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 婚約式と出産を控えた時分。

 王都に来て、ミミは望み通り王宮魔法騎士になった。

 一方では、王太子の婚約者として王宮に暮らしている。

 そんな彼女は今日も仮面を着ける。

 騎士としての仕事があるのだ。

 とは言え無理のない範囲でとディランとは約束している。

 仮面の他、纏う服も敢えて体形のわからないものにした。

 王宮魔法騎士の中には王家の人間や親しい仲間以外には素顔や姿を見せない者も少なくないので、特に問題にはならなかったのは幸いだった。

 そんな風に王太子の婚約者と王宮魔法騎士、二つの身分を使い分ける生活が始まって少し経ったある日のこと。






「ミミちゃん、このドレスなんてどうかしら?」

「い、いいと思います。王妃様にとてもよく似合うかと」


 ミミは現在王妃の宮殿に招かれていた。

 ディランの婚約者として。

 お茶会の日もあるが今はドレッシングルームで王妃と共にテーブルの上に広げられた装飾品やドレス、更にはそれらのカタログを前にしている。傍には採寸のための仕立て屋が控えオーダーを今か今かと待っている。


「あら、わたくしのではなくてあなたのドレスよ。婚約式で着る」

「そっそこはもうこっちで準備しているのでご心配なくっ」


 王妃に任せたら張り切ってドレスにいくら掛けるかわからない。故に絶対に彼女に任せてはならないのだ。国の財政が傾きかねない。

 既に婚約自体はしているが婚約式を行うのは王家の慣例に則ってだ。


「あらそうなの? 残念。それと、わたくしの事はお義母さんと呼んで頂戴?」

「い、いえまだ正式に結婚したわけではありませんので、そんな図々しい真似はできません」

「うーん、ミミちゃんは律儀でハッキリしているわよねえ。まあでもそういうところはむしろあの子とお似合いだわ」


 正直、王妃とこんな風に親しくなるとは思っていなかった。

 王宮入りした直後からミミは王宮側の人間とは距離を置いたのだ。

 婚約者として仮住まいする宮殿では生活全般の世話を男爵家から連れてきた少数精鋭の使用人に任せた。妊娠中だと知るのも男爵家でも彼らのみ。

 王宮側の人間からはミミは男爵家の者以外を寄せ付けない人見知りな娘だと思われている。深窓の令嬢と言われていた過去が周囲に妙な説得力を与えたようだった。


 翌日、ミミのこの日は完全オフだ。王妃に会う予定はないし、王宮魔法騎士も非番、ディランは顔を見に来ても公務の終わった夕方だろう。


「は~~~~。息抜きっ。屋台飯も美味しいし、騎士の休日はこうでなくちゃ」


 と、言うわけでミミは朝からこっそり王宮を抜け出して王都の街中に出掛けて来ていた。

 王宮暮らしは肩が凝るし、騎士としての仕事は案外書類仕事の方が多くてやっぱり肩が凝る。そもそも魔法を必要とする案件や遠出はディランが中々認めてくれない。そこは結構不満だが事務仕事は事務仕事で各地の状況を把握でき、問題点や解決策を模索するのも仕事なのでやり甲斐があり、一概に不満だけではないのがちょっとだけ悔しい。しかもディランもそこをわかっていてミミに仕事を割り振らせているようなのだ。向こうが一枚上手なのは認めざるを得ない。

 それはさておくにしても、実家では結構自由に生きてきたミミなので、こんなガス抜きも必要なのだ。


(妊婦にだって適度な運動は必要だものね)


 そんな言い訳も用意している。平民服を着て街中を歩くミミは、頭巾をして髪型も主婦のように上げて結んでいる。伊達眼鏡だって掛けた。完全にどこかの平民の妊娠中の若奥さんにしか見えず、すれ違う皆もまさか彼女が王太子の婚約者だとは思うまい。そもそも妊娠を公表していないのだから妊婦から連想される可能性は極めて低い。


(外歩きってホント楽しい~! 雲の上たる王宮にいたらわからない王都民の暮らしをじかに感じられて、決して悪くない経験なのよね)


 いつかはもっと遠出したり、近隣国に行って異国文化に触れてみたいとも思う。


(グラニスへは行けてもずっと先だろうけど。そう言えばあのスパイ達も運が良いのか悪いのか)


 未だ関係が微妙過ぎるそんな隣国の例のスパイ三人は、今は王都の監獄にいるそうだ。


 彼らは未だ生かされている。


 ディランがミミに配慮したのは明白だ。

 現に、婚約者として王都に来てからミミはディランの勧めで彼らに面会した。訊いておきたい事があるならそうするといいと。

 三人からは期待したようには母親の話は聞けなかった。同期で軍にいてそこそこ表面的な付き合いがあった程度らしい。ゼニスでもグラニスでも二十年くらい前は女性軍人はまだ珍しい方だったのと、母親は頗る真面目で同期の中では男女合わせても五指に入る優秀な軍人であったのと、美人だったのとで三人ともよく覚えていたらしい。

