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「大塚ー! どこ行ったー!」
放課後、相変わらず姿が見えなくなるあいつに、学校を離れたひとけのない道端で、私は声を張り上げた。
「出てこいや!」
「お前、いつのまにそんなギャグを身につけたんだ?」
そう口にしながら、現れた大塚はのんきな態度でゆっくり近づいてきた。
「ギャグじゃないっ!」
もう何度目か、私は間近で大声で言った。
「うるせーな」
大塚は耳をふさいだ。
「好きな曲を訊くやつ、やるかどうか決めてなかったのに、勝手に声をかけないでよ! やっぱりうまくいかなかったし! それに、最近すぐにいなくなって、ずっと女の人を物色してんの!」
「まあな」
「ふざけんな!」
「まーた怒る。ヒステリックだな、お前」
「学校を明るくするどころか、私の学校での立場が悪くなっただけじゃない。あんたなんか信じるんじゃなかった! もう、いい! どうせ未来は暗くて、私にそれを変えるなんてできっこないんだから、おしまい!」
私は大塚に背を向けて、帰宅するために駅のほうへ歩きだした。
「悪かったよ」
ちょっとして、大塚がそう声を発した。
「……」
「本当は、女のコを見るのも確かにしたけどそれはおまけで、なんとかしようと真面目に動き回ってたんだ」
「うそ」
「噓じゃねえ」
「動き回ってたって、どういうこと? いったい何をしてたっていうのよ?」
「それは……説明する前に、まずはこちらをご覧ください」
「はあ?」
ついてきて後ろにいる大塚に目をやったら、私じゃなくて横の方向を向いていた。
「なに、それ? 急に敬語になったし、誰に言ってんの?」
「これを読んでる人」
「読んでる? 何を言ってんのって」
訳わかんないんだから、もー。
「まあまあ、いいから」
私になだめるようなジェスチャーをすると、大塚は再びあらぬほうに視線を注いだ。
「では、どうぞ」




