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「須永さん、何か悩んでる?」
「え?」
私は戸惑い、答えに詰まった。
通っている高校の廊下で、休み時間に、クラスメイトの田宮さんからされた問いは、正解だった。しかし、「そうなんだよ」とは返しづらい。悩みをベラベラ話すほど、目の前の彼女と親しくないのだ。学級が一緒なだけの間柄と言っても差しつかえはないだろう。他人に違和感を持たれるような暗い顔はしないよう努めていたけれど、知らず知らずのうちにしてしまっていたということか。とにかく、訊かれて驚いた。
「うん、まあ……」
私が曖昧な態度をとると、田宮さんは悲しそうな表情になった。
「私なんかに話すのは嫌? 私は須永さんのこと友達だと思ってるけど……」
「そんな、嫌なんかじゃ全然ないよ」
目一杯否定したものの、どうしようかな。田宮さんはとても可愛らしいコで、男子に人気があるのだが、あまり性格がいいようには感じない。でもそれは、私は別に男にモテたいなどと思ってはいないけれど、にしても本能的にというか、嫉妬しているからというのもあるのだろうか。
そうだ。この人は、違うクラスの無口そうなコと一緒にいる姿を幾度か見た覚えがある。興味があるわけではないが、まったくタイプが異なり、仲良くなりそうにない組み合わせゆえに、印象に残っているのだ。田宮さんがああいう人と付き合いがあるのは、今の私に対してと同じように、心配といった理由で声をかけてあげたからかもしれない。とするなら、すごく善いコなのかも。
「私、生徒会役員でしょ。それで、ちょっとね」
私は言った。
「えー? うちの生徒会って、校則の改正に取り組んでて、活動熱心だよね? 須永さんも真面目で、うまくいってそうなのに、何があったの?」
うーん、さらに突っ込んできたか……。
「まあ、いろいろね」
「やっぱり、私なんかに話したくないんだ……」
ぐわっ。また落ち込んじゃった。
「いや、違うよっ、ごめん! 私はね、もっと他のこともやりたいんだけど、みんなは現状で満足みたいなんだ」
「え? どういうこと?」
「おかしな校則の問題って、ブラック校則っていう言い方で、メディアで取り上げられたり注目されてるものだから、それを扱っていればいいっていうのかな? 要は、生徒会でしっかり活動したという実績が欲しいだけの人が多くて、校則についてやってるんだから十分でしょって感覚なの。私は一人でもいいから他の取り組みもしたいって訴えてるんだけど、そうすると自分たちが怠けてるみたいになるから駄目って止められちゃってて」
「ヘー、そうなんだ」
やばい。ちょっとしゃべり過ぎたな。
「っていっても、そこまで思い悩んでるわけじゃないから、全然大丈夫だから、気にしないで」
「ふーん、そっかー」
私の最後の言葉は耳に入っていない様子で、田宮さんはそうつぶやきしながら離れていった。