 任務中に死亡したとされ、その辺りでミミの父親と出会ったのだろうと何となく思った。直接父親からはまだその話を聞いていないので本当の経緯はハッキリとはしないが、敵国軍人同士のロマンスには少しの憧れを抱いた。

 まさに運命の、燃えるような、二人の恋。


(私もそんな風に思えるかしら)


 ――ミミ。


 耳の奥に甦る、声。


 我知らず胸の辺りを押さえてかぶりを振る。

 ドキドキしている自分を認めるのは未だにちょっと癪でもある。

 ディランはミミを前にすると信じられないくらいに甘い男に成り下がる。近頃は毎度毎度翻弄されるのがとても悔しかった。


(厄介にも、もうほとんどチキンじゃないのよね!)


 つい先日、騎士の仕事を終えソファーで休んでいたらディランから横にべったりとくっ付かれた。傍らの温かさに何だか胸がきゅーっと幸せ一杯になったミミが顔を綻ばせた直後、ちゅっと頬に口付けられた。


『ミミ、可愛い。そういうお前をずっと見ていたい』

『なっ……~~~~っ』


 文句を言ってやりたかったが、いつになく慈悲深く見守るような彼の大人な微笑みを見てそれも引っ込んだ。

 しかも「撫でてもいいか?」なんて律儀に許可を取って優しくお腹に手を当ててきた。

 二人とまだ見ぬもう一人だけの静かな室内で、しっくりと嵌まり込む家族の幸せのピース。

 この上ない感動のような安息で睫の先が震えたから、誤魔化すように瞼を下ろした。

 時々ディランはミミに彼が年上なのだと思い出させる表情やら振る舞いをしてくる。……いつもはそうでもないのにだ。


(ああも~っ着実に攻略されてるわ。冷静に彼を見極めたいのに~っ)


 どうにかして他に目を向けないとドキドキして倒れそうだ。きっと心臓にも悪い。

 他の何か、例えば趣味の裁縫や料理でもいいのだ。もしもの時の婚約解消策を練るのもいい。ただし、他に目をと言っても不思議と他の男にという思考にはならない。


「よーし、今日は精神統一、煩悩滅却、心の漂白をしに礼拝にでも行こうっと!」


 ミミは王都散策に適当にほっつき歩こうと予定していたが、予定を変更して大聖堂へ向かう事にした。無心に祈る。彼女としては今は色々と細かく考えたくなかったというのもある。いやそれが大きい。






 その頃王宮では、娘の顔を見に訪れていたサニー男爵が蒼白な顔でディランに詰め寄っていた。


「殿下、うちのミミはいずこに? 何故王宮にいないので? まさか父親たる私から隠そうと?」

「義父上目が怖い。俺も公務が早く終わって来たばかりだ。彼女の不在も知ったばかりで、今から捜しに行くところだった」


 ディランは半魔の血をたぎらせて瞳を赤くする。王都なら魔法嗅覚の有効範囲内。ミミの匂いを辿れば居所などすぐにわかるのだ。

 今は午後の遅い時間。夕暮れは間もなくだ。

 朝から出て、この時間になってもミミは戻っていない。

 サニー男爵は崩れるようにして床に両膝を突いた。


「おおっおおっミミよどうか無事でいてくれ! 馬の骨と王宮暮らしなんぞをさせたばっかりに……っ、一月と経たずにストレスMAXでとうとう臨界点を突破したのだろうな。何とも不憫な我が娘なのだあああっ!」

「義父上、心底案じるあまり心の声が全部出ているが……。不敬罪って知っているか?」

「……え?」

「俺を馬の骨と」

「……え? あぁ~ハハハハ! 馬は気高く美しく力強い生き物ですぞ殿下! それの骨などはまた強靭な芯も同然。殿下はゆくゆくはこの国の芯になるのですからそう例えたのですよ、ハハハハ!」

「ははっ、義父上はいつになく饒舌だな」


 顔を突き合わせてハハハあははと笑い合う男二人。


「っと、今はそれどころではありませんな! 娘を捜さねば! あの子は自分が世にも綺麗な娘なのだと言う自覚がとんとないのです! ですから領地にいた頃も一人で勝手に出掛けて平然と街中をうろついて、よく軟派な男共から声を掛けられていたのですーっ!」


 サニー男爵は心労のあまりかエア悪漢を創り出し「貴様娘に何をする~っ」とそいつの首を絞め始めた。つまりは目の前の何もない空気を。男爵は常日頃から冷静で礼儀正しい寡黙な人物と目されていただけに周囲は何か見てはならない恐ろしいものを見たような顔で震えた。

