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 迎えた次の日のお昼過ぎ、顔を合わせた私たちは、近くの公園で話すことにした。

「日本の社会を一言で言い表すと『我慢』じゃん。そこが問題だと思うぜ」

 大塚が言った。

「日本でプレーする外国人のスポーツ選手が『日本で我慢を学んだ』って肯定的に語るのを見たことがあるし、人生否が応でも我慢しなきゃならない場面があるだろうから、困難を耐えて乗り越える力がつくプラス面もあるけど、一から十まで『我慢しろ』って感じだもんな。だから、うまくいってないことがあって何かを変えたほうがいいときでも、現状維持になりがちだ。そんで、もっと言うと『俺は我慢してるんだから、お前も我慢しなければ許さない』っていうのが日本の社会で、恵まれた立場でも相当に我慢をしてやってるからストレス過多、我慢できない人間はその苦痛を回避したぶん袋叩きにあう、のどっちかしかないみたいなとこがあるから、治安が良かったり経済的に豊かだったり他国からうらやましがられる要素がいっぱいあるのに、国民の幸福感がすごく低いんだよ」

「なるほど」

「それも、納得できることでならまだしも、明らかに理不尽だったり、訳がわからない事柄ででも、我慢をさせられるからな。その代表格が学校だろ。よく政治家が行うことの説明責任を果たしていないって言われるけど、学校だって全然説明しないじゃんか、なんで勉強をやるんだとかさ。授業中に私語が多いって、必要性もわからず学ばされてるのに、静かに聴くほうがどうかしてるよ。俺、中学から通ってないから詳しくは知らない……っていっても何度も勝手に出入りしてるからだいたいはわかってるけど、とにかく、謎の校則がけっこうあるんだろ?」

「まあね」

「学校は人権を教えなきゃいけないのに、そういうふうに行動をやたら縛って、独裁国家じゃあるまいし、やってることが本来すべきことと逆だぜ」

「そっか」

「学校を悪く言うと、大抵『先生は大変なんだ』って話になって、確かに、親二人で一人の子どもを育てるのだって重労働に違いないなか、教師は担任一人で何十人とか、それも勉強だけじゃなく生活面まで面倒を見てるんだから、一人ひとりはよくやってるんだろうけど、学校全体で捉えると明らかに問題だよ」

「あんた、学校が不満だったの? そんなにポンポン悪いところが出てくるくらいなんだから」

 腹を立てている口調ではなかったが。

「まあな。知っての通り、俺、いい子ちゃんって人間じゃないし、特に野間口芹華のニュースを観るようになった、お前と別のクラスの小五、六年時は、学校のおかしさに気づいて、それを担任の先生にぶつけたりしたけど、まったく相手にされなかったんだ。だから、昨日お前を引きとめたのは、実のところ俺としても学校を変えたい思いがあるからだったんだよ」

 ふーん。

「で、私は何をすればいいのよ?」

「運動や芸術系は部活で満足してる奴がいっぱいいるだろうし、学校を改革する狙い目はやっぱ勉強だよな。ちゃんと身につけさせなきゃっていうのがあるにしても、先生も教科書とか教える中身的にも、生徒に学問の面白さを伝えようという部分が少な過ぎだぜ。だから——」


 週明け、私は憂鬱な気持ちで学校へ行った。

 そして放課後、生徒会室に足を運んだ。

「あのー」

 執行部や関係する仕事をしていない私にとって普段訪れない場所なこともあって、恐る恐るドアを開けて中をうかがった。

「はい」

 生徒会役員の女子生徒が返事をしながらやってきてくれた。

「あのですねー、新しく部をつくりたいんですが」

 私は言った。

「ああ、そうですか。じゃあ、申込用紙を提出してもらって、中央委員会で承認されたら、創部となりますけど、何部ですか?」

「ええと……べ、勉強エンジョイ部です」

「勉……強エンジョイ部?」

「え?」という表情を彼女はした。

「は、はい。すみません、変な名称で。でも、それが一番正確だからって言うものですから」

 大塚が。

「はあ……。えっと、部員になるのは何名ですか?」

「一人です。私、一人」

「え? だって今、部の名称は『それが正確』だと言った人がいるって。少なくとももう一人はいるんじゃないですか?」

「いえ、いろいろ訳があって……とにかく私一人です」

「そうですか……」

 直視していないので定かではないが、役員の人の顔の怪訝度合いがどんどん増していっているように感じられた。

「真面目にやります。ふざけてはいませんので、よろしくお願いします!」

 私は思いきり頭を下げた。


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