確な罪があったからこそ閉じ込めた。部下が部下なら上司も上司ね。今公爵の代理はこの私。いつまで突っ立っているつもり?ひざまずきなさい!!」
「ぐっ………申し訳、ございません……」
悔しそうに埋めきながらも副団長が膝をつく。そして、困惑しているようだ。
魔力コントロールができるようになり、1つ変わったところがある。以前よりずっと、怒りを抑えられるようになった。今までの私であれば怒りに任せて喚き散らすだけだったが、今はイラついてはいるものの冷静に考えて話すことができる。
「侍女は私の奴隷を殺そうとした。お母様の遺品を盗んだ容疑があった。当然の結果だわ」
「ど、奴隷ごときのために?!」
「私の奴隷に手を出したのよ?たまたま本人の能力が高かったから死ななかっただけ。しかも、まともに働きもしないで毎日お茶を飲んでいたじゃない。いい機会だから解雇しようとも思って、ね」
「………は?」
ニッコリと微笑む。
「だって、仕事なんてしていないじゃない。役に立たない給料泥棒だもの。いらないわ。私を馬鹿にする騎士も……全部いらない」
炎が部屋に広がる。燃やさないように気をつけながら退路を防ぐ。
「ねえ、お前の妻……侍女にお母様の遺品を横流ししていたらしいわ」
副団長の妻とは、メイド長のこと。
「このことをお父様が知ったら……どうなるかしらね?貴方も甘い蜜を吸っていたんでしょう?ソレが毒だと知りながら。楽に、死ねるといいわね」
パパ様がソレを知ったらどうなるか……。副団長は泣きそうな顔で懇願してきた。
「あ、わ、私が間違っておりました!!い、命だけはどうか……!」
「ふぅん……?それからお前、私が不義の子とか言ってたっけ?」
「そ、それは……」
「どうせお前達の主は公爵になれない。正統な後継者ではなく、どこの馬の骨ともしれない男の子供だ。俺の女になれば救ってやろう……だっけ?」
男が顔面蒼白になった。これは、コイツがメイドのララに言ったセリフだ。ララは聞こえないふりをして逃げたらしいが、めっちゃ怒ってた。
「お嬢様!わ、私が間違っておりました!」
「残念ね、私は本当にお父様の子供なの。そうよね、イフリート」
炎が形を成して人に代わる。イフリート、なんだか顔が怖くね??
「我のご主人様をいじめた……許さん。骨すら残さず燃やし尽くして」
「やめなさい」
かる〜くイフリートを叩く。そっか、お前も怒ってくれるのね。嬉しいけど燃やすんじゃない。
「なんでだ、ご主人様。燃やしたい」
「後でね。アリス、捕縛して牢に入れといて」
全焼は不可だが、ちょっと焦がすぐらいなら許可する。
「は〜い」
なんか、アリスの捕縛……手際が良くなってるな〜。
「自殺防止とうるさいから猿轡をかませてね」
「は〜い。きっちりやりますよぉ……!」
ララとリリが副団長の前に立った。
「残念でしたね。奴隷に落ちようとも、私達はお前のような下衆に屈しない」
「我らの主はお嬢様。我らの主を侮辱しておいて楽に死ねると思うなよ。地の果てまでも追い詰め、噛み殺してくれる。貴様は獲物だ。狼の狩りを思い知るがいい」
「ララ、リリ、どういうこと……?」
2人が顔を見合わせ、困ったように笑う。
「我々が奴隷落ちした原因がこの男なのです……」
「ララに手を出そうとしたのでカッとなって……」
お、おう……。つまり因縁の相手だったと。
「我々に愛人になれと……」
「我々って、まさかララ、リリ、ルル、レレ、ロロの全員?!」
私のメイドさん達は五つ子で、冗談みたいだがラ行縛りである。後で聞いて改名したかったのかなってちょっと思った。多産の獣人はそんなもんらしい。
「え」
そしてリリは知らなかったらしく顔を引きつらせた。逆に私は腑に落ちた。わりと人当たりも良く上手くかわすタイプのララが軽率に手を出すとは思えなかったから。それに、ベン達を止めなかったのにも違和感があった。そういうことだったのね。
「殺す……!」
「イフリート、やっていいわよ!」
「おう!」
指を鳴らした瞬間、副団長の毛が爆発してこんがり焼けた。そう、毛という毛を燃やしてやった。頭髪どころか、脇毛や胸毛、下の毛、鼻毛まで。皮膚ごと燃やしたから、二度と生えてこないだろう。
「熱い熱い熱い!!」
転げる愚かな男を足蹴にして私のメイド達に微笑む。
「ララ、リリ、聞きなさい。お前達がこの程度の男のために手を汚すことはないわ」
「「お嬢様ぁ………!」」
「お前達は私のモノよ。私は私のモノに手を出す輩を許さない!いいわね!!よく覚えておきなさい!!」
「「お嬢様ぁぁっ………!」」
なんで奴隷兵士達まで尻尾ブンブンしてるの……?まあいいや。
「さて、このままメインディッシュといきましょうか!今夜でケリをつけるわよ!」
「うちのお嬢様、イケメンだわぁ……。コレは惚れる」
アリスティードのつぶやきが聞こえた。
いや、ここはいきなり人を燃やすなんてとドン引きするところでは……?と思ったがまあ……皆気にしてないみたいなので特にツッコまなかった。獣人の感覚は人族とは違うのかもしれない。




