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第6話:勇者の願い



***


「勇者様、お披露目パーティーに参加していただけませんか?」


 王城のとある一室、第三王女アリストテレスが話しかけた男はベッドで布団にくるまったまま「やだ」と素っ気なく言った。


「僕は異世界を冒険したいんだ。 困っている美少女を助けて惚れられて、ダンジョンを攻略してチヤホヤされたり、現代知識で楽に大金を稼いだりしたいんだ」


(この人が本当に伝説の勇者様……?)


 アリストテレスから見てその男は物語と現実の区別がついていない妄言者に見えた。

 都合よく困っている美少女なんていないし、彼から聞いた限り革新的な知識はないように思える。 それに勇者といえど鍛錬を積まなければ強くはなれない。

 故にそもそも今の勇者には誰かが困っていても救う力量が備わっていないのだ。


「来たる災厄の時、勇者様はお救いくださるとおっしゃいました」

「うん、でもパーティーなんて必要ないだろ?」

「いえ、必要です。 あなたの顔を売っておきたいのです。 信用を得なければ、助けを求められることもない」


「貴族は嫌いだ」勇者はそれを最後に沈黙した。

 アリストテレスはため息を吐いて部屋を出る。


「お願いする立場で強制するなんてことできません。 一体どうしたら」


 いつもだったら睡眠時間を削って答えの出ないままウンウン悩み続けていた。 しかし今の彼女には心強い味方がいる。



「問題発生です。 アドバイスをお願いします」



***


「これは事実ではなく作者として勇者という人物の分析をすると」


 俺はそれらしい文言を並べて、あくまでたまたまの思い付きがたまたま当たったと装う下地を作っておく。 これが通用するかは分からないけれど。


「勇者様は怯えてる」


 異世界物語において貴族は様々な描かれ方をしている。

 心強い味方であったり、権力を笠に着た悪役であったり。 勇者の中で貴族のイメージは悪い奴なんだろう。


「そう。 今の勇者様には帰る家も助けてくれる友人もいない。 だから大きな力を持つ貴族は怖いんだ」

「そうですよね。 一人ぼっちで、唯一関わりのある私も……一歩引いて接していたかもしれません」

「おそらく元の世界でもあまり接したこともないじゃないかな? 貴族の価値観も考えも分からない。 分からないから恐ろしい」


 想像しただけで俺は異世界に勇者召喚なんてご免こうむる。

 俺たち現地の人間で例えれば、人語を解すモンスターの村に招かれているに近いだろうか。


「ですから方法はなんでもいいんです。 仲良くなりましょう」


「仲良く……」王女は眉間にしわを寄せ考え込んだ。 しかしそんな難しい話じゃない。


「まずは勇者様と友達になるんです」


***


 王女と食事に誘われた。


「めんどくせえ」


 勇者として異世界に召喚されてから一月以上経った。

 初めは心が躍ったが、今では勇者という立場から逃げるように怠惰な日々を過ごしている。


「王女も可愛いけど、なんか怖いし」


 召喚当初はよく一緒に食事をして、話すこともあった。

 しかし世界が違えば価値観も違う。 すれ違う会話を繰り返した俺たちは仲良くなれず、異世界も楽しめないままだ。


「帰りたいなあ」


 物語のように現実ではうまくいかなかった。

 ストレスフリーであることが異世界の魅力の一つであると俺は思う。 それがないなら家族も友人もいて慣れ親しんだ元の世界の方がマシだ。 ここにはネットもないし。


「王女には悪いけど、今日伝えよう」


 俺は勇者をやめる。





「変わった味ですね。 でも美味しいです」


 王女の様子が前と少し違う。


 神聖なモノを見る目。

 違う生き物を観察する目。

 それが今日は自然でリラックスした雰囲気だ。


「うん。 少し癖があるけど日本で食べてた味に近いよ」


 前回食事をした時、彼女は僕とは別のメニューを食べていたけど今日は同じものを食べている。

 何か気持ちの変化があったのだろうか。


 彼女が歩み寄って来ようとしていることは感じた。 

 それは嬉しいけれど――


――もう遅いよ。


「あのさ、話があるんだ」

「はい! なんでしょうか?」

「僕、勇者やめる」

「へ……?」


 僕は王女の目を見て、本心をはっきりと伝える。


「帰りたい」


***



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