クラン結成
「・・・ふぅ。」
その日サガミは悩んでいた。 彼にしては珍しく、依頼について悩んでいるのではない。 ただただ個人的な悩みを今抱え込んでいるのだ。
「ん? どうした? お前がこの時間までいるなんて珍しいな。」
そう声をかけるのはギルドハウスのハウスメンバーのユクシテットだ。 彼はほぼこのギルドハウスにいる。 というのも彼は受付を始め、冒険者の指南、上層部への管理報告、ギルドハウス内の管理をほとんどこなしているので、彼がいないことは基本的にない。
そんなユクシテットだが、一応ギルドの人間として、1人に重点的に張り付くことは無いのだが、サガミだけにはひっそりとアドバイスをしていた。 というのもこの世界であまり職業としての情報が少ないかつ、みんなから避けられ、使えないと言われていた「調成師」に自らなった初めての人物。
最初こそユクシテットも疑問を持っていたが、彼の誰からも見られていない努力を汲み取ってあげようと思ったのがきっかけで、こうしてサガミにはなにかと目を見張っているのだ。
そんなサガミが依頼の紙とは別の紙を持ちながらため息をついているのを見て、ユクシテットは声をかけたのだ。
「・・・ユクシテットさん。 もう少しこの条件、低くなりませんか?」
そうしてサガミが差し出した紙には、こう書かれていた。
『Aランク昇格試験 及びBランク昇格試験
試験内容:昇格試験の登録を行ってから、内容をお伝えしています。 またAランクとBランクで試験内容が異なります。 また職業によっても内容を変更しております。
参加資格 Aランク:Bランクで1年以上Bランク依頼を完了する、もしくはギルドが認めるAランク級モンスターを討伐する(5人以下のパーティーでのみ認める)。
Bランク Cランクで1年以上Cランク依頼を完了する。
参加条件 BランクもしくはCランクの3人以上10人未満のメンバー』
昇格試験。 ギルドが設けるランクを上昇させるための試験である。 ランクが上がればそれだけ報酬もよくなるし、様々な素材を扱えるようになる。 ただその分相手にする魔物も強くなる。 生半可な知識で飛び込める程、Bランクは優しくない。
そしてなによりサガミが困っていたのが条件にある「3人以上10人未満のメンバー」という部分だ。 確かに協力者がいれば、それだけ依頼は完遂しやすいし、自分達の欠点を補えあえる。
しかしメリットもあれば、デメリットも存在する。 素材や報酬の分配は各パーティーで行うので、その都度話し合わなければならないし、手柄の事で揉め事にもなる。 これがサガミにとって、最も嫌いとする場所なのだ。
「いくらサガミの頼みでもそれは出来んな。 あくまでも上からの昇格試験だ。 こればっかりは崩れんだろう。」
そうユクシテットはあくまでも提供する側の人間。 依頼を作る側ではないので、そこまでの権限はない。 それでもサガミは「分かってますよ」とため息をついた。
「そもそもお前はランクなんかあげなくても十分に活躍してるし、生きていく上で困った資金繰りはしてないだろ? 制作提供代も色んな所から貰っとるんだし。」
「それでも素材には限界があります。 Cランクじゃ、少し高度な素材は僕でも扱わせて貰えないんです。 資格を持っていても、それとこれとは話が違うといつも言われて。」
「・・・お前の探求心なら好奇心やらには感心すら求められるが、そのワーカーホリックは直らん・・・いや、世の中の「調成師」達の事を思って考えているなら、先駆者の奴等の方の頑張りが足りないだけか。」
ユクシテットの質問に対した答えをサガミが言ったところで結局頭を抱えるしかなかったユクシテットであった。 そんなサガミに対してユクシテットは1つの提案をしてみることにした。
「ならクランを自ら作るのはどうだ?」
クラン 固定パーティーとも呼ばれる組織の1つ。 即席と異なりある程度人数を絞ることで、近状報告をしやすくし、かつスカウトなども可能にする。 構成や収容人数もクランによって様々で、大人数クランもあれば、少数精鋭クランもある。 クランの種類も三者三様である。
「クラン・・・ですか。」
「そうすればパーティーを組むのはクランメンバーのみになるし、お前の知人のみで構成できるから、気が楽だろ。 居場所が無いなら作るのも1つの手だぞサガミ。」
ユクシテットが話終えたところで、サガミは考える。 即席パーティーでBランク昇格試験を行っても、行動が違えば連携は取れず、意見も対立が多くなることになる。 サガミ自身それを苦手としている。 ならばいっそのこと、今回限りのクランでも構わないから作ってしまうのもありか、と。
「ユクシテットさん。 クラン作成の時って、どんな手続きが必要なんです?」
「基本的にはクラン名、リーダー、収容人数制限、後は加入条件だな。」
「加入条件?」
「「職業 剣士」のみとか、Bランク以上とかな。 条件を決めることで探す手間を省くんだ。 基本的には「初心者歓迎」やら「楽しくやりましょう」なんてのがあるが、それで行ってクランを辞める人間もいるから、ある程度条件がしっかりとしていないと面倒に巻き込まれるのさ。」
