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勇者パーティーとの会合

 サガミ達が連れてこられた場所だが、ハッキリ言えば本当に同じ星の土地なのか?と思えるくらい、今までに行ってきた空間とは異なっていた。


「そんなに畏まる必要はない・・・と、君達に言っても無理だろうね。 だけどその緊張は間違っていない。 むしろ他に集中できる程周りを見ているとも言える。」


 サガミはマサトから褒められていること()()しか分からない。 何故なら気を抜いた瞬間になにが飛んでくるか分からない場所に呼び込まれ、気が気でならないのだ。 他のみんなも感性は違うものの緊張は全く抜けていない。


「・・・話をするなら手短にお願いできますか? 生憎とBランカーが立ち入るような空間でも無さそうなので。」

「そうだね。 ここは少なくとも君達の知っている、地図に乗っている地上じゃない。 そしてAランカーでもそう簡単には辿り着けない下層部に君達はいるからね。」


 なぜそんなところにわざわざ呼んだのかとサガミは言いたかったが、一時的な感情による行動は自分の首を絞めかねない。 今はどちらにも下手に波風立てないのが得策だとサガミは思っていた。


「では安心することを1つだけ教えておこう。 確かにここは下層部だし外には敵がわんさかいるが、この場所は外からは侵入できない仕組みになっている。 つまり僕がこの場所に呼ばなければ入ってこれない空間なんだ。 だから安心してとは言えないけども、少なくとも、変な緊張はしなくてもいい。」


 そういうことではないと頭を抱えそうになったサガミだったが、現状を変えることなど出来やしないので、言いたい気持ちを堪えた。


「・・・それで、話と言うのは?」


 ようやくサガミは言葉を絞り出して、聞きたいことを聞くことに成功した。


「そうだね。 まずはそちらの彼女、ハヤカと言ったよね? 彼女の処遇について・・・」

「あ、それなら知っています。 異世界人、なんですよね? どうやってこの世界に来たかまではさすがに分からないですけれど。」


 サガミが簡潔に話すと、マサトも話が早いと言わんばかりの表情をした。


「では単刀直入に言おう。 僕達は彼女の身柄を引き取りに来たんだ。」

「身柄を?」

「この世界の事が不慣れである以上、この世界の事を知っている異世界人と共に行動した方が、勝手が良くなると思ってね。」


 マサトはハヤカの身を案じている。 最初こそ勇者のように振る舞っていたが、今ではただの友人と会話するかのように穏やかになっている。 しかしサガミ達の緊張が抜けきったわけではない。 そしてなによりもハヤカについて、彼女からの意見がまだ無いからだ。 考えてはいるのだろうが、急に答えは出てこない。


「ま、それはそうだよな。 簡単に答えなんか出ねぇよな。」


 後ろにいたジュンは納得している。 その辺りは暴君のようでなくてサガミは安心している。


「ではハヤカが結論を出そうとしている間に、今度はサガミ君。 君の事を教えてもらいたいかな。」

「僕のなにを知りたいんですか?」

「そうだねぇ。 君の実力についてかな?」


 実力と言われたサガミは首を傾げる。 何故勇者として崇められている人物から、自分の実力について知られたがっているのだろう? しかしそれを聞いたところではぐらかされるだけだろうと思ったサガミは、まずは自分の事を少しでも捻り出してみることにした。


「ええっと・・・「調成師」でスキルは「敵観察」と「目標索敵」。 後最近は「使役」も使えるようになってて・・・Bランクには上がったけれど、まだまだ実力と言えるほどのものじゃ・・・」

「はいストップ。 どうやら君は大きな勘違いをしているようだ。」

「勘違いなんかしてない。」


 マサトの言葉に真っ先に反発したのはシルクだ。 実力差は分かっているので、食って掛かることは無かったが、サガミは内心シルクがマサトに対して組伏せるのではないかと肝を潰した。 しかしそんなことを知っていたかのようにマサトは言葉を紡いだ。 ハヤカはまだ悩んでいるようだ。


「分かっているよ。 僕の言った勘違いは、自分の実力を()()()()している事についてだよ。」

「・・・え?」


 サガミは固まった。 自分の事を評価している筈なのに、なぜそう思われているのか、理解が追い付かなかった。


「ど、どういう、事ですか? 過小評価、というのは?」


 聞いたのはマニューだった。 それに答えたのはジュンだった。 ただしマニューに対してではなく、サガミに対してだが。


「お前、本当の適正職業はなんだった?」

「「生成者」です。 生み成すっていう方の。」

「元々は作ることが得意な職業だった。 だけど今の職業になったことによって、もっと作れるものが増えた。 そして信頼しあえる仲間も増えて、自分は出来ることを増やしていって。」

