第17話 思い出すのが遅すぎた
パパ様が退出し、待っていたが戻らないので自室に戻りおやつを皆で食べることにした。
「こっちは騎士団の分で、こっちはチビ達の。で、こっちが私とメイド達。パパ様は……ディナーになっちゃわないといいけど」
「我の分は?!」
「あるよ〜。でも猫たん姿だと食べにくいから人型になってね」
「おう!」
そういえば、うちのメイドさん達はイフリートをなんだと思ってるんだろう。ちらっと見たら優しく微笑まれた。気になってはいるけどあえて聞いてないってとこか。いいメイド過ぎる。
使用人、しかも奴隷が御主人様と同じテーブルで食べるなんてとゴネたが彼女たちとどうしても食べたいとねだってなんとか聞き入れてもらった。
紅茶もすっかり好みを把握され、最高においしいロイヤルミルクティーを飲みつつタルトを食べる。
うん、この店当たりだわ。今後ここに買いに行かせよう。
「そういえばなんだけど………食べなさいよ?」
彼女達が以前あげたクッキーを大事にしすぎて怒られたのはつい先日のこと。今日も眺めるだけで口にしていなかった。
「貴女達の働きが素晴らしいから褒美を与えるの。あげにくくなるから食べ物はその日のうちに食べなさい」
「は、はい……」
「お嬢様がそうおっしゃるのでしたら……」
「お嬢様、コレうめ〜」
「うむ、うまい!」
「………いっちゃん様はともかく、アリスさんはまた教育が必要なようですね?」
メイドさん達の笑顔が怖い。
「?!」
「まあまあ、それよりあの寝てた金髪の男、治ったわよ」
「本当ですか?!」
「ああ……お嬢様……心より感謝いたします……!」
う〜ん……。聞くべきか聞かないべきか……。私がまとめ買いした奴隷達は、どうも同じ種族で群れのような……そもそも一緒に行動していたようなのだ。
「それに関しては本当よ。しばらく療養させるけど、傷も治ったわ。あの、言いたくなければ無理にとは言わないけど、聞いていい?」
「いえ、なんなりとお聞きください」
とはいえ、なんと聞いたものか。少し考えて、感じた違和感を問うことにした。
「貴方達は群れなの?」
うん、これが1番の疑問。彼らは同じ種族だし、群れというか仲間っぽいんだよね。偶然とは思えない。
「はい。ある尊き御方を救うために旅をしておりました。その際その……お恥ずかしながら路銀が尽きてしまいまして……」
「うん」
尊きお方って多分金髪の方かな。つまり、旅してる段階から彼はああだったのかな?
「それで路銀を工面するために働いておりましたところ……我らに無体を強いた者がおりまして……その……つい、私たちも彼らもやりすぎてしまいまして……」
「うん?」
つまり手を出されてやり返したのかな?
「しかも相手が高位貴族だったもので、我々全員が捕まってしまったのです。子供達だけでも逃がそうとしたのですが……」
泣き出してしまった。運が悪すぎたわけね。
「とりあえず事情は理解した。できれば元の生活に戻してあげたいけど……」
「いえ!それは結構です!お嬢様へのご恩を返すまではどうかおそばに置いてくださいませ!お願いいたします!!」
「お願いいたします!誠心誠意お仕えいたしますので、なにとぞ………!」
縋られてしまったが、なにも今すぐ追い出すとかいう話ではない。
「話は最後まで聞きなさいよ。元の生活に戻してあげたいけど、こちらにも事情があるの。最低でも10年はここで働いてもらうことになる」
「承知しました!」
「頑張ります!!」
即答か〜い。まあ、雇用主としては本人の意志で働いてもらえたほうがいいけどさ。
「あと、ものすごく今更なんだけど……皆は何の獣人なの?」
「…………本当に今さらっすね………自分は眠り鼠族っす」
「申し遅れましたわ。我らは狼。月狼族にお仕えする牙狼族の娘にございます」
「名前は?」
「どうぞお好きにお呼びくださいまし。今の私はお嬢様の奴隷にございます」
いや、名前を聞いてなかったこっちもこっちなんだけどさ……?
「でも、きっと貴女達の親が悩んでつけた名前でしょ?教えたくないなら諦めるけど、そうでないなら教えて欲しい」
「私はララです」
「私はリリです!」
それならば、と名前を教えてくれた。今日はいない3人からも後で聞こう。
「ルビーたん、ちょっと説得してくれないかな!」
「パパ様?」
そしてパパ様に引きずられてきた男2人。
「ランス公爵家の当主と前当主が揃ってフレア公爵家の後継者に奴隷として仕えるとか前代未聞過ぎる!!」
「……は??あっ………ああ〜〜〜〜〜??!!」
ランス公爵!!そう、思い出した!!ベンは知らんが、金髪の方!!ゲームのランス公爵に似てるし、回想で出てきてた!!私と同じくゲーム開始時には死んでたみたいだしちょいキャラだから今の今まですっかり忘れてた……。
ん?そういや『修理費バカ高い家宝の槍』って……ブリューナク?!うわぁ、確認してなかった私のミスじゃんよ!!
「ルビーたん?」
「パパ様ごめんなさい……」
「いや、ルビーは悪くないからね。とりあえず早急に彼らをランス公爵家に送り返そうと思ったんだよ」
「それはそうね」
ララ達の話から、恐らくは金髪のために彼らは旅をしており、旅の目的は果たした。
「我々は主への恩を返すまで帰れぬ」
「「…………………」」
なるほど。説得しろとはそういうことね。
「……ならば、主として命令するわ。ランス公爵家へ帰りなさい」
「主?!」
「いつかきっと、アンタ達の力が必要になるわ。でも、それは今じゃないの。今、ランス公爵家には幼い末っ子だけよね。どちらに助けが必要かなんて……明白だわ」
「それは……」
「主……」
「いつかまた会いましょう。私のために、ランス公爵家を安定させなさい」
「……かしこまりました」
「主君がそれをお望みならば、必ずや」
彼らは何とか納得した。奴隷紋の解除でまたゴネおったがなんとか解除して旅立った。彼らの私兵やメイド達については、私に預けるとのことだった。ララ達に10年の話をしてしまったのでソレが伝わったと思われる。子供達は旅の途中ひどい目に遭っていたため保護したらしいのでこのままうちで育てることでお互い合意した。
私兵達はありがたいが本当にいいのかしら……。
まあ、これでおそらくランス公爵家は安定するから、闇の使徒による悪事を未然に防いだはず!
も、戻ってきたりはしない、よね……?




