表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

73/136

No.073

 監視カメラの映像があるので、俺を拘束するというのはわかる。

 だが、ウチのメンバーまで拘束する必要はないはずだ。

 そもそも帝国魔法取締局(マトリ)が、簡単にこのオフィスに入って来ている時点でおかしい。


 となると、俺たちはGPAから切り捨てられた可能性が高いな……。


「これがサリンジャーの出した条件か?」

「上でどんな交渉があったのか、私は知らないし、どうでもいい。お前たちさえ尋問できればな」


 やはり、すでに話はついているようだ。

 腹は立つが、しかたない。サリンジャーもGPAを守ることを優先したのだろう。


「……尋問と言ったが、その中にメリーナは入ってないよな?」

「当然じゃないか! まさか十三継王家の次期当主ともあろうお方を、私たちが尋問するなど、畏れ多いこと。メリーナ様の処遇は、いずれ枢密十三議会にて決められるはずだ」


 スネイルは大げさな身振りを交え、芝居がかった口調で話す。

 あまり信用できないが、さすがにこいつも、直接メリーナに手を出せるほどの力はないはずだ。


 しかしメリーナは、俺の手を握りしめていた。その手が、かすかに震えている。


「団長……」


 ソウデンが剣を抜こうとする。

 しかし俺は黙ったまま、首を横に振った。


「ライライ、大人しく拘束されるってことでいいのよね?」


 ロゼットが確認してくる。

 俺はそれに対しては、とりあえず小さくうなずいておいた。


 するとスネイルは、喜色満面で喋り出す。


「安心してくれ。ウチの連中は拷問好きだが、女性には優しいからな。しばらくの間は、レディーには手を出さないはずだ。しばらくはなぁ」


 スネイルはねっとりとした口調で言いながら、ロゼット、アイマナ、プリの顔を順々に見ていく。

 ロゼットたちは三人とも、全身に緊張感をみなぎらせていた。だが、怯えなはない。さすがにこの仕事を続けているだけあって、三人とも覚悟は決まっている。


 一方、ジーノは情けない声を上げていた。


「ボス〜、本当に捕まって大丈夫なんすか? オレ、拷問なんてされたら全部ゲロっちゃいますよ〜」


 まあジーノは、そうなるだろうなとは思っていた。

 だが、ここで俺たちが力づくで反抗すれば、それこそメリーナの立場が危うくなってしまうのだ。下手すれば、サンダーブロンド家そのものが、消滅させられる可能性だってあり得る。


 ただ、そうかといって、このまま大人しく従うつもりもない。

 と、俺はスネイルに声をかける。


「連行されるのは構わないが、その前にスミス・タイトマン本部長へ連絡してくれ」

「なぜだ?」

「俺たちの直接の上司なんだが、彼はこのことを知らないだろ? もし急に俺たちがいなくなれば、不審に思って何かしらの行動に出るかもしれない」


 そんな取り決めはないし、俺たちが消えてもタイトマンは何もしないだろう。

 しかしスネイルは、こっちの内情など理解してないはずだ。


「お前らの内部事情に付き合う必要はない」

「十三継王家の命令で来てるんだろ? 現場を掌握できてないとみなされるのは、あんたにとってもマイナスなんじゃないか?」

「……具体的に何が起こるというんだ?」

「いきなり仲間を消されたとなれば、さすがにGPA(ウチ)も黙っていない。枢密十三議会に乗り込んでいく奴もいるかもな」


 もちろん、そんなことはない。しかしこの男は、自分の行動で十三継王家に迷惑がかかることを嫌うはずだ。


「なるほどな……」


 そうつぶやくと、スネイルは床を見つめて考え始めた。


「…………」


 10分以上が経っても、スネイルは床を見つめていた。


 ダメか?

 俺がそう思ったところで、スネイルがおもむろに口を開いた。


「さすが私を騙していた腐れ探偵だ。往生際が悪い。それで、お前の上司はどこにいる?」

「このビルの最上階、13階だ。呼んでこようか?」

「くくっ……その手は想定済みだ。甘く見るなよ? ウチの部下に行かせるに決まってるだろ。そんな姑息な手で逃げられると思ったら、大間違いだ」


 スネイルはそう言うと、周りのローブ集団に指示を出し始める。

 おかげで奴の注意は、完全に俺から外れた。

 このわずかな隙こそ求めていたものだ。


 俺は誰にも聞こえないほどの小声で囁く。


「プリ、アイマナだけ連れて逃げろ」


 プリが俺の顔を見る。目が合い、うなずく。

 そして次の瞬間――。


「行くわね!」


 プリは一言だけ声を上げると、そばにいたアイマナを担ぎ上げる。


「プリちゃん!?」


 アイマナは突然のことに驚き、何かを言おうとする。しかし彼女が次の言葉を発する前に、プリは窓を突き破って外へと飛び出していった。


「貴様!」


 スネイルが泡を食って俺に掴みかかってきた。

 だが、俺は極めて冷静に対応してやる。


「申し訳ない。部下に裏切られてしまったらしい」

「なんだと……」

「あいつらは、俺と一緒に捕まるのが嫌だったんだろうな」

「貴様が逃したわけじゃないと言うのか?」

「いつ俺がそんな指示を出した?」

「このゴミが!」


 スネイルが拳を振り上げる。

 その動きは、まるでスローモーションのように、ゆっくり見えた。

 でも俺は、よけることはしなかった。


 ゴンッ!


 骨まで響く衝撃音が耳の奥から聞こえ、頬に鈍い痛みが走った。

 口の中に、じんわりと鉄の味が広がる。


「ライライ!」

「団長!」

「ボス!」


 ロゼットたちが口々に声をあげる。

 メリーナは、握りしめる手にさらに力を込めてきた。


 それでも俺は、感情を抑えながら話す。


「いいから、そのままにしていろ。俺たちが抵抗しなければ、これ以上揉めることはないはずだからな」


 俺は、目の前に立つ水色ローブの男を睨みつけた。

 すると奴は、少しだけたじろいだ様子を見せる。その顔には、わずかに悔しそうな表情が浮かんでいた。


「くっ……いいだろう。冷静に考えれば、お前のような無能が、部下に裏切られるのは不思議なことではない。あの二人は勝手に逃げたことにしてやる。その代わり、お前だけは死ぬほどいたぶってやるからな」


 こうして、俺と、ロゼット、ジーノ、ソウデンは帝国魔法取締局(マトリ)によって連行されることになった。


 しかし俺たちが縄で縛られても、メリーナは最後まで俺の手を離そうとしない。

 なので俺は、心配させないように笑ってみせた。


「すぐにまた会える」

「ライ……」


 繋いでいた手は解かれ、メリーナの目から涙がこぼれ落ちた。


 その視界を遮るように、スネイルが間に立ち、俺を睨みつけてくる。


「女を騙すのだけは得意みたいだが、もう二度と会うことはできないぞ。下賤なゴミ野郎が。ほら、さっさと歩け!」


 縄で引かれ、俺は歩き出す。


「ライ! わたし、イヤだから! これが最後なんて、絶対にイヤだから!」


 メリーナの悲痛な声を背後に受けながら、俺たちはオフィスを後にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