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案件114:オーロラ島攻略班を募集せよ!

 ターゲットは〈オーロラ島〉!!


 無論、他の場所もチェックはするが、イトたちはそこを大本命と定めた。

 スパチャに頼んで今のグレイブ周期から〈オーロラ島〉の飛来時期を割り出してもらう。その結果は。


「三日後――。そして、島最奥へのアプローチ可能時間は、わずか三十分でございます……!」


 この短期決戦の理由は、〈オーロラ島〉の奥地へ行くには特定の時間にかかる橋を渡らなければいけないことに由来する。島の入り口で用が済めばいいが、そうでなければこの条件はマストとなる。


「たった三十分……」


 イトたちはその短さに息を呑んだ。


「そんな離れ小島に行くとなれば、あのヒトデのモンスターにも見つかるよね……」

「間違いなく、来る。ホームのような安全地帯もない、完全にモンスターの支配域だ。相当な軍勢を呼び寄せる可能性がある」


 セントラルが多数の有翼種に襲われた事件は記憶に新しい。次はあの規模では済まないかもしれない。アタック制限時間に加え、モンスターの大群。障害はとてつもなく大きい。


「これは、策を練る必要がありますね!」


 バッと地図に向かって手を向け、イトはそう言い放った。


 ※


「三日後、碧瑠璃ちゃんとわたしたちのスペシャルコラボライズを開催します!!」


 今日も賑わうグレイブ前ライズ会場の一角。

 まだまだ謎多きアイドルとしてレアキャラ扱いされている碧瑠璃。彼女目当てに集まってきたシンカーたちに、イトはステージ上から大声でよびかける。


 観客たちからはたちまち悲鳴ともつかない歓声が上がった。


「あのすっげえ子と〈ワンダーライズ〉のコラボ!?」

「いよいよ正式加入の儀ってコト……!?」

「行く行く! 行かせてください!」


 反応は考えられる限り最良のものだった。このところ日替わりのグレイブ探索にプレイヤーはかかり切りだったし、そんなことより稼ぎに潜りたいよという声が多数寄せられる覚悟もあったのに。

 イトはほっとしつつも、イベントの詳細を拡大マップを展開して説明する。


「場所はここ……通称〈オーロラ島〉!」


 それを受けて人々は顔を見合わせ始める。


「〈オーロラ島〉? 聞いたことないな」

「そこって何もない浮き島じゃないのか?」

「貸し切りの単独ライズってことー?」


 戸惑いが場に生まれた。けれど、ここまではまだ理解できる範疇。問題はここから。


「それで、その……ここも一応、モンスターが出るかもしれないんです。なので、念のため一番強い構成で参加してください!」

「え……? 何で?」

「その辺に出てくるのは雑魚しかいねーはずだぜ」

「それなのにフル装備って、何か怪しいな……」


 人々の反応にイトは鼻白んだ。


(か、勘が鋭いいぃ……!)


 中でも、なぜかいるイベント目当てとは思えない屈強そうな方々が鋭い眼光を飛ばしてきている。なんか非常にこういうのに鼻が利きそうな人々……!


 しかし。


「つまりその日、そこで何か起こるってことだろ? 面白ぇじゃねえか」


 逆にその屈強な一角から湧き出た一言で空気が変わった。


「〈ヴァンダライズ〉が支援を頼むほどの相手か。確かに気になる」

「何だっていい名を売るチャンスだ!」

「報酬は前払い(スペシャルライズ)。さすがだ。わかってるねえ!」


 場が一気に賑わい始める。二周回って物分かりがよすぎだ。


(ヴァンダライズじゃないけどおおおお……!)