 血相を変えたのは何もサニー男爵だけではない。話を聞いたディランもだ。


「なんっ、だとっ!? それを早く言え義父上!」


 彼はミミが悪い男に声を掛けられ無理矢理連れて行かれる光景を想像したのかわなわなと震えてだんっと一度地団駄を踏み床にヒビを入れた。これは修繕に結構かかりそうだ。エア悪漢殺しを終えたのかサニー男爵がギロッとディランを睨む。


「殿下は国民の血税という言葉をご存知ですかな?」

「悪かったよ! こんな時だけ真面目に諭してこないでくれ!」


 何はともあれ、二人はもしもミミに何かあればそいつを容赦なくミンチにして犬の餌にしてやろうと殺気立って王宮を出たのだった。

 狂犬二人が解き放たれた。今の王都はある意味どこよりも危険地帯なのだった。






「はあぁ~~~~、何か気分がスッキリしたあ。程よい疲労感もあって今夜はぐっすり眠れそうだわ。時間は予定より少し遅くなったけど、まだ殿下は公務の時間帯だから急いで帰れば平気ね」


 厄介が迫っているとも知らず、そろそろ陽が傾く空の下、ミミは大聖堂の正門を伸びをしながら歩き出たところだ。

 今日は祈って敷地内の清掃を手伝ってと適度に体を動かした。初めて大聖堂に来たが建物が重厚な石造りなので石ばかりのかっちりした場所かと思いきや、案外花壇緑化などで自然の植物が多かった。剪定もきちんとなされていて自然でありながら整然としてもいた。なるほどさすがは王都民の祈りと憩いの場所だと感心した。


「ミレイユさん、ミレイユさーん、ちょっとお待ちを」


 後方から声がして、好々爺然とした老人が急ぎ足で追いかけてきた。彼はこの大聖堂の年配神父の一人だ。清掃を手伝って心を安らげたいとの申し出を快く受け入れてくれたのが彼だった。

 因みにここで偽名は罰当たりな気がして、どこにでもある名前だしと本名のミレイユを名乗っていた。


「本日は沢山お手伝いをして頂きありがとうございました」

「いいえ、リフレッシュできましたし、こちらこそありがとうございます。ところで何かご用ですか?」


 ミミがキョトンとしていると神父は「ああそうでした」と小さな包みを差し出してきた。


「どうぞこれを。シスター達が焼いたクッキーです。こんな事でしか今日のお礼をできませんが」

「ええっ、見返りのためにお掃除を手伝ったわけじゃありませんよ」

「ははは、お気になさらず。張り切って沢山焼き過ぎたらしく、余らせるよりはシスター達も喜びます」

「確かに……。それじゃあ、ありがたく頂いていきますね」

「ええ」


 神父は柔らかく微笑んだ。ミミも笑い返してクッキーの包みを受け取るとぺこりと一礼する。

 包みを手に踵を返そうとしたミミの目が、正門から出てきたある人物を捉えた。その人物も正門を入っていく神父に一礼をしていた。手にはミミがもらった包みと同じ物がある。

 今日ミミと同じく清掃に勤しんだ者だ。

 ミミは一歩その相手へと踏み出した。






 そんな彼女を追う視線がある。


「う、浮気現場かあれは!?」

「殿下は正気ですか? あれは単に大聖堂の関係者と話していただけでしょう。彼は父親の私よりも結構年上ですし、仮に枯れた男が好きだとしても、婚約者がいる身でアプローチするなどと不誠実な真似をするとでも?」

「だがしかし見ただろうあの満面の笑みを! 俺にはレアなのに……っ!」

「あー、それは殿下に徳がないからですな」

「急に哲学的!」


 勇んで街中に踏み込んだディランとサニー男爵は早々にミミの所在を突き止めていた。しかし大聖堂という些か予想外の場所だったので出鼻を挫かれた感じだった。

 まだ彼女が中にいるのはディランの嗅覚が証明していたのでどうしようかと躊躇っていたところにタイミング良く彼女が門から出てきたという次第だ。

 因みに変装などこの二人にかかれば何ら役に立たないものだ。すぐにミミだと判別した。若奥さん姿もイイ……などとディランは惚けたがすぐに年配神父が現れ浸っているどころではなくなった。

