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第7話:アドバイザーと勇者

 

 清々しい朝だ。

 アドバイザーとしての役目は果たしたから、しばらくは平和な日々を過ごせるだろう。


 しかし家を出るとキンキラの馬車が待ち構えていた。

 俺は運命を呪いながら疲れた様子の執事とアイコンタクトを交わして馬車へ乗り込んだ。 そこには、


「ああ……ああ……ああ」


 王女の抜け殻がいた。





「そうなんだ」


 話を聞いてみれば勇者にしたら至極当然の話だった。

 突然知らない場所に連れてこられたら誰だって帰りたくなるのは当たり前だ。


「そうなんだって……どうしてそんな冷静なんですか?! 世界が滅びに向かってしまうのですよ!」

「勇者だって人だよ?」

「だけど」

「彼がどんな人柄か分からないけど、知らない世界なんてどうでもいいんじゃない? 愛する人も思い出もない、おまけに彼には帰る場所があるんだから」


 王女は色々とずれている。

 むしろ今の勇者だからここまでもった。 異世界物語に触れていない普通の人ならすぐに帰りたがっただろう。


「それは……その通りです。 そうでした、私はお願いする立場なのに本心では救ってもらって当たり前だと、勇者なんだからと思っていたのかもしれません」


 ずれている、がこの王女は悪い人ではないのだ。 物語に出てくるような性悪王女ではない。 そうだったらそもそも俺は協力していないけれど。


「それでも私は国を民を救いたい」


 素直で優しいけれど、頑固でもあるらしい。


「まず確認したい」


 そもそも帰りたいといって、すぐに帰れるのだろうか。


「すぐには難しいですが一月あれば準備可能です。 勇者様にもそうお伝えしました」

「なら俺に三日くれ」

「?といいますと?」


 俺の貴重な時間を掛けるのは惜しいが、これは王女のためというより勇者への贖罪もしくは同情か。


「三日で勇者の心を開く。 その間アリストテレスは関与せず、裏方に徹してくれ」


 これに関してはおそらく成功するだろう。

 しかし王女がいては色々と都合が悪い。


「三日ですか」


 王女の見極めるような視線が突き刺さる。


「…………わかりました。 三日間どうかよろしくお願いいたします」

「任された。 実行する前にいくつか約束しておきたいことがある」


 王女にとっての最重要人物を任されるなんて、俺の信用度は思ったより高かったらしい。 正直驚いた。


「まずは」


 俺はいくつかの約束を王女に了承させ一息ついた。 しかしこの後、学校で王女と登校したら騒ぎに、少なくともあの友人には色々と問い詰められるだろうなと憂鬱な気分になるのだった。



 俺は放課後、王女と共に城へやってきた。


「ところでそれは何に使うのですか?」

「んー、内緒」


 道中、経費で買った物が入った背負い袋を指して王女は怪しげに言った。


 しかしここで言ってしまうと恐らく止められるので言わないでおく。 今回の作戦に王女は不干渉すると約束をしているので、初めてしまえば邪魔されることもないだろう。


「じゃあ行ってくる」

「はい、どうかよろしくお願いいたします」





「初めまして勇者様。 私はラブル・フランツと申します」


 ベッドのふくらみに話しかけた。


「王女様の代わりにしばらくお相手させていただきます。 よろしくお願いいたします」

「帰ってくれ」

「まあ、そう言わず。 色々とお持ちしましたのでご覧になりませんか?」


 勇者は一月で故郷に帰れると聞いて「僕はそれまで部屋から出ない」と堂々の引きこもり宣言をしたらしい。

 食事などの最低限の世話は受けるがそれ以上はいらない。 余計な干渉はするな、という意思表示だ。


 しかし彼をこの世界で一番理解しているといっても過言ではない俺には分かる。

 本当はせっかくの異世界を楽しみたいはずだ。 町を歩いて買い物したり、剣を振って、魔法を使ったり、ファンタジーを感じたい気持ちはあるはず。


「そうやって僕に良くするフリをして、勇者を続けさせようとしているんだろう!? お前らの思い通りには――」

「確かに私は王女様の指示でここにいます」

「ほらやっぱりこんな世「ですが」界」


「あなたを勇者としての自覚をさせよとも、思い留まらせよ、とも言われておりません。 そして私自身もそうしたいと全く思わない。 むしろ同情しているんです。 今まで大変でしたね」


 知らない世界で


 ひとりぼっちで、


 自由もなく、


 まるで鳥かごの鳥だ。


 当初、町に行きたいと言った勇者の願いを、王女は安全面の点を考慮して許可しなかったらしい。 冒険したい、戦いたい、全てダメダメダメダメ。


 勇者のやる気がなくなるのも当然だ。


「ですがせっかく知らない世界に来たのです。 一緒に見に行きませんか? もちろん王女には内緒です」


 俺はそう言ってふくらみに優しく笑いかける。


 ふくらみがモゾモゾとうごめいた。


 俺は物語で言うと、貴族なのにお前は他と違っていい奴的なキャラをイメージして演じている。 とはいえ言葉に嘘はない。



 

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