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案件18:渚のビキニアーマー!

 まぶしい。何がまぶしいって、夜が明けて再び上った太陽がではなく、すぐ隣――いやすごく隣にいる六花の全身がだ。


「あっ、あのう六花さん……?」

「なに……?」


 呼びかけると返ってくる、甘い囁きのような声。それだけでイトの心拍数は爆上がりだが、それを素直に喜べない現状が目の前にある。


「何で金色に光ってるんですか……?」

「ふふ……ナイショ」


 そう言って、肩に頬を摺り寄せてくる。絹のような感触に寒気にも似た快感が全身を走り、否が応にもイトの顔は緩んだ。


 旅館から浜辺のイベント会場までの道中。正確には布団の中からここに至るまでの間、六花はずっとイトの腕を抱き、体を密着させてきていた。そして光り出した。


 くっついている理由はわかりやすい。いづなの怪談にやられた六花が布団に滑り込んできて、そこからの体勢が継続されているだけだ。布団から出て、改めて水着になった今でも。光っている理由はわからない。一応、もう恐怖心は克服したようだが。


 そんな〈サニークラウン〉と〈ワンダーライズ〉が海辺の特設ステージに到着すると、そこにはすでに多くのプレイヤーが集まっていた。


 舞台上に置かれた大きなデジタル時計が、何かのカウントダウンを刻んでいる。残り時間あと十五分。


「皆様、おはようございます」


 集まった聴衆を前に、一匹のコウテイペンギンが挨拶した。事務所の代理役だ。


「〈暮れ色の海賊〉サマーイベント、『波間の貴石狩り』がもうじき開幕となります。当事務所のアイドルたちも揃って参加いたしますので、ファンの皆様もどうか一緒にお楽しみください」


『波間の貴石狩り』。これが、スカグフが本来提供するゲーム内イベントとなる。昨日の撮影会は事務所側が独自に開いたイベントであり、言ってしまえばゲーム内イベントに便乗したプレイヤー主催のイベントと何ら違いはない。


 概要はこうだ。これからイベント制限時間いっぱいまで〈暮れの海賊〉の各地に宝石が現れる。浜辺から岩場や森、そして海底にさえも。それらは球体から正二十面体まで形があり、角が多いほど得られる得点が高い。これを、潮干狩りよろしく収集し、特別アイテムと交換することがイベントの趣旨となる。


 ただし、ただ探すだけとはならない。それを邪魔する者も現れる。


「前回イベントに参加された方はすでにご存じでしょうが、海からは波と共にお邪魔キャラのモンスターが送られてきます。彼らをイベントアイテムの水鉄砲で撃退することでさらなる貴石が得られますが、逆に攻撃されるとしばらく動けなくなってしまいます」


 チャンスでもあり、リスクでもある。戦うかどうかはプレイヤーの判断だ。

 ここまでイトも知っていた。前回イベントに参加する際、ガチャで水着を引けるようAI様に祈る気持ちで、マニュアルを熟読していたのだ。


 だが、今回はそれで終わりではなかったようだ。事務所代理が続ける。


「もうお気づきの方もいると思いますが、今回のレンタル水着には、アーマーモードへの移行機能がついています。これをオンにすることにより、普段よりモンスターの攻撃に長く耐えられるようになりました。ただし――運営会社様の発表によりますと、モンスターからの攻撃を受けすぎた場合……アーマーブレイクが発生し、鎧や水着の一部が破損した状態になるとのことです」


 !!!???

 ざわぁと会場が揺れた。


「アーマーブレイクですか……!?」


 イトも激しく揺れていた。

 アーマーブレイク。鎧や水着の一部が破損。それはもう、あんなものやこんなものがポロリしてしまう可能性もある。いや、AIが自らセンシティブ判定を犯すはずがないので、あくまでセーフなラインではあるだろうが。それでも。


「皆様の水鉄砲とお邪魔モンスターの水鉄砲は同じものですので、うっかりお友達に当てないよう気をつけてプレイしてください」


 そう締められた説明に、ゴクリと生唾を飲む。


「なるほど、フレンドリーファイアでもアーマーブレイクが発生するんですね。その破損というのがどれくらいのものか、今のうちに一回テストしておいた方がいいですねこれは……」


 アイテム欄に自動配布されている水鉄砲をこっそり取り出し、そばで控えている仲間たちに振り返る。これはあくまで本番で動揺しないためのテスト。決して邪な気持ちで仲間を撃つわけでは――。


「へ?」


 六花、千夜子、烙奈の銃口が、すでにこちらを向いていた。

 ビーッ、ビーッ、ビーッ、ボボボボ……。


「うひゃああ!?」


 三方から水鉄砲を撃ちかけられ、イトはその場に座り込んだ。

 アーマースカートが破れ、下のパレオもボロボロ。水着部分は繊維一本でかろうじて繋がっているような状態になってしまう。


「あわわわ、み、見ないでくださーい」

『…………』


 あと一息でずり落ちそうに思える水着を必死に押さえながら、イトは仲間たちに懇願した。が、六花たちは揃ってこちらを見下ろし、


「先に撃とうとしたのはイトちゃんだよね……?」

「わたしだけならまだしも月折さんにまで銃を向けるなんて……<〇><〇>」

「イトが悪いのだぞ」

「ひいい誠にすいませんでしたぁ!」


 とにかく間違っても仲間に水鉄砲を当てないようにしようと、イトは心に誓った。


 ※


 イベントが始まると、アイドルたちは一斉に行動を開始した。


 一般プレイヤーの攻略としては、何よりもまず人気のない場所を確保することが挙げられる。貴石は早い者勝ちで、他人がいれば当然自分の取り分は少なくなる。移動が面倒な岩場や山などが狙い目だ。


