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しかし、訳がわからないみんなは、なぜ生徒会役員を辞め、NSOなどというものをつくって、そっちで活動する必要があるのか、はっきり語らない私に対して、その後の休憩時にも問いかけを続けた。
「なあ、どういうことなんだよ?」
「うん……」
やばいな。こんな態度だと、NSOを開始しても受け入れてもらえず、活動に支障が出る。どうしよう。
すると、聞き覚えのある声がした。
「それは、私が彼女を引き抜いたってことだよ」
そして近づいてきたのは、畑中さんだった。
「生徒会って、文字通り生徒の会のはずなのに、どれだけ生徒のためになることをやってる? うちの執行部は校則について取り組んでるからましだけど、満足できるほどじゃなくない? 別に批判したいんじゃなくて、多分どこの学校も似たり寄ったりで、それは生徒会ってものが実質学校の下請け機関っていうかさ、管理下にあって、無難なことしかやりにくいようになってるからなんだよ。それに、一般の生徒の生徒会に対するイメージも、だいたいこういうものだってできあがっちゃってて、みんなのために役員が頑張っても、その気になってもらえない可能性がある。そういったことから思う存分活動できていない須永さんを目にして、私自身何か面白いことをやりたかったのもあって、NSOを考案して、声をかけたってわけ」
「ふーん」
そういう声を出したりして、私を囲むようにして居る人たちはおとなしくなった。
畑中さんは続けた。
「目新しい団体で興味を持ってもらいやすいし、今話したように生徒会よりも自由で柔軟に生徒みんなの助けになっていくことをやっていく予定だから、関心があるなら加入も歓迎するよ。NSO『ナッツ』にね」
「ナッツ?」
周りの一人が言った。
「そう。創始者の私の名前が『奈津』だから、もじって『ナッツ』」
「名称はダサいけど、よろしくね」
田宮さんが近寄ってきて畑中さんの腕にしがみつきながらそう口にした。
「聖、どこがダサいのよ?」
畑中さんはほおを膨らませた。
「謙遜だよ、謙遜」
田宮さんは可愛らしい表情で畑中さんに返した。
「ちょっと待って。よろしくって、田宮さんもその一員なの?」
そばにいる男子が訊いた。
「うん。そうだよ」
「じゃあ、俺も入ろっかなー」
男子はデレッとした顔になった。
「加わるぶんにはいいけど、聖に変なことしたら、私がただじゃおかないからね」
「は、はい……」
畑中さんが猛獣を思わせるくらいのすごく鋭い視線を浴びせ、彼は凍りついたようになったのだった。
放課後の廊下で、畑中さんと田宮さんとの三人の状態で、私は言った。
「ありがとう」
畑中さんに向けた言葉だったが、田宮さんがしゃべった。
「いいの、いいの。なっちゃんには普通のことだから。こっちこそ、なっちゃんを元に戻してくれたようなものだから、ありがとね」
相変わらず彼女は可愛らしさが際立つ。
畑中さんも口を開いた。
「それに、これからでしょ。まだNSOで何もやってないんだから」
「うん」
気持ちよくうなずいたけれど、問題が残っているのを思いだした。
「ただ……」
「ん?」
私は生徒会役員を辞めたときの話をした。辞表は出したものの、認めてくれないかもしれないし、先生にも了解はされていないことを。
「もしそれ絡みで何か言ってきたら、突っぱねちゃえばいいし、駄目だったら私が対処するから安心しなよ」
「そうそう。なっちゃんを敵に回したら、相手が校長だろうが文科大臣だろうが、痛い目に遭うだけなんだから」
二人は頼もしい態度で言葉をかけてくれた。
そうして会話を終え、彼女たちは一緒に帰っていた。
「ありがとう」
思わず私はつぶやいたが、感傷に浸っている余裕はない。みんなに、その存在と、生徒会以上に助けになる組織にすると宣言してしまったのだから、NSOでの活動をしっかりやらなくては。




