雷
最後の授業も終わる頃、黒い雲が空を染める。こんなに暑いのに、更には湿度も上がるって?冗談きついよ……。
あ、しかも今日は傘を忘れていた。うーむ……うーーーむ……。そんな悩みは露知らず、チャイムは機械的に鳴り響く。
とりあえず下足箱まで下りる。他のみんなは色鮮やかな傘で虹を作る。黒色はお邪魔なようだ。なんてことを考えながら雨が止むことを祈る。
時計の針は3歩も足を進めたというのに、私は変わらず立っている。たまに諦めた黒色が混じるようになったが、傘を差し出してくれる心優しい人はここに居ないらしい。これ、もう、止まないな。
自分も諦めようかと自分の靴に手をかける。その時、ふと、肩を叩かれた。
「傘……入る?」
雷が鳴り響く。どうやらお迎えが来たようだ。
「え、いいの?」
「だってずっといるから。」
立ち尽くしている所をずっと見られていたってこと?え、恥ずかしい。
「……じゃあ、お言葉に甘えて。」
異性と2人同じ傘。今だけは暑さに感謝しなければならない。だって、火照った顔を誤魔化せるのだから。
2人は虹の列に紛れ込む。周りに多くの人が居ても、誰も自分の傘の外は見えないだろう。ついでに、雷と雨が落ちる音のおかげで、他の傘の声すら聞こえない。そんな、逢瀬にはうってつけな天気。
黒い雲が薄くなり、虹の列も次第に黒色に染っていく。
「雨、止んだかな。」
「きっとまだ降ってるよ。」
蝉の声が響く夏空の下、青い傘の中では小さな春が訪れる。
周りの人「ふふっ。あの2人、雨は止んだのにまだ傘をさしてるよ。」
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