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放課後。勉強エンジョイ部の部室で、私は大塚と二人でいる。
「審判役の奴が頭のひらがな一文字を決めたら、プレイヤー二人は制限時間の一分、辞書を見て、時間終了後にお互いこれは思う面白い単語を発表して、審判がどっちが良かったかを判定する。じゃあ、やってみるぞ。んーと、『く』」
大塚の説明を受け、なんだかよくわからないその『おもしろ単語バトルゲーム』の練習で、私は国語辞典を広げた。
「んー? 面白いって言われても……」
「早くしろよ。一分しかねえんだぞ」
「じゃあ、これは? 『ぐにゃぐにゃ』」
「うわー、ないわ。百点中の二点だな」
「えー? もー、わかんない。手本見せてよ」
「そうだな……例えばこれだ、『口車』」
「はあ? それのどこが面白いのよ?」
「おもしれえだろーが。口車だぜ」
「全然わかんない」
「ハー。ユーモアねえんだな」
「だったら、これは? 『首根っこ』」
「おー、いいな。やりゃあ、できるじゃねえか」
「いや、わかんないよ。テキトーに言っただけ」
「お笑いとか観て勉強しろ。センスを磨くんだな」
校内で希望者を募って、可能ならば私も、プレーするとのことだが、こんなんで学校を明るくできるのだろうか? また不安になってきた。
でも、やってみるっきゃないか。他に良い方法があるわけじゃないし、確かにユーモアに欠ける私よりも大塚の言い分を信じるしか。
それから、よく噛むと満腹中枢が刺激されて食欲が抑えられるので、ダイエットや食べ過ぎに良いといわれるけれど、本当か確かめてみるであるとか、「オーストラリアとオーストリアは国名が似ているが関係があるのか?」などの興味を引きそうな張り紙を再び部室の壁に掲示して、後で答えを発表するといったことも行った。
で、どうなったかというと——。
「真琴、ごめんね」
「え?」
ある朝、学校に到着し、教室に入って早々に、すでに登校していた朝香に悲しみ一杯の顔でそう言われた。
「なに? どうしたの?」
「前にときどきイライラしてたけど、学校生活が退屈だったんだね。楽しい思いをさせてあげられなくてごめんね」
「は? 何なの? 何の話?」
訳がわからない。
「真琴が変な部をつくって、おかしなことをやりだしたって、噂になってるよ」
「え」
視線を感じて辺りを見ると、他のクラスメイトたちが一斉に私から目を逸らした。