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「よかったな、創部、大丈夫そうで」

 今日、一緒にうちの高校にやってきて、役員の女子とのやりとりのときもそばにいた大塚が、帰り道に笑顔でそう口にした。

「まあね。活動費がほとんどかからないからね……」

 彼女いわく、それなら承認はほぼ確実とのことだった。

「お前、さっきから、なんでそんなに暗いの? 心配すんなって。うまくいくよ」

「じゃなくて、勉強エンジョイ部って名前が恥ずかしいの!」

「だからー、誰もが一回聞いただけでどんな部か想像できる名前がいいんだから、しょうがないだろ」

「わかったけど。あー、さっきの人だけでもあんなに恥ずかしかったのに、やっていけるかな? 私」

「もー、それくらいのことでヘコむなよ。俺たちゃ、日本、いや、世界を変えるくらいのことをしようってんだぜ」

「大げさ。そんなのできるわけないでしょ。でも、とにかくやるっきゃないか。もう申し込んじゃったんだし」

「そうそう。じゃあ、さっそく準備準備」

「はいはい」

 だけど、やっぱり。

「ハー」

 気が重い。


「お、入ったぞ」

 今、私たちは廊下の離れた位置から、教室をこっそり見ている。大塚は堂々と眺めているので、実際には隠れているのは私だけだが。

 その教室は、創部が決まってあてがわれた、勉強エンジョイ部の部室だ。その廊下に面する壁に、こう書かれた紙を掲示した。

〈歴史上の人物日本代表十名を一週間後に発表! 興味のある方は室内へどうぞ〉

「じゃ、見てくるわ」

 体育会系よりも文化系という印象の男子三人が足を踏み入れていき、彼らの様子を見に大塚が向かった。

 教室の中には、目立つように配置した一つの机の上に、日本史に登場する多くの人物の名が記されたプリントが何枚も重ねて置いてあり、その最後に〈ここから選出するので、どの十人になるか予想してみてください〉と書かれている。

 ちょっとして、大塚が帰ってきた。

「どうだった?」

「いいんじゃねえかな。楽しそうにあれについて話してた」

「そう」

 なぜ部室から距離を置いてコソコソしているのかというと、大塚の提案で、生徒たちの興味をそそるためだ。部員がたった一人だったり、勉強エンジョイ部を恥ずかしがっていたりで、私が応対すると関心を低下させかねないし、そうでなくても誰もいないあのスタイルが好奇心を刺激するとの考えらしい。

 その成果かどうかは不明だけれど、二十人以上は中に入っていった。一人の、なんだかよくわからない、そして始めたばかりで認知度が低い部による行いとしては、上々ではないだろうか。


「配布した用紙にありますように、織田信長、渋沢栄一、徳川家康、坂本龍馬、西郷隆盛、豊臣秀吉、福沢諭吉、夏目漱石、聖徳太子、勝海舟、以上の十名になります」

 私の発表に、結果を聞きにやってきた八人はきょとんとした表情をしている。

 が、それは想定済みだ。

「どうしてあの人が入っていなくて、この人が入ってるんだ? などの疑問や不満を抱いたかもしれませんけれども、最初の紙に書かれていたのは歴史の教科書の索引に載っている人たちで、そこからうちの地区の図書館のサイトで一人ひとり「名前 伝記」で検索して、数が多かった十名を選んだんです。一つの要素での機械的なチョイスですので、妥当とは言い難い結果になっているのではと思いますが、皆さん方が誰を選出すべきか考え、楽しんだことに意味があります。勉強や学問とはそうやって思考を巡らせたり、他人と語り合ったりするのが醍醐味ではないでしょうか? この部はこういった活動をしていく予定ですので、どうぞよろしくお願いします」

 私は来てくれた生徒たちにおじぎをした。

 ん? あれ?

 居た八人はみんな、何の感想もないという様子で、さっさと部室から出ていった。

「……ねえ、よかったの?」

 目の前の大塚に訊いた。

「おかしいな。もうちょっといい感じのリアクションがあると思ったんだけど」

 腕を組んで、軽く首をひねった。

「まあ、高校生くらいになると、内心は楽しかったりしても、はしゃがないもんなのかもな」

「いや、でも、本当に『ふーん』とだけ思ったっぽいけど?」

 来てくれる人数も期待より少なかったし。

「たとえそうでも、じわじわと、ボディブローのように効いてくるかもしれないぜ、またこの部に関わりたいって。それに、そんな簡単にはいかないことくらいわかってただろ。よし。次だ、次」

 大塚は軽く気合いを入れた。

「うん……」

 確かに、簡単にはいかないよね。

 だけど……ほんとに大丈夫か?


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