第13話 黒の教団と奴隷
アリスティードに気になることを聞いてみた。
「そういえばなんだけど」
「はいはい?」
言いつつ私の髪をすく手は丁寧だ。ヘアアレンジも上手く、器用な男である。
「黒の教団に所属してたのはなんで?」
彼の性格上、金にならないから影の能力を得たら寄り付かなくなりそう。
「あ〜……ちょっと気になる相手がいたんすよ」
「気になる相手?」
「獣人の犯罪奴隷なんすけど、クーデター起こすとかなんとか」
「え」
「失敗したら獣人弾圧とかされるんじゃねぇかなって不安だったんで動向を見守ってました。そういや、ソレ報告しようと思ってたんすよね」
「はよ言え!!」
獣人の犯罪奴隷ね………。
「犯罪奴隷って何をしたわけ?」
「なんか、お貴族様に手を出されかけた女の子を助けた結果らしいっすよ。フレア公爵領は結構獣人差別がすごいっすから……よくある犯罪は貧困ゆえの窃盗とかっすね」
物理武器の3公爵は獣人なので逆に人族差別があるそうだが、性質からかフレア公爵領とアース公爵領は獣人差別がひどいらしい。
「なるほどね。よし、そいつがいる奴隷商のとこに連れていきなさい」
「んえ?!か、勘弁してくださいよ!公爵に怒られる!!」
「パパ様の許可があればいいのね?」
「うっわ……イイ笑顔、不安しかねぇ!!」
もちろん許可はもぎ取った。奴隷ならこちらに逆らえない。夢の中で使用人の中に実行犯がいるかもしれず不安で眠れないので奴隷を買って直属の使用人にしたいとおねだりした。まあ、実際結構恨まれてるしな。髪色馬鹿にされて大暴れしてたから。
ローブを深く被り、仮面で瞳を隠す。さらに男装しておいた。身なりからこちらがそれなりの貴族と判断したらしく、奴隷商が美しい奴隷をたくさん連れてきた。
目線でアリスティード(今回は珍しく男装バージョン護衛風)を見ると首を振る。この中には居ないらしい。彼によれば闇の使徒同士はなんとなくわかるそう。ただし私のように強力な魔法使いは気配が混ざってよくわからんらしい。つまり、闇の使徒の力は魔力由来なんじゃないかしら。
試しに気配を探ってみるが何も感じないので、この中には居ない気がした。
「こういう小綺麗なやつでなく、坊ちゃまは使い捨てできるモノをお望みです」
望んでねぇわと言いかけたが、頷くにとどめた。危ない、ツッコミするところだった。
「なるほど……では地下にどうぞ」
地下牢は臭かった。劣悪な環境ということだろう。
「大丈夫です?」
「……なんとか」
悪臭が充満しており気持ち悪いが、ここで醜態を晒すわけにはいかない。気合を入れて先へ進む。なんか今すごいデカいムカデとかいた……ひええ……。なるべく見ないようにしよう!
「このあたりが使い捨ての犯罪奴隷になります。ああ、奥の男はまだ調教できておりませんのでやめたほうがよろしいかと」
あの男だ。
この間はたくさん闇の使徒がいたから気配が混ざってわからなかったが、今はっきりと闇の使徒がわかった。使徒は1人だけだな。
あと、なんか私……他の獣人から怯えられてないか……?商人が怖いのかとも思ったが、彼らの視線は私に向いている。なんでぇ??
「この牢にいる犯罪奴隷、全部でいくら?」
「は」
「おじ……坊ちゃま?!」
牢の中もざわついた。
「え、ええと………」
商人がそろばんをはじく。
「こ、このぐらいでいかがです?」
百万ゴールドね。想定より安いな。さっきの小綺麗な奴隷1人分にも充たない。
「ボッタクリじゃねえっすか。この商品管理でその値段、しかも在庫処分の不良品と未調教のやつまで買ってやろうというお坊ちゃまの気遣いを台無しにするつもりか?」
え、値切るの?このぐらいポンと払えるが?
「う、うう……」
「し・か・も、全部だぜ?弱ってる売り物にならねぇやつや怪我人・病人も含めて買ってくれるなんてそうそういないだろ?獣人は食費もかさむ、死体の処分は金がかかる……。なあ、もっと誠意を見せろよ。俺達は別のとこに行ってもいいんだぜ……?こんないい話、そうそうないよなぁ?」
「ううう………」
どっちが悪人かわから〜ん。まあ、奴隷商に金を渡してもろくなことにならんだろうから別にいいけど。
結果、なんとアリスティードは半額以下まで値切り倒した。商人がぼったくろうとしたのか、アリスティードがすごいのか……両方かな。
とりあえず買った奴隷達と移動することに。
「とりあえずウチまだ空き部屋いっぱいあるから、ウチで面倒見るでいいっすよね。まず風呂に入れて、医者呼んでもらっていいっすか?」
「主治医を屋敷に待機させてる」
「さすがぁ!じゃあ屋敷に戻りますか〜」
この集団は目立つので、森に移動してからシャドウムーブを使った。
「闇の使徒……!?おまえ、使徒だったのか?!」
「おい、ご主人様にお前はねぇだろ。このお方はフレア公爵家のご令嬢だ。わきまえろ」
アリスティードが容赦なく闇の使徒の男を殴った。いつになく強気だわ〜。
「な、なるほど……それでこの圧倒的強者の気配というわけか……」
ナニソレ。
私、そんな世紀末覇者的な気配だったの?!だからアリスティードの弟妹にもビビられてたの?!だから可愛い野良にゃんこ達から一目散に逃げられてたの?!!
「そう、お嬢様はこの年で聖武器を従えるほどの実力者!!その魔法は大地を砕くほど!!」
うんまあ、実際この間訓練所の床は割ったからそこは否定はしないけど……。やろうと思えばちょっとした地割れぐらいはいけそう。
「……全部どうでもいい。とりあえず風呂。臭い」
思考するのが面倒になってそれだけ言って部屋に戻った。
お茶していたら、何者かがここに来ようとしているのを感じて拒否った。シャドウムーブを他人が使うとこんな感覚なのね。そして、相手より強ければ強制キャンセルできる、と。
室内には入れず、窓の外に転移したらしい。気配がするし、なんか外で落ちた音がした。
窓から確認したら、男がアリスティードにぶん殴られて回収されていた。もしかしなくても、アリスティードもかなり強いわね?とりあえず獣人奴隷たちの扱いはアリスティードに任せることにした。口に出さなかったけど助けてあげたかったみたいだし、アイツの部下にしたらいいわ。無利子で自分を買い戻したら放免にしてやればいいでしょ。
私の方はとりあえずローテーション組みたいから女性の数人を私のメイドにしてもらえればいい。
うふふふ、これからが楽しみだわ!!私は上機嫌で紅茶を楽しんだ。




