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何だ? 私に気づいたのか?
一瞬そう思ったけれど、真後ろで警戒して後をつけていたし、様子からしても違うっぽい。それで、斜め後方から覗くように顔を見ると、なんかデレッとした締まりのない表情をしていた。
んん?
彼の視線の先に目をやると、肌の露出が多めの服を着た、可愛らしい二十歳くらいの女性がいた。
こいつ、死んでも変わってない……。
お調子者なのともう一つ、際立った特徴があるのを、忘れてはいなかったがはっきりと思いださせられた。大塚は女好きで有名で、すぐに恋に落ちる。「惚れマシーン」という異名があったほどなのだ。
一気に緊張が解けた私は、その勢いで話しかけた。
「ねえ、大塚幸平くん」
「え?」
振り返った彼は、二、三回大きくまばたきをしてから、声を発した。
「俺が見えるの? ってか、誰?」
近距離の真正面で改めて見た顔、そして大塚と呼ばれて否定しなかったことからも、本人で間違いないようだ。
「私、あなたと小学三、四年生のときに一緒のクラスだった、栗原真琴。覚えてる?」
「……あー」
記憶が蘇ったらしく、何回か小刻みにうなずいた。
「真面目で、ちょい気が強い、栗原な」
そういう認識か。まあ、外れてないし、他のこれまでのクラスメイトの多くもそう思っていそうだ。
「で、なんで俺が見えるの?」
大塚が尋ねた。
「何なの? その『見えるの?』って。見えるよ、そりゃ」
「だって、他の人みんな、俺のこと見えてないみたいだぜ」
え?
「そうなの?」
私は辺りを見回した。しかし、住宅街と言っていい場所で人が少なくて雰囲気から判断するのは無理なうえに、赤の他人に「彼が見えますか?」なんて尋ねられるはずもなく、本当かわからない。
「いいや、ひとまずそれは置いといて。あなたさ、死んじゃったんじゃないの? どうして居るの? 幽霊ってこと?」
「それはこっちが訊きてえよ。まあ、幽霊なんだろうな」
大塚は軽い調子で答えた。
「何よ、それ」
「だって、神様みたいのが現れて、『お前は幽霊になったのだよ』って言われたわけじゃないからさ」
「……そっか、なるほどね。じゃあ話を戻すけど、本当に他の人にはあなたのことが見えてないの?」
「ああ。そんな嘘ついたってしょうがないだろ」
「確かにね」
それに、振り返ってそのことを口にした態度を考慮しても。
「ただ、頑張れば見えるようにできるんだ。いろいろ試してみて、わかった」
「頑張れば?」
「これから戦うぞって感じで、体に目一杯力を込めるんだ。でも、気をゆるめるとまた見えなくなるし、面倒くさいから、よっぽどのときしかやらねえけど」
「へー」
幽霊ってそんななの? 変なの。
あ、でも、生前ひどいことをされた相手のもとに、ものすごい負のエネルギーで現れるっていうイメージはあるな。
「俺、弟と妹がいて、そうやって見えるようにできるのに気づいた、今からだいぶ前にちょっと姿を現したんだけど、二人ともまだ幼くて、『消えたり現れたりして混乱させるのは良くないかな?』とか、『俺が死んだ現実を受け入れる邪魔をするのもな』って思って、もうやらないことにしたんだ」
「ふーん。だけど、どうして私には見えるんだろ?」
「だよな。不思議だ」
あ。