 しかしアイドルたるもの目の前の勢いには乗らねばならない。危険な波であっても、乗りこなさなければ勝機はない。


「あ、あくまで念のためです! 自衛のため! 何もなかったらライズだけ楽しんでいってくださーい!」


 こうしてイトたちは当日の部隊戦力を手に入れた。

 しかし、まだ課題は残っている。


 ※


「やっぱり、全員一緒のステージがいると思うんですよ」


 ホームに帰還して再び作戦会議。全員で顔を突き合わせて話す内容は、スペシャルライズの演目だ。


「お客さんが碧瑠璃ちゃん目当てなのは間違いないです。でも、わたしたちも一緒にやった方がきっと盛り上がります」

「うん! わたしもイトたちと一緒にやりたい! 絶対やりたい!」


 碧瑠璃も猛烈な熱意で賛同して来る。ただそのためには大きな障壁がある。


「ダンスアレンジ……技術力の差か」


 烙奈がぼそりと答えをつぶやいた。

 碧瑠璃と同じ舞台に立つということは、少なくともそれに見合った技量が必要になる。そうでなければステージの見栄えが――という以前に吹っ飛ばされる。はるか彼方まで。


「碧瑠璃ちゃん。お願いがあります」

「わたしも、イトたちにお願いがあるの」


 イトと碧瑠璃は視線を交わし合って、同時に叫んだ。


『特訓!!』


 その日からグレイブアイドルの神祖、碧瑠璃による特別レッスンが始まった。

 場所は赤レンガホームの屋上。協力として、スパチャに撮影カメラを持って参加してもらう。


「まずは、『草原を駆ける』を一緒にやってみよっ」

『はい! よろしくお願いします!』


 ライズ開始!!


 ドゴオオオオオ……。


「ひゃあああ……!」

「うわあああ……!」

「お嬢様方あああああ!」


 イトたちは綺麗な放物線を描いて飛んでいった。


「いかん、あまりにも実力が違いすぎる」

「格の違いに涙が出ますよ!」

「この差をどう埋めればいいの……?」

「大丈夫大丈夫、そのための練習なんだから! もう一度、今度はわたしがイトたちに合わせてみるね」

「碧瑠璃ちゃんが力をセーブしてくれるなら、まあ大丈夫でしょう……」


 ワンモアセッ!


 ドゴオオオオオ……。


「お嬢様方あああああ!」

「うーん。イトたちは何か動きが硬いっていうか、クセがついてると思う」


 へろへろになりつつアパート屋上に這い戻ってきたイトたちに、碧瑠璃はそうアドバイスしてくれた。


「クセ、ですか……」

「わたしたちにそんな偉そうなものある……?」

「考えたこともなかったな」


 仲間で顔を見合わせる。


「多分、自動でやってくれるダンスが正しいって思ってるんじゃないかな。もっとね、フリフリーっていって、キュアキュアーってやっていいの」

「アカン……これは天才の説明です……」

「助けてAIの自動翻訳機能!」


 しかし、碧瑠璃の動きを間近で見つめ、スパチャに撮影してもらった自分たちのダンスと比較するうち、だんだんとわかってきた。

 碧瑠璃のダンスの軸は非常に柔らかかった。対して自分たちの動きは、ところどころに金属の芯でも入っているかのように窮屈だ。オートモーションの内側に存在するアクションフレーム。それを感じさせる。


 この記憶に頼っていてはダメだ。碧瑠璃の動きを積極的に取り込んでいく必要がある。それも部分的にではなく、細胞の一つ一つを体に埋め込むように。


 当初は毎回吹っ飛んでいたイトたちだが、だんだん耐性がついて飛ばなくなっていった。


(碧瑠璃ちゃんに負けないようにするんじゃない。一緒にライズを楽しむためのダンス……!)


 これを心がけて、イトは碧瑠璃の隣で踊った。

 見れば見るほど碧瑠璃のダンスは自由自在だった。それもそのはず。彼女のアレンジは、正に彼女のオリジナル。一方、現代のグレイブアイドルであるイトは、神祖碧瑠璃から始まるダンスアレンジの歴史に沿っていた。多くの人々が手を加え、洗練させてきたメソッドだ。悪いわけがない。けれど碧瑠璃のオリジナルなエッセンスとは別種の進化だった。


 それを再び、ゼロに戻す……!


 そしてとうとう――『草原を駆ける』を一曲無事に演じ終えた。


「や、やった……やりましたよ!」

「うん。すっごく楽しかったよ、みんな!」


 イトたちは全員で体を寄せ合ってこの快挙を喜んだ。


「じゃあ、わたしの『夜風の蝶』もちょっとやってみようか。イトたちは曲持ってないから、適当でいいよ」

『はい!』


 碧瑠璃のパフォーマンスはマスターした。今なら問題なくついていけるはず――。


 ドゴオオオオオ……。


「お嬢――!」


 今日一番の飛距離(ヤード)が出た。


特訓回で友情ドラマをやらずにぶっ飛んでいくアイドルがいるらしい。


※お知らせ

まだ諸事情の予定が立たないので次回も投稿します!

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― 新着の感想 ―
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