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48. わたしがイヤだからだよ

 わぁー--------!


 歓声が上がると、大きな競技場がぐわんと揺らいだ。

 黒い鎧とヘルムの魔術騎士は、競技場の女性すべてを魅了した。

 最初の剣の打ち合いは、黒騎士のサービスらしかった。

 いきなり決めたのでは、見世物にならないからとでも思ったか。

 鈍色の鎧をつけた騎士の得物は大剣で、ぶんと振り下ろす度砂煙が上がる。

 かするだけでも骨の1本や2本、楽にもっていかれそうだ。

 その攻撃を、黒騎士は難なくよける。

 僅かに顔を背けたり、脚を右に開いたり身体を傾けて。

 まるで舞踏会でダンスを踊っているようなステップに、ギャラリーはため息をつく。

 けれどその後すぐに。


 ぼうっっっー------!


 青白い炎が上がって、「それまで!」審判の制止が入った。


 ほとんど瞬殺に近い。

 

「あの方はどなた?」


 まるで人気の歌劇役者を語る時のように、その場にいる女達は皆、黒騎士に熱狂した。

 おそらくはこのうえもなく高貴な身分であるだろう騎士。

 けれどこの一夜だけは特別だ。

 彼女たちの誰もが皆、その騎士を恋い慕う資格がある。

 今宵はカーニバル、仮装の一夜。

 誰を好きになっても許される晩だった。


 

 それは男たちも同様で。


「自由騎士アンナ・シュタイン殿」


 明らかに偽名だと、皆すぐにわかる。

 銀のヘルムに揃いの鎧。

 ヘルムからこぼれる銀の髪、騎士にしては華奢すぎる身体つき。

 輝くように美しい立ち姿の、こんな自由騎士がいるものか。

 彼女こそ大会の目玉、ヘルムダールの公女に違いない。

 

 細身の剣を細腰に佩いた彼女は、それを抜いて構えるでもない。

 屈強の騎士を相手に、素手で対峙する。

 

「高貴の姫君とお見申し上げる。

 だが私も騎士のはしくれ。

 負けて差し上げることもできぬ。

 お許しあれ」


 対峙する騎士は、剣を交えるにあたってパウラにそっと言上した。


「祭りの余興です。

 お気遣い無用」


 模擬戦とはいえ、久々の実戦形式の打ち合いだ。

 手加減などされてはつまらない。


「参る!」


 パウラの3倍はあろうかというガタイが、意外な俊敏さをもってパウラに襲いかかる。

 得物は両刃の大きな斧だった。

 

 瞬間。

 パウラの姿が消える。


 瞬く間の後、パウラは騎士の右腕を掴んで、その華奢な背に背負っていた。


 ずどん!


 大きな音がして、騎士の身体が地面に叩きつけられる。

 頭を振りながら立ち上がろうとする騎士の前で、パウラの唇が動いた。


 完成された詠唱が放たれると、きらきらと細かな氷の粒が降り注ぎ、降り積もり。

 首から上を残して、騎士の身体は氷漬けになる。


「まいった」


 あっという間に降参させられた騎士は、驚きながらも嬉しそうに見えた。


「姫君はお強い。

 噂にたがわぬ騎士のお血筋でいらっしゃる」


 歓声が上がる。

 

「パウラ様ー----!!」


 もう偽名もなにもあったものじゃない。

 競技場の観客は総立ちで、口々に彼女の名を叫ぶ。

 勝ち抜きの宣言を受けてパウラが退場しても、熱狂的な歓声はしばらく止むことはなかった。



 控室に続く通路に入ると、オリヴェルとイェーリクが待っていた。


「姫様、お見事でした。

 予想以上の人気で、これは次が楽しみです」


 レプリカの鎧の売上を皮算用しているらしい。

 イェーリクは上機嫌である。


 けれど。


「次はないよ。

 パウラはここまで」


 表情のない声が冷水を浴びせた。


「これ以上は許可できないね。

 パウラに何かあったら、取り返しがつかない」


 今更なにをと言いかけるパウラの腕を、イェーリクがそっと抑える。

 首を振って、あきらめろと促しているようだ。

 おさまりのつかないパウラは、それでも口を開いた。


「模擬戦ではありませんの!?

 大けがはありませんわ。

 それにケガをしたとしても、治療すればすむことですわ」


 今更止めるのなら、最初から言っておくべきだ。

 参加の許可を出した時、1度だけとは言わなかった。

 今になって、急に。

 どうして気が変わったのか。


「わたしがダメと言ったらダメなんだよ。

 後はもう、黙ってみておいで」


「なぜですの?

 なぜ急に」


「………………からだよ」


 不機嫌まるだしの低い声が、ぼそりと何かをつぶやいた。


「オリヴェル様?」


 聞き取れなかった。

 オリヴェルは何を言ったのか。


「姫様、お気持ちはお察ししますが、オリヴェル様は正試験官です。

 退くしかありませんよ」


 イェーリクの言うとおりだ。

 ここで出場をあきらめるのは、もう仕方ない。

 だが聞き取れなかったオリヴェルの言葉が、気になった。


「さぁ姫様。

 次はアルヴィド様とリューカス公子ですよ。

 お早くお着替えを」


 なんだか丸め込まれるようにして、控室に誘導される。

 そのパウラの背に、不機嫌な声がかけられた。


「わたしがイヤだからだよ。

 これ以上誰かの目にさらすの、わたしがイヤなんだ」


 振り返ると、オリヴェルがふいっと顔を背ける。


「アルヴィドや公子たちが、どんな目でパウラを見ていたか。

 気分が悪くなったよ。

 だからこれ以上はもうダメ。

 わたしが許さない」


 どうしてこうなる?

 パウラにはわけがわからない。

 模擬戦に参加して戦って、そして勝った。

 ただそれだけのことだ。

 多少騒がれはしたが、それは予想の範囲内で、そんなことは大会参加を決めた時からわかっていただろう。

 けれど今、オリヴェルが口にした辞退の理由は、パウラの予想の斜め上をいくものだ。

 

 まるで……。


 まるで嫉妬しているように聞こえてしまう。


「早く着替えておいで。

 今日はずっと、わたしの隣がパウラの席だからね」


 決定事項になってしまった?

 いつの間に?


 心あたりの全くない変わりように、パウラはただただ振り回されるばかりだった。

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