 しかも、二人が路上プチコントをやっている間に、ミミは正門を出てきた神父とは別の相手へと駆け寄って話しかけている。

 今度こそ婿と舅の二人は危機感を覚えた。

 何しろ、ディラン本人ですら負けたと思うような破格な美男子と談笑している。しかもミミの方から何かを手渡した。つい今し方神父からもらった包みだ。

 物をあげただけならよかったが、しかし聖なる粉でも入っていたのか感激したような美男子は短い会話後、恭しくミミの手にキスをした。


「んなあっ!?」

「で、殿下さすがにあの顔面偏差値では……」


 娘の男性のタイプをよくよくわかっている男爵はあわわと本気で危ぶんだ。王太子を袖にしたとなれば即日亡命するしか命はないだろう。


「う、嘘だ……」


 他方、鞍替えされたかもしれないディランはサニー男爵の服に辛うじてしがみ付くようにして、愕然として打ちひしがれた。

 二人はミミが手を振ってその美男子と別れるのを無言で見ているしかできない。

 それでも何とか気力を振り絞って彼女の後を追った。






 ミミは満足だった。


「はあ~、眼福眼福~、ホントにあの人が男だったらヤバかったわ~。しかも既婚者で子持ちだなんてね。あんなイケメン美女な奥さんがいたら旦那さんも大変よねー」


 共に清掃を頑張った美男子が女性なのを、ミミは早い段階で知っていた。彼女は近所では有名なイケメン若奥さんなのだと別の清掃ボランティアの主婦が教えてくれたのだ。お腹の子のためにも間違っても恋したらダメだよ、と冗談交じりに。なるほど確かに知らない若い娘がうっかりフォーリンラブしそうな容姿だと素直に称賛した。そんなイケメン美女は気さくな人柄でミミとも世間話が弾んだ。主に子育てについてミミが質問する方が多かったが。

 シスター作クッキーは彼女の子供達が大好きなのだそうだ。その話をふと思い出し、きっと包み一つ分では足りないだろうとミミは自分の分を譲ったのだ。

 彼女は感謝感激を表し、せめて何かお返しができないかと持ち物を漁ったので焦ったのはミミだ。タダでもらったのだしお礼など不要だ。しかし向こうの気が済まないようなので、とあることをリクエストした。

 王子様からの挨拶のキスの真似事だ。

 彼女はその手のことが初めてではないのか、苦笑しつつもそれでいいならと承諾してくれて、ミミの手の甲にキスを落としたという経緯だった。

 去り際、彼女は雑貨屋を営んでいるので、店に来た際には安くするとも言っていた。店の場所を聞いたので近いうち行ってみようとミミは決めた。

 そして一人街路を歩き出し、大聖堂がある通りの一本横の通りに出た。

 人通りはまだ少なくはなく、ミミは歩くうちに見知らぬ誰かと肩がぶつかりそうになった。反射的に避けたものの何故かチッと舌打ちが聞こえ、肩越しにすれ違った男を目で追いかけると、彼が別の通行人にぶつかるのが見えた。相手は少し身なりの良いご婦人だ。


(!? 今の男スリだわ!)


 スられた女性は気付いていない。スリの男は何食わぬ顔で近くの細い横道へと逸れて行った。


(……どうする私? 妊婦だし危険かもしれない。でも見て見ぬ振りは……――厄介にもできない性分なのよねえっ!)


 被害者にも教えてやり、犯人を追う。

 途中魔法も少し使い細い路地裏に入って間もなくスリを見つけたが、男には仲間が二人いた。奥まった一角でそれぞれが奪ったのだろう財布の中身を比べ合っている。


(はっ、ゲーム感覚? 笑わせる)


