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家庭学習保護法案を代表委員会にクラスの案として提出するかを決めるロングホームルームの時間になった。
そうしようと擦り合わせた人もいるのか、個々の判断で偶然なっただけかはわからないけれど、ほとんどが否定的な意見だった。
そんななかで、私も挙手をした。
私が岡部くんの味方をするのか、それともしないのか、気になってであろう、他の人よりも注目の度合いが大きいと感じられた。
「私は……私も、ですが、反対です」
私は岡部くんが意識にありつつ考えないようにして発言した。
「理由は?」
場を取り仕切っているコが尋ねた。
「この案だと、宿題を出す、肝心の先生たちの賛同は得られにくいでしょう。ケンカを売っているくらいに取られる可能性もあって、それを望んでいるのではないはずです。一方で、岡部くんの言い分にはうなずける部分も含まれていると感じました。そこで、どうすればいいのか考えたんです。すでに十分やっている人もいるかもしれませんが、生徒がもっと自発的に勉強するようになればいいのではないでしょうか? 例えば、主体的な学習によって理解度が向上したうえで、宿題について先生方に相談を持ちかけるかたちにすれば、廃止にならないまでも減る方向には行くのではないかと思います。しかし、自主的に勉強をやる気になんてなれないとか、やり方がわからないなどと考える人は少なくないでしょう。ですから、そうできるようにサポートする、学習委員会というものを立ち上げるのはいかがかと思います。おそらく、そんなの要らない、宿題は今までと変わらずあっていい、という人もいるでしょうけれども、であれば、利用しなければいいんです。勉強するよう迫るのではなく、必要を感じた相手に力を貸す機関ですので。ただ、宿題の有無に関係なく、勉強を今よりも主体的に、そしてやる気になれたらいいと思いませんか? 提案した以上、私がその委員の一人になるつもりですが、うまくできるかはかなり不透明です。助けてくれる気持ちがある人はお願いします。『こうすれば?』など助言だけでも構いません。そもそも、みんなで協力して運営するイメージでいます。また、学習意欲や成績が上昇して宿題が減るならば、多忙なことがよく知られている先生方の負担軽減にもなるはずです。つまり、生徒と先生の両者ともに喜ばしいわけです。といってもくり返しになりますが、勉強をもっとやるよう圧力をかけるような組織ではないので、興味がないなら無視して結構です。その学習委員会について、先生には今述べたままをすでに話して許可をもらっていまして、活動の詳細が決まり次第皆さんに報告する予定でいます。ちょっと話が逸れる格好になってしまいましたが、私からは以上です」
「何だ、それ」という空気になったけれど、勉強を強制するような委員会ではないと言ったからか、「まあ、いっか」といった感じで少しして収まった。
そしてメインの岡部くんの提案は否決されたのだった。
私は学習委員会を始めていった。その中身は、例えばテスト。学校の定期試験は、直前に詰め込んで、結果が良かったか悪かったかだけでおしまいとなりがちだ。それを学習委員会では、各教科で一年間に学ぶ内容を細かく分けた範囲ごとのテストを用意し、そのなかから自分で好きなときに好きなものを選んで実施して、八割以上正解できたら一応合格、駄目でも何回でもチャレンジでき、学年末までに可能な限りクリアを目指す形式にした。一応とは、点数を取ることではなく理解できているかが重要で、八割超えならまあOKだろうという目安で、本人が不十分だと思えば、たとえ九割以上合っていても、この場合も再度受けることが可能なのだ。そうしたシステムにしたのは、ホームルームで言ったように主体的な学習と、何よりしっかり身につくという考えだからである。
他には、勉強が後にどう役立ったかについて記された著名人のエッセイやコラムの紹介であるとか、職業別に必要となる学問の情報、作文の書き方など学習のやり方の例の提供等を行った。
すると、最初は誰にも相手にされない状態だったのが、こっそり勉強に関する相談を受けるようになり、学習委員会を利用した人の成績がアップしているという話が出てきて、途端に歓迎される存在になった。
「コツコツ真面目に頑張って活動してたからさ、なんとかしてあげたくなったんだよ」
今では委員のメンバーで、みんなから認められるように一役買ってくれたコが、あるとき私に言った。
「ありがとう」
ただ、その優しさがあるのならば、岡部くんにも、という気持ちが私にはあった。
とはいえ、難しいのもわかる。彼は変に陽気な振る舞いのままで、つまり不登校以前とは異なるものの、みんなが接しづらい雰囲気はまき散らし続けているのだ。私に近づいてくることはなく、おかげで学習委員会は岡部くんと関係はないと判断されて、許容されやすくなっただろう。
だけど……。




