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閉塞感を吹き飛ばせ  作者: 柿井優嬉


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 夏休みは終わり、二学期に突入した。

 渡瀬さんのことがずっと頭にある状態が続くなか、俺は自分が彼女に何を望んでいるのか、徐々に自覚できてきた。

 渡瀬繭子に生徒会長になってもらいたい——。

 どうやらあの自由研究に、担任の難波先生はいい顔をしなかったようだ。おそらく、自由研究は何をやるか試行錯誤して自分で決めることも勉強になるのに、といった考えからであろう。しかし、普段授業でそんな学習をしていないのに、夏休みにいきなり取り組むことを選ぶところからすべて自由に勉強しなさいと言われても、困るのが当たり前で、そもそも教員側に問題があるだろう。悪事を働いたわけではないし、叱るまではしなかったと思うけれども、何らかのかたちで歓迎できない旨を渡瀬さんに伝えた様子が見て取れた。そんなことして萎縮したらどうするんだ、せっかくの素晴らしい才能の芽を刈り取るつもりなのか、と俺は憤ったし、それが元々の学校への不満に積み重なって、この場所を変えたいという以前からおぼろげにあった気持ちが明確に意識するほど強くなり、彼女ならやってくれるのではないかと夢見たのだった。

 そこで俺はさっそく行動を開始した。というのも、他の委員の任期は前期と後期による半年だが、生徒会役員だけは、四年生の後期から五年生の前期と、五年生の後期から六年生の前期の、一年間となっているので、生徒会長になるなら現在の五年生の後期のタイミングでの就任しかチャンスは残されていないし、役員選挙までの日数が少なくなっているのである。

「渡瀬さん。自由研究のアイデア、すごくよかったよ。その能力を活かして、生徒会長をやるといいと思うんだ、俺」

 このような具合に彼女に声をかけた。

「えー。私に生徒会長なんて無理だよ」

 予想した通りの返答だった。控えめな態度は印象としては良いが、時間がない今は特に、乗り気じゃないのはいただけない。ここは遠慮している場合ではないと、俺はしつこいと嫌がられないギリギリの頻度を計算しながら幾度もアプローチした。

「あれ? 石山くん、また渡瀬さんにしゃべって。もしかして好きなんじゃないの?」

 他の生徒たちから離れたところで話すほうが、見られたときそういう面倒な展開になると考え、教室などで堂々と接近していたけれど、一緒だった。

 ったく。くだらねえこと言うなよ。

 そうイラッとしつつも、やはり気にしてはいられない。

 だが、彼女と仲がいい女子からも妨害が入った。

「石山くん、何なの? 繭子、困ってるみたいだけど」

「ほら、夏休みの自由研究、すごい発想力だって感心してさ。生徒会長をやったら絶対にいいから立候補しなよって勧めてるんだけど、自分には無理なんて言うから、そんなことないよってまた勧めて、そのくり返しなんだ」

「ふーん」

 俺は悪く思われないために努めて明るく説明し、もうやめろと釘を刺されたりはしなかった。ただ、警戒心たっぷりの視線を浴びせられたのだった。


 学校が終わり、帰ってきた自宅の自分の部屋で、俺は考えを巡らせた。今の状況では、渡瀬さんに近づきづらいだけでなく、肝心の彼女をやる気にさせるという地点に到底たどりつかない。

「うーん……」

 そのまましばらくの間頭を働かせた後で、電話を手に取った。

「あ、渡瀬さん? 俺、石山だけど」

「うん。どうしたの?」

 自由研究で結果を報告にいくので、番号を教えてもらっていたのだ。

「学校で、ごめん。嫌がってるのに何度も」

「ううん、別に嫌じゃないよ。こっちこそごめんね、せっかくいいと思うって言ってくれてるのに、何回も断って」

「教室だといろいろ言ってくる人なんかがいるから電話させてもらったんだけどさ。俺、軽い気持ちで渡瀬さんに生徒会長を勧めてたんじゃないんだ。とはいっても、そんなに重く受けとめなくていいんだけど。とにかく、その思いをちゃんと伝えたいから、ちょっと長くなっちゃうかもしれないけど、今から話していいかな?」

「……うん、いいよ」

 そして俺は語った。ずっと学校に違和感を覚えていたこと、具体的におかしいと思うところ、彼女の自由研究のアイデアで受けた衝撃、といった内容を。

「だから生徒会長をやってもらいたいんだ。渡瀬さんは自分の思うようにやってくれればいいし、後で期待外れだったなんて文句を言ったりももちろんしない。そんな簡単に学校を変えられるわけないんだから。必要なら、俺が思ったことや気づいたことを伝えたり、できる限り助けるし。それでもやっぱりやりたくないなら諦めるけど、真剣に考えるだけ、してみてくれないかな?」

「……わかった」

 通話を終えて、俺は横になって息を吐いた。

「フー」

 こんなに自分の言いたいことを誰かに口にしたのは、本当に幼い頃に親にしたのを除けば、初めてじゃないだろうか。とてもすっきりしたし、晴れやかな気分だった。


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