 その手の下品な連中との遭遇は初めてではない。ミミは三人へと近付いた。足音から彼女に気付いた男達の一人が茶化すような口笛を吹く。

 こんな奥まったひと気のない場所に若い娘が一人で現れたのを揶揄したのだ。


「お嬢さん何か用か?」

「さっき女性から盗んだ物を返しなさい」


 ミミがダイレクトに睨む男へと仲間達は呆れた目を向けた。


「んだよお前、あんな小娘にバレてんのかよ」

「へっダッセ~」


 仲間から小馬鹿にされ苛立った男はミミを睨み付ける。


「痛い目を見たくなけりゃ、さっさと失せなお嬢さん」

「いいえ、奪った物を返して自首しなさい」


 くくくっと男もその仲間も可笑しそうに笑い出す。そんな正論を聞くような人間ならとっくにそうしている。元より真っ当に生きている。


「んなことするか。さあどうするよ?」

「本当に自首するつもりはないと?」

「あるわけねえだろ」

「なら仕方ないわね。直接返してもらうわ」

「は?」


 ミミは颯爽と近寄ると男の仲間達が興味を抱いて見つめる前で男の手から財布を掻っ攫った。

 まさかの有言実行にポカンとなった男だが、我に返ると顔を真っ赤にして逆上する。

 手を伸ばして奪い返そうとしてくる。

 予測済みのミミは何度と追跡の手をかわしたが、その拍子に伊達眼鏡と頭巾が外れてしまった。

 可憐なかんばせに男達は目を大きく見開いた。

 直前の怒りを忘れたようにその口元に下卑た笑みが浮かぶ。


「へへへ、その財布のことはもういいぜ。お嬢さんあんたにくれてやる。その代わりにあんたが俺達にご奉仕してくれるならな。妊婦のようだが全然構わないぜ?」

「お断りよ。婚約者がいるもの」


 その性根ではフリーでもお断りだと不愉快過ぎて盛大に顔をしかめる。


「へえ、婚約者。逃げの口実にしてはお粗末だな。指輪もしてねえのに?」

「必ずしもするとは限らないわ」

「まあそうだな。くくっ怒ると可愛い顔が台無しだぜ?」


 怒った顔も可愛いと、優しい照れの眼差しを向けてくる男を思い出し、手を握り締めた。


「それはどうも。この財布は持ち主に返しておくわね。……あなた達が牢屋で反省することを願っているわ」

「は? 牢屋……? まさか!?」


 路地の向こうから複数の足音が聞こえてくる。

 ミミは被害者の婦人にできれば王都警備兵を呼んでほしいとも告げていたのだ。警備兵がミミ達を見つけられるかは賭けでもあったが、途中からは来るとの公算があった。彼らが思ったよりも素早く動いてくれていたのは助かった。


「くそっ!」


 逃走しようとする男達は退路を阻むミミに体当たりして突き飛ばそうとする。

 予想して身構えた彼女だが、如何せん体格差があるせいで思った以上によろけてしまった。加えてスカートの裾がミミの素早い動きに付いてこなかったせいでもたついてバランスを崩した。


(あっやばっ! 下手な転び方をして、もしもお腹の子に何かあったらどうしようっ)


 ミミは咄嗟に腕を伸ばした。

 倒れる方向と逆方向への推進力を得られる何かがあれば。男達の背中がスローモーションのように遠ざかる。それはミミ自身の動きもそうだが足を踏ん張る。


(助けて誰か……――ディラン!)


 果たして、彼女のその手が力強く掴んだものは――


「――ミミ!!」


 ミミはふわりと風を感じた。


 いつぞやの国境の夜を彷彿とさせるように逞しい腕に抱き上げられ、力強くそれでいて気遣いの温もりに抱き締められている。


「もう大丈夫だ。遅くなって悪かった!」

「ディ、ラン……?」


 本人を前に敬称を付けるのも失念して呆然として呟く。

 まだミミはきちんと形式張って敬称付きでディランを呼んでいるのだ。時々それを意図的に取り払うとディランは大喜びする。彼の扱いをよくよくわかっているミミだった。


「ああ、そうだよ俺だ。お前の唯一無二の婚約者ディラン・ルクスだ」


 どこか可笑しな言い回しにミミはついついくすりとしてしまう。むしろそうする事で強張りがほろほろと砂のように落ちていく。


「助けて下さりありがとうございます」

「あー、いや、俺は別に何も。そこはミミが自分で……」

「え?」


 ディランの視線を追えば、スリの一人は地面に突っ伏し悶えている。ミミは思い出した。倒れてなるものかとむんずと彼を掴むや自らの反動とするために彼を思い切り引っ張って体勢を立て直したのだ。男は無様に顔面から地面とこんにちはした。サニー家での護身の稽古の賜か、無意識に体が動いていた。

