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拝啓、悲劇的で素晴らしいゲームのシナリオライター様。私が平凡でつまらない物語に改悪してみせます。  作者: 明。


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第16話 初めての治療

 奴隷たちの中で、1番怪我が酷かった男がいる。


 古傷が悪化したらしく、右腕と右足が深くえぐられて腐りかけていた。それゆえ購入時点からずっと高熱で苦しんでいた。

 すぐ医者に見せたが、高位のプリーストでないと治せない。医療では切断するしかないとの診断だった。とりあえず感染症に対して薬を飲ませ療養させている。

 公爵令嬢といえども下っ端ならともかく高位のプリーストはそう簡単に呼べるものではない。また、タイミングも悪かった。


 この国は、聖武器の結界により守られている。

 

 とはいえ、定期的に結界外の魔物を減らす必要がある。結界もそうしないと摩耗して消失する可能性があるからだ。そして、その定期討伐時期が近い。今、高位のプリースト達はそちらへ……つまり現在各公爵領の郊外へと優先的に派遣されているのだ。


 ならば、私が治療しちゃえばいい。実は魔力が高ければプリーストが使う杖は使える事がある。私は全属性持ちなわけで……使える可能性が非常に高い。そんなわけで私は自分の商会に頼んでプリースト用の杖を取り寄せた。こちらも初級、中級、上級がある。もちろんすべて入手してくれた。


「さて、やるとしますか!」


 とりあえず初級の杖を手に取る。


「ヒール!!」


 問題なく作動したけど………これ、こんなにキラキラするもんだっけか?ヒールは見たことないからわからんわ。


「うぐぅ………?!」

「兄上?!」


 男が苦しむ。肉が再生しようとするが、何かが回復を阻んでいる。ヒールしつつ集中してよく見ると、魔力の鎖が傷を中心に広がっていた。コレが原因らしい。


「ふむ……?」


 もしかせんでも、これは闇の使徒の痕跡では?


「いっちゃん、アリスを呼んで」


 イフリートは普段なるべくいっちゃんと呼ぶことにした。うっかりお外でイフリート呼びをしてバレたら大変なことになるからだ。聖武器の中身が空っぽとかどう考えてもヤバい。なのでこれはイフリートではなく私の飼いにゃんこ、いっちゃんなのである。


「おう!任せろ!」




 そして足がしびれていたため大きいにゃんこになったいっちゃんに運搬されてきたアリス。またメイド達に正座させられてたんかい……。護衛として一緒に連れて出してやればよかったわ。


「ベン、外して」


「………はい」


 ベンは室外で待機している。そういや、さっきアイツ兄上とか言ってたような……?

 ベンも闇の使徒ではあるが、肉体特化であるためシャドウムーブも短距離のみで闇の使徒としてはアリスよりかなり弱い。なので今回は出てもらった。


「うう……」


 生まれたての小鹿並に足をガクブルさせているアリスティードに意識を向ける。しかたないので支えてやった。


「盛大に足が痺れてるとこ悪いけど、コレ闇の呪いよね?傷を治そうとすると抵抗されるのよ」


「んあ……?そっすね。ん〜……おおお……すげえなコレ……お嬢様、解けそうです?」


「そうねぇ……力ずくでやれば壊れそう」


 多分出来る。種類にもよるが、この魔法は編み物のようなもの。複雑に絡まって解き方が分からないなら純粋な力で引きちぎってしまえばいいのだ。


「うあ……流石はお嬢様……」


「じゃあ……いくわよ……!」


 目論見通り、複雑に絡まった鎖の様な魔力が無効化されていく。身体のタトゥーがなくなった。コレ、呪いのせいだったのか。オシャレなのかと思ってたわ。


「うおお、流石はお嬢様……」


 アリスティード、ドン引きしてる気がするんだが?気のせいかなぁ。


「さて、今度こそ……ハイ・ヒール!!」


 上級の杖を作動させた。上部の羽が優美に開き、空から美しい羽が舞い散る。上級とはいえヒールにこんなエフェクトついてたっけぇ??キラキラはしてたと思うけど……。


 気がつけば、男の怪我は綺麗に治っていた。問題なく作動したから……まあいっか?


「ベン、いいわよ」


「あ、兄上は……兄上の容態は?!」


「うう……」


「兄上!怪我が………ああ、心から感謝いたします、我が主!!」


 床に額を擦り付け、靴を舐めんばかりだ。


「よ、よかったわね?兄弟水入らずで話したいこともあるだろうから、落ち着いたらいらっしゃい」


 な〜んかあの兄、見た覚えがあるのよね。思い出せない。とりあえずベンが落ち着くのを待とう。





 しばらくしたら、ベンと金髪の男が隣の部屋で待機していた私たちのところに来た。




「我らが主、我ら一族は主に永遠の忠誠を誓います」




「全く落ち着いてないわね?!というか、一族?」


 なんでそうなるんだよ?!ちょっと傷を治してやった程度で重たすぎるわ!!


「ルビーた〜ん、ここに居た………………」


 パパ様が入った途端固まった。


「パパ様?」


 え?知り合い??パパ様の視線は頭を下げている2人に注がれていた。2人はめっちゃ目を逸らしている。


「ルビーたん……パパ様、急なお仕事入っちゃった……。夕飯は一緒に食べようね!ハイそこの這いつくばってる君達!ちょっとツラ貸せやゴルァ!!」


「パパ様?!一応そっちの金髪は病み上がりだからお手柔らかにね?!」


 よくわからんが犬っぽい兄弟はパパ様によって強制退場させられそうになった。慌てて片方は病み上がりだと伝える。


「そうなの?!どういうこと?!」


 とりあえずパパ様に経緯を説明した。以前話した通り、確実に裏切らない者を身近に置くため奴隷を購入したこと。奴隷は奴隷紋で縛られている限り主に逆らえない。その中に彼らは居て、先ほど兄の方の呪いを解いて治療を施したと伝えた。闇の使徒については伝えなかった。

 それにしてももっと衰弱してそうなもんだが、兄の方は元気そうに私を見て尻尾をブンブンしている。

 いや、空気読め。


「はあああああああああ……ルビーたん、後でどこの奴隷商から買ったか教えてねぇ……さて、君達!改めてお話があります別室に来やがりませゴラァ!!」


 パパ様……敬語とヤンキー語が混ざってるわ。こんなに荒ぶってるパパ様、初めて。

 パパ様はもう犬でいいのではと思う2人を引きずっていった。何だったのかは後で教えてくれるだろう、多分。

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― 新着の感想 ―
ルビーたんは、ぽ◯こつ可愛いのに、どーしてパパ様は毎度荒ぶられるのであろうか…鎮まりたまえぇ〜(๑╹ω╹๑ ) 何もかもルビーたんが可愛いのが悪いのね、罪なオンナ…ですねぇ。
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