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100/136

No.100

 シルバークラウン家の庭は、他のどの王宮よりも広い。その広大な空間にも、多くの人がひしめき合っている。

 庭も至る所に装飾が施され、派手にライトアップされている。夜なのに、昼よりも明るいくらいだ。


 そんな庭の片隅で、メリーナはロゼットと二人きりでベンチに座っていた。

 さっきからロゼットがずっと励ましの言葉をかけているが、メリーナの反応は良くない。二連続で説得に失敗したことが、やはり尾を引いているようだ。


 俺とアイマナは、モニター越しにその様子を見守っていた。


「メリーナさん、大丈夫でしょうか?」

「大丈夫じゃなくても、立ち直ってもらわないと困る」

「最近のセンパイ、メリーナさんに厳しくないですか?」

「……大帝王になるにしても、なった後でも、メリーナには困難が降りかかる。今の比じゃないくらいにな」

「もしかしてセンパイ……メリーナさんを突き放そうとしてるんですか?」

「独り立ちしてもらいたいだけだよ。次の大帝王が誰になるにせよ、俺たちはもう彼女のそばにはいられないんだからな」

「そっか……これって任務なんですよね……」


 今はGPAが組織の(てい)を成してないが、それでも俺たちがメリーナのそばに居続ける理由はなくなるのだ。


「いま言うことじゃないと思いますけど、センパイって残酷です」

「本当にいま言うことじゃない」

「マナがメリーナさんの立場なら、一生恨むと思います」

「だから記憶を消すんだよ」

「……残酷です」


 それからしばらくの間、俺たちは黙ったままモニターを見つめていた。

 すると、ふいに耳の奥から声が聞こえてくる。


『団長、ヴァン様のお時間が取れました。どちらへお連れしましょうか?』


 ソウデンから連絡を受け、俺はメリーナたちの様子を窺う。

 画面越しではあるが、メリーナも随分と回復したように見える。


「ちょうどよくメリーナたちが人気のない場所にいる。庭の南側だ。近くに趣味の悪い、銀色の噴水がある」

『では、15分後に』


 ソウデンは簡潔に答える。

 それを受け、俺はロゼットたちにも話しかけた。


「ロゼット、今のを聞いたな。メリーナに準備させてくれ。それと、ジーノ。メリーナとヴァンの会談が人目につかないようにしろ。特に、フィラデルの臣下は絶対に近づけるな」


 俺の指示に、二人は黙ったままだったが、大きくうなずいていた。



 ◆◆◆



 予定していた時間から遅れること10分ほど。

 メリーナの前に、ソウデンと共に一人の男が現れる。

 その姿は、継王(つぐおう)とは思えないほど個性的だった。


 背はメリーナよりも低く、顔も幼くて中性的。着ている服は黄緑色を基調とし、全体的にダボっとしている。式典の場とは思えないほどカジュアルな格好だ。クラブで踊ってるほうが似合ってるだろう。