 逞しくも、彼女は自力で困難を抜け出していたのだ。

 そこにタイミング良くディランが来てくれた、と言う流れだった。


「ミミ、こいつをどうする? 八つ裂きか?」


 ディランが極度に冷たい眼差しになる。


「そこまでする必要はありませんからっ、自分で制裁しましたもの!」


 すると遅ればせ「ぎがあっ」「ごああっ」と逃げ出した二人の苦悶の声も上がった。

 驚いたミミが咄嗟に見やれば、何と鬼の形相のサニー男爵が二人を足蹴にしている。


「えっお父様!? どうして殿下と一緒に?」

「そこはまあ何と言うか、義父上と散歩だ散歩、ハハハ」


 問われたディランはまさかそこの男達と同類にも尾行してましたとも言えず、誤魔化すような顔付きだ。ミミはピンときた。


「もしかして、父が王宮に来て私がいないのがバレて、父に責められて殿下が直々に私を捜してくれた、とかですか?」

「凄いな、大体合っている。俺も今日は仕事が早く終わって、いつもより早目にミミに会いに行って不在を知った直後の義父上の電撃訪問だった」

「そうでしたか。うちの父が申し訳ありません」

「いや、かえって良かった。こうして助けられたのは、義父上が俺にお前を助けるのを任せてくれたからだ」


 サニー男爵は更に三人を死なない程度にけちょんけちょんにした。二人にやや遅れて警備兵が数人駆け付け、スリ達をしょっ引いていった。


「身から出た錆とは言うけれど、コテンパンにもされて少し気の毒なような気もしないでもないわねぇ」

「何を言うミミよ。あのような輩を生かしてやっただけでも破格な温情なのだぞ。本音を言えば私もディラン殿下と同意見で、星にしてやりたかった」


 ミミの隣にサニー男爵が立って鼻を鳴らした。ミミは苦笑する。この父親も家族事になるとディランのように歯止めがかなりガタつく。


「改めて無事で良かったが、王都のろくでなしは厄介なのだな。地元では上手くあしらっていただろうに」

「あー、やはりお父様にはバレていましたか。今は妊婦なのでできるだけ激しいバトルは控えようかと。説得できたら良かったのですが……色々と裏目に出てしまいました」

「ミミよ、出歩くな……と言ってもどうせ聞かないだろうからな、次に出歩く時は護衛を連れなさい」

「はい。出産まではそうします。あと、指輪もするべきかも」

「指輪?」


 父親の疑問顔の前に彼女は何も嵌まっていない手指を広げてみせる。


 実は、婚約指輪はまだ受け取っていなかった。


 婚約式がまだなので、指輪はその時にと予定されていたのだ。

 ミミもそれで問題ないと思っていた。

 ついさっきまでは。


「指輪をしていた方が面倒事の頻度も減るかな、と」


 男爵はそれは妙案と頷いた。これからついでにどこかで買って行こうかと提案もしてくれたが、ミミは実家から持ってきた荷物の中から選ぶからと断った。娘と久しぶりに買い物ができるかもとウキウキしかけた男爵はちょっとシュンとした。


 ミミが取り返した財布を警備兵へと託し、二三やり取りをしていたディランが二人を一瞥した。


 その日はディランが馬車を手配して、ミミは彼と共に王宮に戻ることになった。ディランから半ば強引にタウンハウスに帰らされた男爵は今にもハンカチを噛んで裂きそうな顔をしていた。舅と婿の確執がまた深まったかもしれない。






「ミミ、今日は本当に悪かった。婦人が呼んだ警備兵達を待たずに駆け付けてれば良かった」


 帰りの馬車の車内、珍しく向かいの席に座ったディランが悔いたように俯いた。常の自信満々の彼からは想像できない姿だ。しかしミミはそれなりに見慣れてしまったのでもう大して驚かない。


(この人って私の前でだけはこんな風に可愛……いやいや弱くなるのよね)


「気に病まないで下さい。殿下は助けに来て下さったのですし、むしろ感謝しています」


(ストーカー宜しく尾行していたのはこれでチャラにしてあげるわ)


 ミミは緩めた表情の裏で密かに裁定を下す。

 実はスリを追っている途中から彼の存在には気が付いていた。魔法聴覚を使っていて彼の声や足音が識別できたからだ。不思議にも父親の方は雑多な他の音に紛れて最後まで気が付かなかったが。


「そう言ってくれるなら、俺も少しは気が楽になる。だがお前が不快な思いをしたのは俺の落ち度だ」

「落ち度?」

「義父上と指輪がどうとかと話していたのが聞こえた」

「ああ、それですか。ですがそれも指輪の有無を気にしない相手にならしていたところで無意味ですし、殿下が落ち度と自責する必要はありません」


 ミミがそう促すように微笑めば、彼はもううじうじとした事は言わなかった。

 王宮に到着するまで馬車では何かを深く思案していたようで口数も少なかった。

 珍しく対面に座るディランとやけに静かな馬車内はどことなく寂しく、いつも隣に陣取る温もりをミミは恋しいと感じた。

 ミミの外出を知る一部の者達は彼女の無事な帰還に安堵した。ミミの首謀だからと誰もお咎めはなくミミはホッとしたものだった。


 夕食まではまだある。自分のための宮殿に戻った彼女は二階のバルコニーに出て少し風に当たる事にした。

 空はもう夜の帳が降りている。星の輝く様をぼんやりと眺めた。

 正直、ディランの様子が気になっていた。


(今日こそは愛想を尽かしたのかもね。王宮をこっそり抜け出す婚約者なんて前代未聞、普通は歓迎しないでしょ)


 ミミの場合は王宮魔法騎士にもなっている。ディランも内心ではやはり快く思ってはいないのだろう。


(騎士は辞めないけど。婚約者は辞めてもね)


 もしも婚約解消したとしても、半魔の血も子供の存在も彼には知られているのだ。下手に王宮の情報から遠くなるよりは維持する方がベターだ。


「婚約解消、か。……そのうち本当にされるかも」

「――絶対にしない」


(え?)