そう言った冒険者を何人も見てきたのだろう、ユクシテットはため息を1つ付いた。 サガミもサガミなりに苦労しているが、彼程ではないと自分でも分かっていた。
「うーん。 とりあえずクラン作成用紙を貰えますか? 条件とかは自分で決めたいので。」
「おう、そうしておけ。 ちょっと待ってろ。 すぐに持ってくる。」
ユクシテットが去って数秒で手元に「クラン作成用紙」を持ってくる。 サガミは手渡された用紙の概要を見ながら、どういう具合にクラン募集を募るか考える。
正直なことを言えばサガミとしては、個人的にBランクへと昇格をしたいだけであるのだが、パーティー前提の試験ではそうは行かない。 だが他者の力をほとんど借りずにここまで登り詰めてきたサガミにとっては、一番の無理難題にも差し掛かっていた。
「そもそも僕がクランリーダーの時点で除外する人が多いだろうからなぁ。」
そう、サガミのもう1つの懸念は、自分の職業が「調成師」という忌み嫌われている職業だということだ。 サガミの努力の甲斐あり、少しは改善されているとは聞いているが、サガミに実感はない。 実際に利害の一致によって入ったパーティーでも、正直普通の対応はされなかった。 その時点で大分絞られるわけだが。
「んー・・・条件は・・・まあこれでいいとして、人数は・・・そんなに要らないけど、クランにするならちょっとくらいは・・・」
そんなこんなで色々とやっているうちに出来上がったので、サガミはユクシテットのところまで用紙を持っていった。
『クランメンバー募集
リーダー サルガミット・コーナン
条件 「調成師」がいても構わない人
人数 10人まで』
「ま、妥当な条件だな。 んじゃ、あそこの部分に貼っておくぞ。」
「ありがとうございます、ユクシテットさん。 期待しないで待っていますので。」
「・・・どうもお前さんは自己評価が低いな。 実力なら折り紙つきなんだが、その性格が災いして、こんなことになってる気がしてならないな。」
「僕一人の「調成師」でどうにかなるような案件でもないと思うので。 そうだ。 なにか夜に来て欲しいような依頼はありますか? 最悪警ら依頼でもいいので。」
「・・・少しは気兼ねなく休むことをしてもいいんだぞ? まあいい。 これなら行けるだろ。」
そう言ってユクシテットはサガミの自分の身体を労らないかのような働きぶりに呆れつつも、サガミに依頼を渡すことにしたのだった。
「報告がお昼になってしまってすみませんユクシテットさん。」
昨日貰った依頼を遂行したものの、そのまま依頼主の家に泊めさせて貰ったサガミは、自分の借りている小部屋に行く前に、依頼完了の報告をしに、ギルドハウスに足を運んだのだった。
「おう、お疲れ。 なんだ、今日は来ねえと思ったぜ?」
「依頼が終わったことを伝えなければいけなかったので、こうして来たのですよ。 時間は掛かりましたが。」
「相変わらずなやつめ。 そんなお前さんに朗報だ。 お前の作ったクランに加入したいって奴が来てるぜ。 それも3人な。」
「え?」
サガミ自身もこれには驚いていた。 それもそのはず、作成したてのクランに、昨日の今日でクラン加入がくること等、滅多に無い事だと思っていたからだ。 しかも一気に3人もだ。
「向こうで待たせてるから行ってこい。 ま、お前なら入れるだろうがな。」
そう言うユクシテットの言葉の理解が出来ないままその待っているという場所に向かうサガミ。 そしてそこにいたのは・・・
「あ、サルガミット君。 良かった。 夜に依頼に行ったと聞いたので、来ないのかと思いました。」
「先輩。 クラン作成したのですね。 魔物鑑定はお任せください。」
「師匠。 同じ調成師として、パーティーを組みたいと思いました。」
そこにはマニュー、シンファ、ネルハがそこには座っていた。
「加入したいって言うのは、みんなの事だったの?」
「そうですよ。 と言っても知ったのはユクシテットさんからなのですが。」
「え?」
マニューの言葉に、サガミは疑問を持った。 確かに彼自身は貼っただけなので、こうして来てくれるだけでもありがたい話なのだが、広告もしていないのにクラン加入など出来ないなとはサガミも思っていたのだ。
「朝方に言われたのですよ。 「サガミがクランについて困っているようだから、協力してやってくれ」って。 理由までは話してくれなかったのですが。」
「でも師匠の事なので、特別な理由なのだろうと思い、こうして師匠が来るのを待っていたのです。」
「・・・はぁ、ユクシテットさん。 そんなことをしなくても・・・」
そう頭を掻きながら困っているサガミだったが、実際にこうして集まる事は無いだろうなと、気持ちながらに思っていたのもまた事実。 その辺りの感謝は忘れないサガミではあった。
「これは本当にユクシテットさんには、頭が上がらないや。 断る理由がないじゃないか。」
「師匠、それじゃあ・・・」
「3人とも。 僕に力を貸してくれないかな?」
「お力になりますよ。」
「当然ですね。」
「頑張りましょう、師匠。」
こうしてサガミの急造クランが結成されたのだった。
男1人に複数の女子がパーティーとかクランとかの集団に入るのは、こういった話では結構テンプレートだと思うのですが、どうでしょうか?