第14話 足元を固めてみよう
獣人の基礎体力ゆえか、購入した奴隷達の大半は数日で回復してそれぞれ働き始めた。そして、私に5人メイド経験者の奴隷達がついた。経験者が複数人いたとかラッキー過ぎる。
彼女達はローテーション勤務にしてもらい、常に2人がつくことになった。これでようやくアリスティード達に休みをあげられる。よかった。
「お嬢様、本日はどのようにしましょうか。白い花の髪飾りはいかがです?」
「任せる」
「お嬢様、こちらのお召し物はいかがでしょうか」
「白はあんまり……」
「こちらの服は髪飾りに合わせております。お嬢様の美しい髪色と合わせると、まるで春の妖精のようですよ」
「こちらのレースショールも合わせてお使いくださいませ。はぁ……なんと我らのお嬢様は愛らしいのでしょう……。さあ、鏡を御覧ください!!」
鏡の中にいる私、ガチ春の妖精のごとし!
え、すご!アリスティードも器用だったけどレベルが違うんだが?トータルコーディネート!完璧!!
この凄さを伝えたくて授業のため来ていたガイアスに見せてみたのだが。
「かわっ………、か、かわ………な、なんでもない」
「ええ?!可愛いとか可愛いとか超可愛いとか絶対あるでしょ?!」
「確かにすごく綺麗で可愛いけど、僕みたいな陰キャキモオタに言われても嬉しくないだろ!自分でも可愛いってわかってるなら別に僕が言わなくても………あ」
想定よりも褒められた。可愛いより綺麗のほうが嬉しいわ。
そしてガイアスは顔を真っ赤にして逃げ出した。お耳触らせてという暇もなかった。アイツ、運動苦手のくせに逃げ足は異常に速いのホントなんで……?あと、今日の授業は自習なの??
仕方ないので適当に自習してから部屋でおやつを食べることにした。
「お嬢様、お茶はいかがですか?お嬢様はロイヤルミルクティーをお好みと伺いました。ミルクティーに合うお菓子もご用意しましたの」
「うん、美味しい」
「お砂糖はいくつがお好みですか?不慣れで申し訳ございません。好みをお教えくださいましたら今後はきちんと先んじてお嬢様が好まれるものをご用意いたしますね。ご要望がありましたらなんなりとお申し付けくださいませ」
い、いたれりつくせり………!プロってすごい。私の生活水準が上がる……!
それはそれとして、朝からずっと部屋の隅で両手を上げつつ正座させられてるアリスティードが気になる。
人の部屋で地味な拷問しないで欲しい。
引き継ぎのため来たはいいが、物の位置とかぐらいしか教えられずメイドさん達がキレてこの状態。数時間経過したため流石に辛そうだ。
「アリスさん」
「………ハイ」
「よろしいですか?メイドとは、このようにご主人様が快適に過ごせるよう整える者でございます。ご主人様の指示があってから動くのでは遅いのです」
「…………ハイ……」
めっちゃ叱られてた。もう言い訳する気力もないらしい。
「アリスはろくな引き継ぎもしてもらえなかったから仕方ないよ。1人でやるには限界があったし、それなりに手は抜いてたけどよくやってた方だと思うよ」
「お嬢様ぁ……」
「お嬢様、甘やかしてはいけません」
う〜ん、アリスティードに厳しい。
「いや、そもそもアリスティードは護衛がメイン業務だから。それに男だから着替えとか入浴は私が断って…………」
メイドさん達が真顔になった。怖い。
「何故お嬢様はこのような目に……」
そして泣きくずれてしまった。仕方ないので経緯を説明する。
またメイドさん達が真顔になってしまった。
「私もこのまま泣き寝入りするつもりはないの。手伝ってくれる?」
「おまかせください」
「お嬢様のためでしたら何でもいたします」
「いや、なんでもはしなくていい……」
奴隷として連れてこられ無理矢理働かされてるはずなのに、なんでこんなに慕われてるんだ?意味がわからない。
購入した30名の奴隷。半数は私の私兵として雇うことになった。闇の使徒もそちらにいる。さらに10人は商売経験があるというので商会を作り、主に私の写本を販売している。イフリートによる全自動修行の成果かは知らんが、普通のものより上質だとすぐ完売になるそう。売り上げでガイアスが希望した素材購入をしてもらったりしている。
あと、1人重傷者がいてそちらは療養中だ。獣人の治癒力にも限界があるのだろう。
残りは子供だったのでアリスティードの母に面倒を見てもらっている。とりあえずアリスティードの弟妹も含め子供達は学費を支援し学校に行かせることにした。読み書きはできたほうがいい。知識は財産だ。
私兵となった奴隷達は騎士達と共に訓練していた。メイドさん達と共に差し入れを持って行くことにした。おかげで外出も自由にできるようになった。フレア公爵家の騎士達は融通がきかないし私をナメてるので嫌い。
私の姿を目にした途端に駆け寄り、全員整列して騎士の礼をとった。
彼らのほうがよほど騎士らしい。本職は挨拶もしない。お前ら、私が公爵になったら絶対クビにしてやるわ。顔は覚えたからな!
「差し入れよ」
「ありがとうございます」
リーダー格である闇の使徒……ベンが何か言いたげにチラチラこちらを見ている。
「何か用?」
「その……不躾なお願いではあるのですが……自分の槍を修理したいのです……。その、ものすごく高価な、家宝なので修理費用が……大変高額なのですが……」
「直したらいいじゃない。命を預けるものはケチるべきではないわ。とはいえ普段は普通の槍を使って敵がすごく強いとか早く倒さないといけない時だけ使えば?商会の奴隷達に話を通しておくわ。ついでだから新しい武器も見繕ってきなさいよ。あ、他の人達もね」
「ありがとうございます……!」
それは必要経費だろう。せっかくなので見た目も騎士っぽくかっこいい鎧も用意してもらおうかな。商会の方に連絡しとくか。
私は後に、後悔する。
『非常に高価な家宝の槍』について、きちんと確認しなかったのは完全にミスだった。