 下から聞こえた。

 ドキリとして視線を下げると、バルコニーの下にディランが佇んでミミを見上げているではないか。いつからいたのか、ミミは全く気が付かなかった。


「え、そんな所でどうしたのですか?」

「会いに来た」


 彼は半魔の力で地上からバルコニーまで一気に跳躍する。

 着地と同時に彼の瞳からは赤が抜け金に戻った。


「ついさっき会っていたばっかりですけど、急用です?」


 頷くようにやや俯いて、彼は戸惑うミミのすぐ前で膝を折る。


「ディラン殿下?」


 彼は懐から何かの高価そうな小箱を取り出すと掌に載せて蓋を開けた。

 ミミは目を見開いた。


 そこにあったのはペアの綺麗な指輪だ。


「結婚指輪……?」


 シンプルな形状からして、婚約指輪をすっ飛ばして結婚指輪を持ち出してきた。


「ミレイユ・サニー嬢、俺と結婚してくれ」

「ディラン殿下……」


 何故また、と煩わしくは感じなかった。

 ぶっちゃけるとどうして結構かなり衝撃だった。

 星屑の降る夜景を従えたバルコニーと、そこに颯爽と現れ情熱的に指輪を捧げる王子様。

 乙女の夢見る童話のような求婚を彼には期待などしていなかったというのに。

 指輪の種類は置いておくとしてもだ。

 だからこそサプライズ過ぎて感動してしまった。


「少し早まったが、生涯俺とペアの指輪をしてくれるか?」

「もしやさっきの件ですか?」

「それもある。それに、この指輪をしていればお前は俺のだって誇示できるだろ」

「誇示って……」


(言い方! 私は物じゃないんですけどねっ)


「俺はお前のものだともな」

「……はっ恥ずかしい言い方しないで下さいよ」


 彼はふふんと片方の口角を持ち上げる。


「何を今更。恥ずかしがる事なんて何もないだろ」


 暗に言葉に込められた意味に余計に顔が熱くなる。

 彼は小箱の中の片方の指輪、大小と二つ並んだサイズから女物だろう方を取り出すとミミの左手を取る。ミミが嫌がらなかったのでホッとしたようだった。

 そのまま指輪を嵌めてくれるのかと思って見ているとディランは何故かそこで手を止めた。


「ミミ、いいか?」


 らしくなく気弱な面持ちで確認してくれる彼の予期せぬチキン気質……いや謙虚さに、ミミは思わず小さく笑ってしまった。気持ちが満たされるようにホカホカしてくる。


「ディラン殿下、どうせならもう一度仕切り直してもらえませんか?」

「うん?」


 怪訝にする彼へとミミは朗らかに笑って言った。


「キュンとくるような求婚をです」


 彼を知って見極めるなんて偉そうなことを思って婚約で足止めしていた。

 一日一日と深くなり本当はほとんどもう自覚していたのに、最後の砦のように認めようとしなかった気持ち。

 いつから心の変えられない部分に落とし込まれて根付いていたのだろう、ディラン・ルクスという男への強い思慕が。


 デイルとして出会った時だろうか、王宮で思いもかけない再会をした時だろうか、国境の荒野の夜に抱き留められた時だろうか、今日の街中での時だろうか、もっと他の彼との時間だろうか。


(きっとそのどれもなんだわ)


 どれかではない。積み重ねだ。

 こうして今目の前に真摯に紳士に跪いたこの男から、愛情で蕩けた眼差しを受けられるただ一人と言う幸運。

 女神でも見るように見上げていたディランはハッと我に返って畏まって頷くと「それでは改めて」と尤もらしく咳払いした。


「ミレイユ・サニー嬢、俺と結婚しよう!」


 ミミはやや目を瞠った。結婚してくれませんかでも結婚してほしいでもない、もっと強い主張だ。やはり彼はここぞとばかりに俺様なのだ。ミミは感心すらして少し屈んでディランの目線に近付けた。


「はい、喜んで」


 互いに見つめ合って照れたように微笑んだ。ゆっくりと指輪が嵌められ、それは魔法で微調整される類いの物だったようでミミの指にぴったりフィットした。


「今度は私が殿下に着けてあげますね」

「ミミ」

「はい?」

「その……ディランでいい。時々呼んでくれるだろ。俺は時々じゃなくいつもがいいってずっと思ってたんだ。俺も勝手にミミ呼びにしてるからな」

「ふふっ何だ、勝手にって自覚があったのですね。まあそこは今更いいですが」

「……」


 多少礼を欠いていたとは思っていたのか気まずそうになるディランへと、ミミは彼の気持ちをほぐすつもりで囁いてやる。


「ディラン、ではお手を拝借して」


 拍子を取る際の掛け声かと彼はちょっと思ったが、立ち上がると素直に手を預ける。ミミの手で指輪がディランの指に差し込まれ魔法調整でピタリと嵌まった。


「これでお揃いですね」


 何だかしみじみとしてミミが呟くと、ディランは「まだ、もう一つ」と口にした。


「もう一つ?」

「誓いのキス」

「それって結婚式でするやつでは?」

「……駄目か? それでなくても俺は毎日お前にキスしたいと思ってるよ。頬とかおでことか手で耐えているが、本当は唇にしたい」

「耐えるとか言わないで下さい」


 実は唇へのキスは解禁していなかった。だから余計にだろうか、ディランはやや水分量多めの金瞳でミミに訴えかけてくる。


「駄目か? なあ、ミミ?」


(ああもおおお~っ、お願いわんこなイケメンが憎い!)


