シンファの欠点
「今日はモージロー1体だけか?」
「はい。 あんまり大人数で行くのも、今回は流石に意味は無いですし。」
2人は目的地である竹林に行く馬車に揺られながらそんな他愛ない話をしている。
「しかしこのモージロー。 僕の事を全然恐れないね。 むしろ他の人より懐いてない?」
「モージローも先輩の優しさが分かるんですよ。 きっと。」
そう言いながらサガミは「アーマージーロ」であるモージローの丸まった姿をコロコロと遊んでいた。
魔物は本来は倒すべき相手ではあるが、「魔物使い」や一部の職業に関してはその魔物を自分の従者として「スカウト」という形で受け入れることが出来る。
ただし魔物を必ずしも従者として受け入れるわけではない。 相手が弱っている、魔物が興味を示しているとき、魔物の親が魔物使いに託した時など、色々な条件が揃った時でなければ魔物は従者として受け入れられないのだ。 また自分よりも強い魔物なども従者にすることは出来ない。 無理に従わそうとしても返り討ちに合うからである。
そんな中でもシンファは優秀で、彼女の家には50種類もの魔物が生息している。 しかも放牧できる程の土地を持っている。 これは彼女の親がお金持ちだとか、彼女自身がお金持ちとかそう言ったものではない。 彼女の功績による報酬のものだ。
彼女の優れているところは「変異種や希少種でも懐かせてしまう」ことにある。 彼女が今つれているアーマージーロも、生息地帯の不明だった魔物で、彼女自身もアーマージーロについて目下研究中なのである。
「うーん、この鎧みたいな殻で自分の身は護れるんだよね。 普通の魔物じゃ噛み砕くことも出来ない。 それにそう簡単には剥がれないし。」
「それにこの子は爪がスゴく伸びるんです。 だからたまに堅い壁のところでガリガリとやっている時は、おそらく爪を削っているんだろうなって思います。」
2人でモージローの観察をしている。 モージローも観られているのが分かっているのか、顔を埋めるばかりだ。
「恥ずかしがっているのかも知れませんね。」
「そうかもね。 今回は戦わせるのかい?」
「観察だけなら今回も戦わせませんよ。 討伐なら、もっと適任な子を呼んできますので。」
そしてシンファは魔物で戦わせるのを好まない。 と言っても魔物使いである以上は戦わざるを得ないので、心苦しさはあるようだ。
そんな2人を乗せた馬車は、目的地近くのところで停車をした。
「あ、着きましたか? すいません、これ料金です。」
「本当に竹林ですね。 その中からウッドシャークの変異種を探すの大変そうですね。」
「竹林・・・竹だからその変異種の名前は「バンブーシャーク」と名付けよう。 とはいえ竹の中に潜んでる、としか情報が無かったから、後は手探りなんだよねぇ。」
「気長に散策しませんか? いきなり現れることはないと思いますし。」
「そうだね、こちらが敵意を見せなければ相手も様子見で済むだろうね。 さ、行こう。 僕の勘だと敵は竹林の奥だよ。」
そうして2人は竹林の中へと入っていくのだった。
「あの、先輩。 これを聞くのは先輩の気分が悪くなるかも知れないんですけど・・・」
竹林の中を歩いて30分ほど経った頃、シンファは緊張を解すために、なにか会話がないかと模索していた。 そして思い浮かんだ質問をする前に、サガミにその質問に対する明確な受け答えの申し出が必要だったと考え、先に聞いていた。
「内容にもよるけど・・・なに?」
「どうして先輩は、最適応職業ではなく、あえて「調成師」を選んだのかなと思いまして。 似たり寄ったりな職業が無いとは言え、わざわざそんなマイナーな職業にしなくても、先輩なら普通にやれていたと思うのですが。」
普通の人からしてみれば、自分の職業は当然適応しているものを選ぶ。 だがそうでなかったサガミに後輩ながら、いや、後輩だからこそ、聞きたかったことなのだ。 だがそれを聞いて、もし嫌われてしまったらとシンファは恐れていたのだ。
「どうして・・・か。 そんなに対した理由じゃ無いんだよね。」
サガミは竹を叩きながら、こう答えた。
「確かに僕の適性職業は「生成者」だった。 でも同じ様に作れるのならば、もっと幅は広い方がいいって思っただけだし、「調成師」の職業があったとき、「みんなが忌避してるのは、それが未知なる職業だからであって、知ってもらえれれば忌避すること無いんじゃないか」って思ってさ。」
「でも、そのせいで先輩は、とても苦労したと聞いています。」
「ユクシテットさん喋ったんだ。 もう気にしていないから言わなくてもいいのになぁ・・・」
そんなことを思いながら悲しくしていると、サガミは表情を変える。 シンファも気が付いたのか、喋るのを止めた。
「先輩、何処に潜んでいると睨みますか?」
「・・・あの竹。 あの竹の笹の部分の一部の脇枝の生え方が他と少し変わってる。 シンファは?」
「あの竹です。 節のところが少し黒ずんでいます。」
