第19話 聞くほうが涙したお話
とりあえずひと仕事終えたので、のんびりディナーを食べてまったりした。う〜ん……騎士かメイド長が苦情を言いに来るかと思ってたけど来ない。勝手に地下牢使ったのに気がつかないとか職務怠慢じゃね?
それにしても、シェフ達は執事長の管轄でよかった。流石にメシマズはしんどいからね。
紅茶を飲んでいたら、騎士が部屋に怒鳴り込んで来た。アリスがすぐ対応できるよう私の前に出る。やっと来たか。
「お嬢様!侍女達をいきなり牢に閉じ込めるなど……どういうおつもりですか!」
「お前こそ、どういうつもり?いきなりノックもなく淑女の部屋に入るなど、不敬だわ」
「あ、も、申し訳ございません。ですが、何故いきなり侍女達を牢に閉じ込めたのですか!」
「……何故?」
確か侍女の誰かと恋人だったな、この騎士。下位貴族の3男だったか。
「そ、そうです!」
「何故私がわざわざお前に理由を言わなければならないの?私は公爵令嬢。お父様がいない今、最高権力者よ。お前、お父様にも同じことをするのね?」
「そ、れは……」
「失礼にもほどがある。お前達、こいつを部屋から出して。話す価値もないわ」
「はっ!」
屈強な奴隷兵士たちにより引きずり出され、抵抗するので一緒に牢へ入れてやった。聞きたいのなら、侍女達から聞けばいいわ。
まあ、どうせ侍女達は自分にとって都合いいように捏造するだろう。そもそもあの騎士は私の話なんて聞く気もなかっただろうから、ちょうどいいわ。
「お嬢様、どういうことですか!」
今度はフレア騎士団の団長が来た。団長は真面目だし嫌いじゃないのでちゃんと相手をしてやろう。
「だって……いきなり私を悪者にするのだもの」
「な、なんと……お嬢様、わしに話してください!」
「実はね、今までずっと騎士団の人達から嫌われていじめられていたの」
まあ、きっかけはあの侍女に軽いやけどをさせたこと。その時止めようとした騎士達にもやけどをさせた。ソレは悪かったけど、そもそも彼らは私が魔力暴走しただけと決めつけて怪我をさせた理由を聞くこともなかった。
「なんと……!」
「パパ様や団長の前ではちゃんとしていたの。だけど、私はパパ様の子供ではない。不義の子供だ。だから後継者にもなれないと言われて……」
「お嬢様!何故わしに話してくださらなかったのですか?!」
「だって………もし本当にそうだったら怖かったから。今ならわかるわ。イフリートを使えるのは正統な血統の者だけだもの。私は間違いなくパパ様の子供よ。だけど当時は……私の両親はどちらも鮮やかな赤色の髪なのに、この中途半端な髪色が不義の子の証のような気がしていて……」
「お嬢様………なんてことだ……」
パパ様のことも団長のことも、ママ様も信頼している。でも、私自身が私の出生を信じられなかった。それに言ったことがないわけではない。耐えられなくて話したが、私の癇癪で片付けられてしまったこともある。だから口をつぐんだ。
「それに、ガイアスが教えてくれた。私の髪はたくさんの属性を使えるからこの色なんだって」
「おお、そうだったのですね!わしに言ってくだされば、母君がどれほど父君を愛していたか語りましたぞ!不義の子などととんでもない!わしがそんな事を言う輩はぶん殴ります!」
「ほんと?団長と遠征に行った騎士以外、ほぼ全員なんだけど」
「証拠もございます」
「奴隷紋でご命令くだされば証言可能です。さらに、いつのタイミングか、何を言ったかを仔細に書いたノートもございます!ああ、ようやくあの身の程知らずの騎士どもに一矢報いることができるのですね!」
「どうどうどう。落ち着きなさい………団長?」
「うおおおおおおおん!俺のせいでお嬢様があああ!!うおおおおおおおおおおおお!!!」
団長が号泣している。
「何の騒ぎですかな…………」
「待って待って待って!帰らないで、じい!!」
執事長が騒ぎを聞きつけ騎士団長の号泣を見た途端リターンしようとした。厄介事の気配を察知し回避しようとしたのだろうが、そうはいかん!お願いだから助けて!!
「仕方ありませんなぁ……おい、そこの筋肉!お嬢様がお困りだ!泣きやめ!」
筋肉(笑)
え、待って。じい、騎士団長の事筋肉って呼んでるの?
「おお、スチュアート……ぐしゅっ。仕方ねぇんだよ!お前もお嬢様の話を聞いたら涙が止まらなくなるに決まってらぁ!!」
「ええ……」
「………お嬢様、話とは?」
とりあえず、先ほど話を執事長にもしたのだが。
「うおおお〜〜〜〜ん!」
「うううああああ……!!」
泣きじゃくるおじさん2人組に困惑するしかない。何?このカオス。いや、気持ちは嬉しいよ。嬉しいけど……私にどうしろと?
「お嬢様……ひとまずお2人は放置………ではなくこちらでお休みいただいて、次のターゲットを仕留めに行きませんか?」
「え、放置はさすがに」
「お嬢様〜、今日のディナーはどうでした?」
「りょ、料理長……もちろん最高だったよ。いつもありがとう」
おじさんが増えた。
「………なんでおっさん2人は泣いてんだ?」
「そ、それが………」
仕方ないので先ほどの話をしたところ、号泣するおっさんが増えた。何故私は学習しないのか。悪化させてどうすんだ。
「………お嬢様って溺愛されるか嫌われるかの2択しかねぇの?」
「いや、割とどうでもいいと思ってるアンタがいるじゃない」
「自分、お嬢様がどうでもいいとか思ってませんよ?!お嬢様ひっど!!」
「ええ……?適度に手抜きして面倒見てたのは誰」
アリスが号泣するおっさんに混ざりそうな気配を察知し襟首を掴んで止めた。
「自分ですけど申し訳なかったと思ってるっす!」
アリスが勢いよく頭を下げた。
「ハイハイ、気にしてないから別にいいわよ。あと、私をナメてたのは誰」
「あーーーーー!!ほんっとに申し訳ありませんでした!!勘弁してくださいよ!今は本気で真面目にやってるでしょ?!」
「うん」
それはそう。涙目のアリスに同意した。
いや、極端な2択しかないわけではないと言いたかっただけ。騎士団でも申し訳なさそうにしてた騎士達はいた。メイド達もそう。直属の上司に逆らえなかっただけなのよね。だからまあ、叙情酌量の余地がある者はいる。
思ったより敵がなかなか気がついてくれなくてため息を吐いた。
とりあえず、私のために泣きじゃくるおっさん達をどうにかしてなだめすかすのに1時間かかった。