「あの、それでなんで過小評価に・・・」

「その職業を選んだことによって、君の素の実力がずば抜けているんだ。 それこそ、Aランカーになれる程の実力をね。」


 サガミは今度こそ驚いた表情をした。 今までは驚きつつも露骨には出していなかったが、こればっかりは驚かざるを得ない。 そんなことを親からも言われたこともなければ、言ってきたのが名高い勇者なのだから。


「マサト、彼女の答えが出たようよ。」


 ヨコエの言う通り、ハヤカは決意を決めた表情をしていた。 その瞳に一心のブレもない。


「答えを聞かせてもらおうかな。 君がどうしたいのか。」

「私は、勇者さん達の所には行きません。 私も、彼の所に残ります。」


 その言葉にマサトを始め、ジュン、ヨコエも納得したように首を縦に振った。


「そうか。 まあ分かってはいたことだけれどね。」

「え?」

「考えてもみなよ。 いくら境遇が似ているからって、なにも知らない人物から「仲間にならないか?」と言われて仲間になりたいと思うかい? ましてやもうクランメンバーとして活動している人間に対して、だ。」


 そう言われると確かにと納得してしまうサガミであった。


「一応聞いておきたいんだけど、僕達側に来なかった理由を聞いてもいいかな?」

「そう・・・ですね。 先程も言われたように、私はあなた達をこの世界の勇者だということを知らないし、言われても真実だとは思えない。 それに私はこの世界の事を知らないから、あなた達に守られてばかりだと、見えてくる世界も見えてこないって思ったから。 私、絵描きだし。」


 最後の理由は良く分からないサガミ達だったが、マサトはなにかを察したようで、うんうんと頷いていた。


「それなら彼女の事は君に託そうかなサガミ君。 とはいえ僕達と同じ境遇なだけで後はなにも変わらない普通の女の子だから、他の子達同様に、面倒をみてほしいかな。」

「それは言わずもがな、というものです。 関わった以上は見捨てないですよ。 僕は。」


 サガミが笑うと、マサトも笑う。 そしてマサトは席を立つ。


「話も終わったことだし、帰す準備をしよう。 ここにいると空気の違いであてられる可能性があるからね。 とはいえ君達ならここには来れるかもね。 それもそう遠くない未来に。」


 それが冗談か本気かは、サガミには分からなかった。 そして魔方陣のところに向かおうとした際に、マサトは足を止めた。


「おっとそうだ。 これも話しておこうと思ってたんだった。」


 マサトについていっていた全員が足を止める。 そしてマサトは振り返り、サガミを見やる。


「君達がAランク帯になって、こちらに足を踏み入れることになった暁には、君達のクランを僕達は直々にスカウトしに行く予定だから。」

「・・・え?」


 まさかの勇者直々のスカウトと聞いて、今のサガミにはこれ以上頭の中に情報を入れるキャパシティは残っていなかった。


「君達の実力なら、この場所の上階に辿り着くことは容易ないと思っている。 だからこそ、君達が実力を付けてきた時、その力を後に来たりうる厄災の為に振るって欲しい。 我々はそれを望んでいる。」

「望んでいるって・・・」

「当然今すぐにと言うわけではないからね。 僕達は待っているさ。 さ、この召喚陣に乗るんだ。」


 そう言ってマサトに施されるサガミが、召喚陣に最初に乗る。 他のみんなはまだたじろいていたが、最初に動いたのはマニューだった。


「サルガミット君の力は、ちゃんと伝わります。」


 そう言ったマニューはサガミの右肩に身体を寄せていた。 それに触発されたかのようにシンファも動く。


「魔物の事ならなんでも聞いてください。 先輩のお役に立てるなら本望です。」


 シンファはマニューとは逆側の左腕に絡み付くように身体を寄せた。 それにハッとするかのようにネルハも続いた。


「調成師の力を、もっともっと広げていきましょう! 師匠!」


 ネルハはサガミの右手を自分の両手で掴む。 そして左手に同じ様にシルクがやっていた。


「父さんは強い。 誰も認めなくても、ボクが認める。 それは揺るぎ無い事だから。」


 そんなサガミの姿を見て、ハヤカはぐっとなにかを堪えるような表情をした。 するとヨコエがそんな彼女の両肩を叩いた。


「ライバルは多いわよ。 ここで少しでも近付いておかないと、もうどんどん離されていくわ。 心を奪った相手なら、相手の心も奪えばいいのよ。」


 ヨコエの囁くような言葉に、ハヤカは顔を赤くする。 そして意を決したように前へと進み、サガミの胸に飛び込んだ。 サガミも他のみんなもそれはそれは驚いたのだった。


「ははは。 君は本当に恵まれているな。 それじゃあ、また会える日まで。」


 そうして魔方陣が光りだし、サガミ達は元の場所へと帰還するのだった。

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