 ミミはこんなディランに滅法弱かった。

 こくり、と首を縦に振る。

 すると、そっとディランの両手がミミの頬を包んだ。微熱でもあるように熱い。最初指輪がひんやりとするかと微かに思ったが、とっくに彼の体温と同化していて冷たくはなかった。


「ミミ……」


 吐息塗れの少し掠れたディランの美声がミミの鼓膜を震わせて体の奥に浸透していく。項がぞくりとするけれど嫌ではない甘い感覚が瞬く間に全身へと拡がった。

 唇が重なる間、もっと呼んでとミミは欲し、それを伝えるためには自分も呼ぶべきだと思考する。


「ディ、ラン……」


 何度と唇が触れ合って、吐息と共に愛しい名をその濡れた唇で紡いだ。そして紡がれた。

 何度無心でしただろうか、火照った顔を離しディランを見据える。

 彼はミミと同じように上気した様子で極上の幸せを浴びたような顔をしている。


 そんな彼を見るミミは依然高揚に胸を高鳴らせつつも、ふと疑問を感じた。キスは勿論彼も喜んだだろうが、それだけではないような気がするのだ。何かある気がするのだ。直感だが。


「……はは、ふはは、ハハハハハ! これでもうお前は俺と別れられない」

「はい?」


 尚も彼は不気味にふふふふと低く笑う。

 ミミは視界の下方から仄かな光を感じた。何だろうと見ると指輪が光っている。見ればディランのもそうだ。


「これは我が王家に極秘に伝わる魔法の結婚指輪なんだよ」

「極秘に伝わる、ですか?」

「そうだ」


 普段着ける指輪なら、魔法の指輪でも普通の指輪でもどちらでも大して変わらないと思うが、何かが引っ掛かる。

 彼女の疑問にはこのすぐ後にディラン本人が答えてくれた。


「これは昔、好きな女以外とは契らないとの我が儘な君主がいて、王宮の世継ぎ問題を心配したその当時の王宮魔法騎士が心血を注いで作った渾身の魔法具なんだそうだ。意中の相手とペアで嵌めて誓いのキスを交わすとその二人は世継ぎのために互いを求め合い、夜は世継ぎを設けるまで離れられないようになるらしい。離れていても自然と互いの居場所へと導かれるんだとか。お前とペアで指輪をするならこれだって閃いたんだ」

「…………」


 ミミは急速に頭が冷えた。目の前には残念君がいる。

 ロマンチックな気分も極音速いや光速でどこかへと飛んで行ってしまった。下心があり過ぎる求婚劇だ。


「さあミミ、イチャイチャしたくなっただろ?」

「それはお腹に既に世継ぎがいる場合にも効くんですか?」

「あ……」


 その日、ディランはバルコニーの隅っこで湿った砂になった。


(はあー、アホっぽ。だけど私も大概よね)


 ミミは怒る気も失せた。

 ディランはかなり病んでいるがそこまで自分を好いてくれている。


(そんな男に悪感情を抱けない私もまた、かなり毒されているのかも。しかも陰謀渦巻く恐怖の王宮の餌食はやっぱり御免だし、危険とは無縁でもないし、将来安泰だとも言えないってのにね)


 まだディランの無慈悲な面を怖いと思う。まだとは言ったが全く怖くならない日がくるなんてお気楽過ぎる考えは持っていない。この先のどんな困難も好きな人となら乗り越えられる……なんてのも理想と言う考えは変わらない。

 けれど、どんな現実になろうともディランとなら生きて行けるとは今は思えるのだ。

 だからこそ、求婚を受けディラン・ルクスの傍に縛られるのをよしとした。


「ディラン、こんな指輪に頼らなくても、私にはあなたで正解なんですからね。……あなたが大好き」


 笑い含んだ声で気落ちする耳元に囁いたら、彼は復活した。


 それから、ミミとディランは婚約式と結婚式を一緒にした。


 王妃に実は、と妊娠を告げると彼女は小躍りした。

 しかも後日、臥せっていた国王は国王で孫と遊ぶぞーっと張り切って目覚ましい回復さえ見せたので、国王代行のディランの負担は減ってミミとの時間がぐんと増え、ミミは辟易する程に甘い時間を過ごす羽目になるのだった。






 ゼニス国の誰に訊いても、鴛鴦(おしどり)夫婦と言えばミミとディランの名が上がる。

 ただし、ミミの名の前には時々恐妻と付く。

 本人は不本意ながらも、他の誰も手に負えない暴君を御しているのだからさもあらんだ。

 その詳細は省くにしても、昨今ゼニス国に恐妻家が増えたのは彼女の影響が大きいとまで言われる。

 とは言え、二人はハニーよりシュガーより甘い夫婦で、流れる血は半魔のそれではなくシロップだろうとさえ揶揄された。

 これはそんな二人の物語。

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