 しかし、間違いなくこの男が<ヴァン・シャルトルーズウィング>なのだ。


『へぇ〜、キミがメリーナさん?』


 ヴァンは前置きも挨拶もなく、軽い口調で話しかける。

 それに対して、メリーナは明らかに戸惑っていた。


『えっと……この度は貴重なお時間をいただき――』

『ああ、いいよいいよ。そういうのはさ。ボク、堅っ苦しいの大嫌いなんだよね〜』

「あっ、はい……すみません」


 メリーナはあからさまに気圧されていた。

 それを見かねたのか、ソウデンが助け舟を出した。


『ヴァン様。メリーナ様は、継王になられて日が浅いのです。どうか、お手柔らかに』

『うわー、ソウちゃんが他人を気づかってるとこ初めてみたわー。その優しさ、ボクにも発揮してくれない?』

『必要とあらば、いつでも』

『どうせ口ばっかじゃん。そんで、ダンチョーはどこにいんの?』


 そう言いながら、ヴァンの視線がこちらに向けられる。モニター越しに、目が合った気がした。


「監視カメラで見てること、ソウデンさんが話したんでしょうか……」


 アイマナが驚いた様子で尋ねてくる。

 俺は静かにため息をついてから答える。


「ソウデンは、ウチのチームの一員だ。いくら幼馴染の継王だろうと、こっちの内情を話すことはない」

「じゃあ、あの方が勝手に気づいたってことですか?」


 アイマナの質問には答えず、俺はマイクをオンにして語りかける。


「ソウデン。ヴァンには事情を伝えても構わない。それと、団長と呼ぶのはやめさせろ」


 モニターの向こうで、ソウデンがヴァンに耳打ちする。

 するとヴァンは、監視カメラに向かって、思いきり手を振ってくる。


『ダンチョー、聞いてる? せっかく会えると思ったのに、ガッカリだよ』


 ヴァンはこっちの迷惑など考えず、好き勝手に振る舞っていた。

 さすがに俺もイラッとして話しかける。


「ソウデン、今すぐやめさせろ。それで、さっさと要点だけメリーナと話させろ」


 俺の怒りが少しでも伝わったのか、ソウデンは小さくうなずく。そしてすぐに、二人の継王に対して話し始める。


『今回、お二人を引き合わせたのは、一週間後の大帝王降臨会議で、シャルトルーズウィング継王のヴァン様に、サンダーブロンド継王のメリーナ様への支持をいただきたく――』


 ソウデンは俺の要請通りに話を進めようとしていた。

 しかしその途中で、ヴァンが割って入ってくる。


『いいって、メンドウな話はさぁ。要するに、メリーナさんに票を入れてあげればいいんでしょ? そうしたら、ボクはまたダンチョーと遊べるってこと。違う?』

『相違ございません』


 ヴァンに聞かれ、ソウデンは力強くうなずいていた。

 間違ってはいないが、なんか勝手に俺の未来が決められた気がしてモヤモヤする。


 とはいえ、これで1票が手に入るなら安いもんか……。


『ありがとうございます!』


 メリーナは大げさに頭を下げるが、ヴァンは大して気にしないといった感じで、背を向ける。


『そんな動きしたら、周りにバレちゃうよ〜』


 最後まで軽い口調で言うと、ヴァンはソウデンと共に去っていった。

 その後ろ姿を、メリーナは少しのあいだ見つめていた。


 ヴァンの姿が完全に見えなくなると、メリーナは大きく息をつく。緊張が抜けたのだろう。ロゼットに支えられるようにして、再びベンチに腰を下ろした。


 モニターで見守っていた俺たちも、大きく息を吐き出した。


「なんだか、こっちまで緊張しました」


 アイマナもそう感じたらしい。俺も、画面越しだったのに、妙な重圧を受けた気分だ。


「あいつは、継王の中でも曲者中の曲者だからな。ある意味、一番まともな話ができない奴だ」

「兄たちを退けて、継王になっただけのことはありますね……」


 2年ほど前。初めてソウデンと知り合った任務のことを、ふと思い出した。

 正直、二度と関わりたくない相手だが、こうなってしまったらしかたない。


「とりあえず無事に済んでよかったよ」

「接触相手の予定を変更したと思ったら、ソウデンさんが密かに働きかけてたんですね」

「うまくいけばラッキーくらいの気持ちだったが、これで1票を獲得できた。メリーナの気分も、少しは楽になったはずだ」

「そうだといいんですけど……」


 アイマナは視線を動かし、モニターを見るよう促してくる。

 中央の大型モニターには、庭の片隅に座るメリーナとロゼットが映し出されている。

 メリーナは、ぼうっとした様子で噴水を眺めていた。


「疲れてるみたいだな」

「自信をつけさせようとしたのはわかりますが、やはりあの方と対峙するのは大変ですよ」

「まあ次に会う予定の相手は、癒し系だからさ……」


 俺がそう話したところで、ちょうど無線の向こうから呼びかけてくる声が聞こえた。


『ボス、オクサ・グリーンシード様を誘導できそうっす。メリーナ様のとこまでご案内しますか?』

「そうだな。オクサなら、中よりも外の方が良さそうだ。ロゼットも聞いてるだろ? 悪いが、メリーナを助けてやってくれ」


 俺の指示に従い、モニターの向こうでそれぞれが慌ただしく動き出した。


お読みいただきありがとうございます!

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