2人は竹自体の変化から、「バンブーシャーク」が潜んでいるのではないかと睨んでいた。 そもそも原種扱いの「ウッドシャーク」が木々の木目に擬態しながら生活をして、その木目に気が付かずに近付いた昆虫などを食料にしている魔物である。 その性質を利用して「バンブーシャーク」も擬態していると推測している2人だが、今回の相手は竹。 だけどの僅かな模様に化けるのは魔物にとっても難易度が高い。 それでも変化がある場所は見落とせないのだ。
するとシンファの肩に乗っていたモージローが地面に降りて、テクテクと歩き始める。 そして鼻を「スンスン」と鳴らしている。
「モージロー。 なにか変化が分かるのかな?」
「どうでしょうか? でも野性の勘を見てみましょう。」
そうしてモージローがある竹の前に立った。 その竹は筋が不均等であった。 特に不自然に1ヶ所だけ間隔がおかしくなっていた。
「なるほど。 あの節目だね。 下がってて、2人とも。」
そういうとサガミは自分の業物を持ち、左手の業物をその節目に投げてみる。 すると「ガチン」という、竹ではあり得ない音がした。 そしてその正体である「バンブーシャーク」が姿を表した。 全身が竹色をしているので、口を開かなければ、本当に竹だと思ってしまう程の擬態力だ。 節だと思っていたのは背びれらしい。
「ん。 結構固いや。 投げるだけじゃ力にならないか。 じゃあ、力任せかな!」
そう言って懐に飛び込んで竹を切る。 しかし本物の竹を切っただけのようで、バンブーシャークは切られていない根元付近に移動していた。
「竹の中を移動しているのか。 それとも表面だけなのか・・・これでハッキリする!」
今度は上から縦割りを行う。 するとバンブーシャークは驚いた様子で別の竹に飛び移った。 その時に本の少しだけ尾びれが切れたが、後は奥へ奥へとバンブーシャークは逃げていってしまった。
「ウッドシャークの場合は幹の模様に化けるから見つかりにくいけど、見つかったらその木を簡単にはやらせまいと飛び出すことがあるけれど、その動きは遅いんだよね。 でもさっきのバンブーシャークはその逆、竹が折られやすい事を知っているから、瞬発力に特化しているのかな。 僕の「敵観察」も間に合わない程の速さか。 この依頼は優先的に受注していこうかな。 2人とも大丈夫?」
そう聞いたのだが返事はない。 どこにいるのかと探していると、サガミの真下にあったバンブーシャークの尾びれを観察していた。
「はぁ・・・これがバンブーシャークの尾びれですか・・・ウッドシャークと違ってかなり薄く軽いですね。 これによって機動力を兼ね備えている、と。 しかも竹から離れてしまえば色も少し落ちていますね。 バンブーシャークの体についている時に色が変わるということはバンブーシャークの体内循環するなにかによって擬態をしているという訳ですね。 あ、でもそれならバンブーシャークが逃げる時に自決することもあるのかな? だとしたら素材だけでも・・・」
そうぶつぶつと鼻息を荒くして1人で語っていた。 そしてシンファはサガミの視線に気が付き顔を真っ赤に染めながら縮こまってしまった。
「す、すみません先輩・・・やっぱり・・・まだ癖が抜けてなくて・・・」
そう申し訳なさそうに言うシンファ。 シンファは「魔物の生体について興奮気味に語る」というのが癖であり、これのせいでパーティーを組んだメンバーはおろか、同じ魔物使い達にも引かれる位の欠点になってしまっていた。 今は少し落ち着いているのだが、それでも一人語りを唐突に始められては誰しもが引いてしまう。
しかしサガミはそんなシンファに優しく微笑みかけた。
「僕は別に気にしてないよシンファ。 それにシンファが考察してくれるお陰で、僕も助かっているんだ。 レポートを書くのにとても重要な事だからね。 他の人の時は抑えないといけないかもだけど、僕の前ではいつものシンファでいいよ。」
サガミだけは彼女を受け入れている。 これは外れた者同士の同情ではない。 サガミは最初から彼女の欠点に対して個性の1つとしか思っていないのだ。
そう言い返すと、サガミは先程の竹を観察していた。
「あ、これ砂糖の原料がある。 そっか、これはとうきびに似たような植物なんだ。 シンファ、折角だからとうきびジュースでも・・・」
そう振り返った時のシンファは、先程の顔の赤さとは違う赤みを帯びた顔をしていた。
「シンファ? 大丈夫?」
「・・・はっ! だ、大丈夫です! ジ、ジュース貰います!」
急に大声を出された事に驚いたサガミだが、特に気にすること無くとうきびジュースを作成していた。
その後ギルドハウスに戻って「バンブーシャーク」の生体とそこで生えていたとうきび竹を持ち帰り、サガミ達の依頼は終了するのだった。
「先輩! またご一緒、させてくださいね。」
「いいよ。 また近いうちに。」
そう言い残してサガミとシンファは別れたのだった。