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閉塞感を吹き飛ばせ  作者: 柿井優嬉


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5の2

「須永さん」

 前の会話の翌日、また休み時間に廊下で、田宮さんが私に声をかけてきた。

「ん?」

「昨日聞いた悩みなんだけど、いい解決方法を思いついたの。ね? なっちゃん」

 彼女は、一緒に来た、あの無口な印象の、顔なじみではないが同学年なので私も名前は知っている、畑中さんに言った。って、昨日のあれは他の役員批判といっていい内容だったから察してほしかったのに、しゃべったの? 田宮さん。あー、やっぱり話すんじゃなかったか。

 そして畑中さんが口を開いた。

「だったら、役員という肩書を外してやればいいんじゃない?」

「え?」

「例えば、『法に触れなければ何をやってもいい』って言うと、その人は法には抵触しない悪さをするように感じるけど、別に善いことにだって当てはまるはずなんだよ。どういうことかわかる?」

 ん?

 私は首をひねった。

「生徒会役員としてやりたいことができないなら、いち生徒の立場ですればいいでしょ? 一般の生徒が通常役員が行う活動をしちゃ駄目だってルールはないんだから」

「……あー、なるほど」

 それにしても……。

「なに、私に顔に何か付いてる?」

 畑中さんは私に訊いた。

「あ、いや、畑中さんて、おとなしい人なのかと思ってたから」

 すごく堂々とした話しっぷりだった。

 すると田宮さんが声を発した。

「フフフ。それはね、なっちゃんが『陰がある女はモテるか』を調べるために、そういうキャラを演じてたからなんだ」

「え?」

 なに、それ。

「何か思い詰めてる感じで、ほとんどしゃべらない、謎めいてる、そういう女を男は好きなのか調査してたんだよ。ね? なっちゃん?」

「まあね。でも、聖がそばにいると、それっぽい視線を向けられても、私になのかわからないから、しばらく近寄るなって言ったのに、全然聞かないんだもん。もうやめるわ、飽きてきたし」

 聖というのは田宮さんの下の名前だ。

「やったー」

 田宮さんはバンザイした。

「なっちゃんの陰のある女の芝居も面白かったけど、近くに来るなって言って相手にしてくれなくて、つまらないほうが大きかったんだから」

「ったく、だから……そうそう、ごめん」

 畑中さんが私に意識を戻した。

「で、やりたいことって何なの?」

 ……これはしゃべっていいか。

「中学生のときにね、同学年に、経済的な理由で修学旅行に行けないコがいたんだ。詳しくは知らないけど、アメリカではそういった場合、大人だけじゃなく生徒も寄付を集めるんだって。今うちの生徒会で取り組んでる校則の問題や昔の学生運動は学校や大人と闘ったり、役員が一般の生徒に対して風紀を乱さないように取り締まったりっていう性質が強いけど、私は生徒会をもっと生徒同士が助け合う組織にしたいんだ。お金の他にも、例えば進路に関して先生たちは情報をくれるにしても、生徒からすると求めてるのとはちょっと違うんだよなみたいことってけっこうある気がして、当事者の自分たちでやったほうがうまくいくケースは少なくないと思うしね」

「ふーん」

 畑中さんは何かを考えている感じの表情になった。

「だったら、こうするのは? 生徒会役員を辞めて、新しい組織をつくるの。そうだな……NGOやNPOのような団体で、そうイメージもしやすい、NSOっていうのはどう? ニュー・スチューデント・オーガニゼーションの略で、だから意味は『新・生徒組織』。……うん。これ、よくない?」

 ……。

「う、うん。いいね」

「だよね。うん、うん」

 畑中さんは満足そうにうなずいた。

 まもなくチャイムが鳴り、話はそこで終わった。


 数日間、私は変わらず鬱々とした日々を送っていた。

 そんななかで、休み時間に畑中さんが私のもとにやってきた。

「NSOの件、どうした? 生徒会役員は辞めたの?」

 え……。

「あ、いや……」

 あの話、冗談じゃなかったんだ。

 すると、私の様子ですべて理解したのだろう、軽くため息をつくと、畑中さんはつぶやいた。

「何だ、本気じゃなかったのか」

 そして、じゃあねと手を振って、彼女は自身のクラスの教室のほうへ去っていった。

 ……。

 私の頭の中で、畑中さんの最後の言葉が響き渡った。

 本気じゃない——。

 小学生のときだ。いじめられていた同じクラスのコにどうにかしたい気持ちがあることを伝えたら、こう言われた。

「本気で助けてくれるつもりなんてないくせに」

 ……私は……。


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