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「大塚! ちょっと、どこー?」

 授業の間の休み時間に、近くにいるはずなのに姿が見えないあいつを捜して廊下を歩いた。

「いた」

 大塚は窓から真剣な表情で外を眺めていた。

「何やってんのよ?」

「見てみろ、あそこにいる女の人」

「ん?」

 学校の近くの道路で、二十代と思われる女性が、立ち止まって真剣な顔で携帯をいじっている。

「あの人がどうしたの?」

「チョー可愛い」

 こいつ!

「おい! それどころじゃないの! わかってんでしょ! 私、気が変になったみたいにみんなに思われてるんだよ、あんたの言う通りにやったせいで!」

「なー。どうなってんだろうな? あの部でやってること、一部のマニアック的な連中には好評っぽいけど。この学校の奴らは真面目でつまらん人間が多いか、もしくは、高校生くらいだともう大人の感覚に毒されて、ああいったことを楽しむのは手遅れなのか」

「なー、じゃない! あんたを信じて頑張ったのに、どうしてくれんのよ!」

「そんなすぐにいい結果は出ないって言ってんじゃん。お前、我慢が足りないぜ」

「日本は我慢社会なのが良くないんじゃなかったのかよ!」

 私はまた大塚の耳もとでしゃべった。

「うるせえな、わかったよ。大半の連中に奇異の眼で見られたのは、俺のやり方が悪かったんじゃなくて、お前が今まで真面目過ぎたせいで違和感がハンパじゃないからじゃねえかと俺はにらんでるけど、勉強エンジョイ部がいい波に乗れてないのは確かだから、それと関係ないのも考えたぞ。やるか?」

「え? どんなの? 今度こそ大丈夫でしょうね?」

「昼のメシの時間にさ、音楽流したりしてるだろ?」

「ああ、放送部がね」

「それで思いついたんだ。この学校で、友達がいなかったりで、つまんなそうにしてる奴に、好きな歌を訊いて、それを放送部に頼んで流してもらうんだ。そうすりゃ、その曲を聴くのに加えて、そういうことしてくれる人間が同じ学校にいるっていうので、気持ちが明るくなるだろ?」

 ……うーむ。

「でも、放送部がOKしてくれるかな?」

「たとえ駄目でも、自分のために、やろうとしてくれたってのがいいんじゃねえか」

 そうか。

「あー、だけど、その好きな曲を訊いた相手に意図が伝わらないで、なんでそんなことするんだ? って思われたりしない? その場合、あなたが友達がいなそうで、気持ちが暗そうだから、なんて言えないじゃん」

「お前、ごちゃごちゃ言ってばっかいないで、やってみろって。当たって砕けろの精神で」

「もう砕ける寸前だから慎重になってるんじゃない」

 そこでチャイムが鳴った。

「あー、もー」

 私は教室へ戻った。


 そうして、どうしようか迷っている状態で、放課後に「とりあえず今日は帰ろう」と下駄箱にいたところ、知らない男子が近づいてきた。

「あの」

「はい」

「何ですか? 用って」

「はい?」

 私は小首を傾げた。

「僕に用事があるんじゃないんですか?」

「いや……」

 んん?

「何だ、いたずらか。帰ろうと思って外に出たところで、多分小学生の男のコに、あなたが呼んでるって言われたんです」

 大塚か。またどっか行っちゃってるし。

「そうだ。あの、好きな歌ってありますか?」

 どうせだから私は訊くことにした。

「歌?」

「はい。ポップスでもクラシックでも何でも」

「どうしてそんなことを訊くんですか?」

 ほらー、警戒するような顔つきになってるよ。

「昼休みに放送で流すので」

「……でも、なんで僕に?」

「特に意味はないです。今そのことについて考えていて、タイミング良く話しかけられたので」

 目の前の彼は「どういうことだろう?」などと思っている感じの険しい表情だ。

「あ、ただ、私は放送部ではないので、頼んでOKしてもらえたらなんですけど」

 これは言っとかないとな。

「別にそんな好きな歌なんてないから、すみません」

 そう口にすると、逃げるように離れていってしまった。放送部でないというので訳がわからないのが限界を超えて、関わらないほうがいいと判断したのであろう。

 だから言ったのに。私の話が良くなかったのもあるだろうけれど、準備できてなかったんだから仕方ない。あいつが勝手なことするからだよ。

「あの」

 後ろから声をかけられ、振り返ると知らない女子がいた。

「私に用事って何でしょう?」

「え……いや……」

 その後も、四人もが私のもとにやってきた。みんな、最初の人同様に意味がわからないという様子で、断られた。しかも肝心の大塚は姿を消したままである。

「あいつ、もー」

 さらに、追い討ちをかけるようにして、翌朝——。

「真琴、一組の兵働って人に告白したの?」

 朝香が以前と同じく、私が教室に入って早々に近寄ってきて心配顔で言った。

「は?」

「昨日、校門の近くで真琴がその人に恥ずかしそうに話してたから、そうだったんじゃないかって、噂になってるよ」

「え?」

 視線を感じて辺りを見ると、クラスメイトたちが一斉に私から目を逸らした。


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