 一方、グレイブアイドルの場合はお客さんを集めるのが一番、その人たちとの交流が二番で、貴石集めの優先順位は低くなる。なので、活動場所も人の集まりやすい浜辺に限定された。


「イトさん、また来ちゃいました。えへへ……」

「セツナちゃん! 大歓迎ですよ、一緒に掘りましょう!」


〈ワンダーライズ〉のところには、セツナ他、多数の他事務所アイドルたちが前回に引き続き集結していた。もはやちょっとした自作のイベント。


「みんなもたくさん掘って、景品をゲットしてくださいねー」

『おー!』


 事務所のアイドルたちの活動場所とかぶらないよう距離を取りつつ、ちょうど干潮になった黒い浜辺をみんなで掘り返す。小さな熊手とスコップは、水鉄砲と同じくゲーム公式からの配布品だ。


「あっ、イトさん何か出て来ました」

「おおっラミエル! 高得点ですよセツナちゃん!」


 早速セツナが正八面体を見つけた。周辺からも次々に発見報告が上がる。このように貴石は山のようにあるのだ。正に宝探しの気分。


「時にセツナちゃん、あちこちで話題沸騰ですね。大丈夫? 疲れたりしてないですか?」


 二人で並んで熊手を動かしながら、イトはセツナに近況をたずねる。


「はい。今はライズが中心ですけど、そのうち案件も受けたいって、うちのマネージャーさんが言ってました」

「うっ……。うちのスパチャは小言みたいなことしか言わなくなったのに……」

「リアルな学校の方でも、知らない同級生から話しかけられたりしてびっくりしました。本当にみんなこのゲームをやってるんですね」

「そ、そうなんですよ。セツナちゃんも伊達眼鏡とかかけてちょっと変装したりした方がいいかもしれませんね。効果抜群ですよー……ハハハ……」


 そんな話をしつつ少しずつ位置を変えていくうち、何かがぴとっと肩にくっついた。

 セツナの肩だ。


「あっ、ごめんなさいイトお姉ちゃ――じゃ、じゃなくて……!」

「おーーーーん? いや今はっきりお姉ちゃんって聞きましたよおーーー?」


 慌てて離れたセツナを、イトは猛速のハイハイで追撃。怒涛の勢いで肩を摺り寄せる。

 セツナの顔がたちまちかあっと赤くなった。


「や、やめてください。恥ずかしいです」

「こんなのただのスキンシップですよ。水着の付き合いってやつですよお。それともお姉ちゃんとくっつくのはイヤですかあー?」

「そ、そんなことは……」

「だったら、もっと至近距離で――」

「イトちゃん? 相手は中学生だよ?<〇><〇>」

「みぎゃ!」


 マジでお尻をつねられてイトは飛び上がった。


「もう、目を離すとすぐこれなんだから。セツナちゃん、大丈夫だった?」

「は……はい。ありがとうございますチョコさん」


 ほっとしたような、あるいは何だかちょっとがっかりしたような顔(イト目線)で、セツナが千夜子にお礼を言う。


「ち、千夜子さん……。どうしたんですか、あっちの方のお客さんといたはずですが……」


 イトはお尻をさすりながらたずねた。〈ワンダーライズ〉は広くお客さんと交流するため、今は三方に分かれて活動中だ。


「うん。この辺、だいぶ掘れてきちゃったから、そろそろ移動したいって子が」

「えっ、もうそんなに時間たってたんですか」

「こちらからもそうした意見が出ている。ただ、動くのは少し待った方がいい。そろそろだぞ」


 同じく別位置から戻ってきた烙奈がそう言った矢先、波打ち際に近いところから叫び声が上がった。


「ウェーブ!」


 それに呼応するように、


「ヨーソロー!」

「イトさん、これは……?」


 セツナが戸惑う顔で聞いてくる。


「これはですね、得点モンスターを乗せて波が来るって連絡なんですよ。了解したらヨーソローって叫ぶのが習慣になってるみたいですね。みんなで一緒に言いましょうか」


 イトたちとセツナ、だけでなく、近くで話を聞いていたお客さんたちとも一緒になって、『ヨーソロー!』と叫ぶ。


 その直後、干潮の浜辺に波が走った。

 こちらにたどり着く頃にはすねくらいにまで衰えているが、それと共に現れたのが、子供くらいは簡単に抱え込んできそうな大きなカニたち。


 片方のハサミが大きいシオマネキ型のモンスターは“ズィーガ”と呼ばれており、ハサミは相手を断ち切るのではなく、その中から水鉄砲を噴射するための砲台だ。


 それが、海岸線を埋めるように一斉に突撃してきた。

 貴石狩り名物、ウェーブアタックの始まりだ。


アーマーブレイクは小破中破大破まで用意しろ(ワガママユーザー)


次回投稿は一日遅れの4月1日予定です。

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― 新着の感想 ―
スライディングからカチ上げて空中投げしそう
[良い点] > 何で金色に光ってるんですか……? 偉大な相手ってのは輝いて見えるらしいからねしょうがないね(´・ω・`) > 多数の他事務所アイドルたちが前回に引き続き集結していた 相変わらずアイ…
[良い点] おましょうま! [一言] >「何で金色に光ってるんですか……?」 比喩表現じゃなくて本当に光ってるのかw この前も何か光ってたし何かのスキルエフェクトか? >そこからの体勢が継続されてい…
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